「深淵のサラ」 〜極限の潜水パフォーマンスに挑む金髪の美姫。独占欲に溺れるCEOと、立ちはだかる女帝たち〜

Mina_Underwater

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第6章 緋色の龍宮(龍墜)

6-15.深海の告発

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水深60メートル。
太陽の光も届きにくいこの蒼い監獄の淵で、サラはそれを見た。
奈落のような掘削穴の奥底から、ゆらゆらと立ち上る「赤」。
リーだった。彼女は水深70メートルを超える極限の暗黒に、じつに4分以上も留まっていた。

人間であれば肺が潰れ、窒息してもおかしくない時間と圧力だが、彼女の超人的な肺活量は、恐怖を凌駕していた。
2人は水中で合流し、互いの腕を強く掴み合う。
リーの右手には小型のセンサーが握られていた。

そこからは目に見えないメタンガスが陽炎のように立ち上り、海水の屈折率を狂わせていた。
リーは水中マスクをしているが、サラはノーマスクだ。
次第に目が沁みてくるサラ。

2人は並んで力強くキックを開始し、静かに水面に出る。
そして、息を整えて、再度潜る。
隠密の潜行だ。

下手に海面に浮上すれば監視網に掛かる。
2人は水深40メートル付近を維持したまま、黒崎のモーターボートへと向かって一直線に泳ぎ始めた。

蒼い闇の中を、二体の体が魚のようにしなやかに潜行していく。
その姿は、まるで海を舞う妖精か、あるいは獲物を追う美しい捕食者のようだった。

その頃、沖合200メートルに停泊する蒼溟重工の調査船では、ソナーのモニターが鈍い電子音を響かせていた。

「……ん? 船底付近、高速で移動する熱源反応が2つ」

「何だ、この動き。人間か?」

オペレーターが怪訝そうに目を細めるが、隣の主任が鼻で笑った。

「馬鹿を言え。この深さをノーフィンでこの速度? イルカかサメのつがいだろう。放っておけ」

そうして、二体の「人魚」は監視の目を潜り抜け、黒崎の待つモーターボートの真下に到達した。
船底のハッチからサラとリーが甲板へ這い上がったとき、待ち構えていた黒崎とヘンリーは、2人の尋常ではない形相に息を呑んだ。

「……なんか、感じたよね、サラ」

リーは濡れた髪をかき上げ、激しく咳き込んだ。その喉からは、海水と混じった鉄の味がする。

「ええ。あの穴の底、ガスが漏れ出している……。それも、尋常じゃない量よ」

サラが肩で息をしながら補足する。

リーは震える手で、握りしめていたセンサーを黒崎に突きつけた。

「……見て。爆発限界を優に超えているわ。専務たちが会長に黙って進めていた掘削のせいで、海底の地層がズタズタよ。龍宮の真下は、今や巨大なガス溜まりの上に浮いているようなものだわ」

「そんなに酷いのか」

黒崎の声が険しくなる。

「ええ。でもね、もっと最悪なことがあるの。あの穴の真上には、私が作った龍宮の巨大な基礎コンクリートが居座っている。建物が邪魔で、上から工事用のセメントを流し込むことも、噴出孔を塞ぐことも物理的に不可能なのよ……」

リーは全裸のサラの肩に縋るようにして、その場に膝をついた。
数日後の有識者会議で下されるであろう「死刑宣告」を、リーはこの時すでに、細胞レベルで予感していた。

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