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第6章 緋色の龍宮(龍墜)
6-20.静寂への宣告
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午前8時。
運命の正午が、刻一刻と死の帳(とばり)を下ろそうとしていた。
未完成の海中都市「龍宮」は、一度も命の脈動を宿すことなく、巨大な鋼鉄の棺桶となって紺碧の深淵に沈んでいる。
かつて数多の野心が注がれたメインロビーに、もはや華やかな完成予想図の面影はない。
天井からは剥き出しの配線が内臓のように垂れ下がり、積み上げられたままの資材が、墓標のごとき冷たい影を床に落としていた。
その死んだ空間を切り裂くように、無機質な合成音声が冷酷に響き渡る。
『――通告。本日正午、当施設は構造上の安全確保のため、全域において緊急解体爆破を実施する。全職員および工事関係者は、直ちに指定の避難経路に従い、1キロ圏外へ離脱せよ』
静寂を破る警告。
現場の職人たちは、顔にこびりついた埃を拭いもせず、忌々しげに舌打ちを漏らした。
「3日前倒しだと? 冗談じゃねえ、まだ道具もまとめてねえぞ」
「上が決めたことだ。文句はあの世で言え、早くズラかるぞ!」
彼らにとって、この壮大な海中都市は、夢の結晶などではなく、ただの不吉な工事現場に過ぎない。
作業員たちは重機を無造作に放り出し、獣の群れが逃げ出すように、陸地へと続く連絡通路を走り抜けていった。
11時を回る頃、最後まで残っていたプロジェクトの基幹メンバーたちも、次々とその姿を消した。
彼らを追い立てたのは、迫りくる爆破の恐怖だけではない。
独り、死にゆく施設に残ることを選んだリー。
その瞳の奥に、深海よりも底知れない「狂気」が静かに、しかし鮮烈に宿っているのを、彼らは見てしまったのだ。
「龍宮」は、ついに主(あるじ)と静寂だけを取り残し、崩壊の時を待つ揺り籠へと変貌を遂げた。
運命の正午が、刻一刻と死の帳(とばり)を下ろそうとしていた。
未完成の海中都市「龍宮」は、一度も命の脈動を宿すことなく、巨大な鋼鉄の棺桶となって紺碧の深淵に沈んでいる。
かつて数多の野心が注がれたメインロビーに、もはや華やかな完成予想図の面影はない。
天井からは剥き出しの配線が内臓のように垂れ下がり、積み上げられたままの資材が、墓標のごとき冷たい影を床に落としていた。
その死んだ空間を切り裂くように、無機質な合成音声が冷酷に響き渡る。
『――通告。本日正午、当施設は構造上の安全確保のため、全域において緊急解体爆破を実施する。全職員および工事関係者は、直ちに指定の避難経路に従い、1キロ圏外へ離脱せよ』
静寂を破る警告。
現場の職人たちは、顔にこびりついた埃を拭いもせず、忌々しげに舌打ちを漏らした。
「3日前倒しだと? 冗談じゃねえ、まだ道具もまとめてねえぞ」
「上が決めたことだ。文句はあの世で言え、早くズラかるぞ!」
彼らにとって、この壮大な海中都市は、夢の結晶などではなく、ただの不吉な工事現場に過ぎない。
作業員たちは重機を無造作に放り出し、獣の群れが逃げ出すように、陸地へと続く連絡通路を走り抜けていった。
11時を回る頃、最後まで残っていたプロジェクトの基幹メンバーたちも、次々とその姿を消した。
彼らを追い立てたのは、迫りくる爆破の恐怖だけではない。
独り、死にゆく施設に残ることを選んだリー。
その瞳の奥に、深海よりも底知れない「狂気」が静かに、しかし鮮烈に宿っているのを、彼らは見てしまったのだ。
「龍宮」は、ついに主(あるじ)と静寂だけを取り残し、崩壊の時を待つ揺り籠へと変貌を遂げた。
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