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第1章 絶頂の蒼獄
1-1.南半球の王
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2021年11月某日。
乾いた季節風が、オーストラリア北東部――ケアンズ郊外の海辺をなぞるように吹いていた。
珊瑚海はその日、異様なほど静かだった。白く砕けるはずの波は抑え込まれ、鉛色の水面が不気味な均衡を保ったまま、水平線まで続いている。
その静寂を切り裂くように、海へと突き出した漆黒の構造物が一本、突端のように佇んでいた。
窓はない。
外壁には装飾も銘板もなく、光を拒むような黒が、昼下がりの太陽を吸い込んでいる。
建築物というより、海岸に打ち捨てられた巨大な棺、あるいはこの土地に封じ込められた「意思」そのもののようだった。
内部には、数百トンに及ぶ浄化済みの海水が満たされている。
人の気配を拒む完全密閉の空間で、水は冷えきったまま沈黙し、わずかな振動すら許さずに眠っていた。そこでは音も、時間も、外界とは切り離されている。
この異様な建造物の名前は「HADAL」。
これを造らせたのは、オーストラリア・ケアンズを本拠とするフィンテック企業「ブラックドッグ」CEO、エドワード・黒崎。
彼は自らの名声も未来も担保にするように、私財のすべてを投じてこの施設を完成させた。
用途はただひとつ――動画撮影。
逃げ場も、観客も、偶然も存在しない、完全密室の舞台。
それは、美のための装置であり、同時に狂気の結晶だった。
エドワード・黒崎は、普段はブラックドッグ社長だが、今日だけは狂気の動画配信監督となる。
彼は既存のポルノグラフィを「魂のない肉のぶつかり合い」と断じ、人間の肉体が極限状態で見せる「本能の輝き」を追い求めていた。
彼が欲したのは、死の淵でこそ花開く究極のエロティシズム。
そのために構築されたのが、10の試練を備えた、縦横50メートル、深さ2メートル~120メートルの巨大な垂直プールである。
特筆すべきは、最深エリアの120メートルの水底の端に、直径10メートルの穴が口を開けている。
そこからさらに下80メートル・水深200メートルまで伸びる穴は、黒崎の狂気の象徴であった。
乾いた季節風が、オーストラリア北東部――ケアンズ郊外の海辺をなぞるように吹いていた。
珊瑚海はその日、異様なほど静かだった。白く砕けるはずの波は抑え込まれ、鉛色の水面が不気味な均衡を保ったまま、水平線まで続いている。
その静寂を切り裂くように、海へと突き出した漆黒の構造物が一本、突端のように佇んでいた。
窓はない。
外壁には装飾も銘板もなく、光を拒むような黒が、昼下がりの太陽を吸い込んでいる。
建築物というより、海岸に打ち捨てられた巨大な棺、あるいはこの土地に封じ込められた「意思」そのもののようだった。
内部には、数百トンに及ぶ浄化済みの海水が満たされている。
人の気配を拒む完全密閉の空間で、水は冷えきったまま沈黙し、わずかな振動すら許さずに眠っていた。そこでは音も、時間も、外界とは切り離されている。
この異様な建造物の名前は「HADAL」。
これを造らせたのは、オーストラリア・ケアンズを本拠とするフィンテック企業「ブラックドッグ」CEO、エドワード・黒崎。
彼は自らの名声も未来も担保にするように、私財のすべてを投じてこの施設を完成させた。
用途はただひとつ――動画撮影。
逃げ場も、観客も、偶然も存在しない、完全密室の舞台。
それは、美のための装置であり、同時に狂気の結晶だった。
エドワード・黒崎は、普段はブラックドッグ社長だが、今日だけは狂気の動画配信監督となる。
彼は既存のポルノグラフィを「魂のない肉のぶつかり合い」と断じ、人間の肉体が極限状態で見せる「本能の輝き」を追い求めていた。
彼が欲したのは、死の淵でこそ花開く究極のエロティシズム。
そのために構築されたのが、10の試練を備えた、縦横50メートル、深さ2メートル~120メートルの巨大な垂直プールである。
特筆すべきは、最深エリアの120メートルの水底の端に、直径10メートルの穴が口を開けている。
そこからさらに下80メートル・水深200メートルまで伸びる穴は、黒崎の狂気の象徴であった。
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