「深淵のサラ」 〜極限の潜水パフォーマンスに挑む金髪の美姫。独占欲に溺れるCEOと、立ちはだかる女帝たち〜

Mina_Underwater

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第6章 緋色の龍宮(龍墜)

6-6.ドローンの急襲

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ある晴れた日の午前。
アール島西側の断崖の縁、突き出した岩の先。サラの足指が、ざらついた岩肌をしっかりと掴む。

遮るもののない太陽が、一糸纏わぬ彼女の肢体を灼き、北東の風がその柔らかな曲線をなぞるように吹き抜けていった。

黒崎は仕事のため、今日はサラひとりだ。最近、ひとりが多い。
サラは深く、腹の底まで潮風を吸い込む。

眼下には、底知れぬ深みを湛えた紺碧の鏡面。
彼女は視線を一点に据えると、迷いなく空へと身を投げた。

重力から解放された肉体が、鮮やかな放物線を描く。
高さ15メートル。落下するわずかな時間、彼女は空気を切り裂く風の鋭さを全身の肌で享受した。

空中で姿勢を垂直に固定し、指先を鋭く揃える。
そして――。

「……ッ!」
(うふふ、今日は完璧!)

水面を貫く衝撃。
しぶきをほとんど立てない、芸術的な「ノー・スプラッシュ」だ。

数日前、入水角度を誤って腿に青あざを作った屈辱を、サラは完璧なリベンジで上書きした。

水中に入った瞬間、静寂がすべてを支配する。
一筋の気泡の尾を引きながら、彼女はドルフィンキックで深く、さらに深く潜っていった。

水深を増すごとに、水の粘度は増し、冷ややかな感触が肌を包み込む。
太陽の光が青いベールに濾過され、頭上の水面が揺らめく銀色の膜のように遠ざかっていく。

水深30メートル。
肺にかかる重厚な水圧が、今はむしろ心地よかった。

視界の少し先には、建設途中の銀色の巨大構造物「龍宮」が、不気味な触手のように海底へと伸びている。

その時、重く低いプロペラ音が鼓膜を震わせた。

(またヘンリー……? 毎日毎日飽きないのかしら。本当にしつこいんだから)

ヘンリーの操る撮影ドローンだと思い込んだサラは、呆れたように内心で毒づいた。

しかし、その音がこれまでにないほど重厚で、多方向から自分を圧迫していることに気づく。

(……待って、今日は妙に近いわね?)

不審に思い、彼女が水中で身を翻した時だった。
背後の岩影から滑り出してきたのは、ヘンリーの小型ドローンなどではない。

鋭い赤のLEDを眼光のように光らせる、8機の大型水中ドローン。
それらは軍隊のような正確さで、瞬く間にサラを包囲した。

「?!」

驚愕で目を見開いた瞬間、ドローン下部のランチャーから捕獲網が射出された。

強靭な合成繊維の網が、頭上からサラを覆い尽くす。
8機のドローンは互いに連携を取りながら、網の端を曳航して彼女の肢体を締め上げていった。

もがけばもがくほど、網はしなやかに、かつ無慈悲に絡みつく。
自由を奪われた彼女は、8機の推力によって深淵へと引き摺り込まれていった。

2分後、連行されたのは、「龍宮」の脇に刻まれた幅3メートルほどの深い溝。
水深は優に45メートルを超え、太陽の光はもはや届かない。

ドローンたちはそこで静止し、サラを溝の底へと押し込めた。
網に封じられ、指先ひとつ動かせない絶望的な拘束。肺に残ったわずかな酸素が、恐怖とパニックで急速に燃え尽きていく。

(苦しい……私、ここで……)

意識が暗転しかけた、その時だった。
サラを監禁していた8機のドローンのLEDが、一斉に赤から青へと変色し、激しく明滅した。

駆動音が不自然な高音を上げたかと思うと、次の瞬間、すべてのプロペラが完全に停止した。
なぜ止まったのか、何が起きたのか。サラには理解する余裕すらなかった。

拘束のテンションが抜け、網が自重でゆっくりと沈んでいく。
ようやく手足が自由になった。
しかし、安堵する間もなく、猛烈な痛みが彼女の視界を襲った。

(う、しみる……! 何これ、目が……!)

焼けるような激痛。
まるで強酸を流し込まれたかのような感覚に、サラはパニックになりながらも、本能のままに網の隙間から這い出した。

視界を失いかけながら、彼女は命の灯を燃やすように、水面を目指して力強く蹴り上げた。
必死に上昇を続けるうち、いつしか目の痛みは霧が晴れるように消えていた。

光が差し込む水面を割り、サラは激しく肺に空気を吸い込んだ。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

波間に漂いながら、彼女は荒い呼吸を繰り返す。
海底で起きたあの不可解な捕獲劇。
そして、理由もわからず停止した機械の群れ。

サラは静まり返った海面を見つめ、震える指先で自分の顔を拭った。
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