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第6章 緋色の龍宮(龍墜)
6-21.孤独な王座と戦慄の記録
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午前11時
人影の消えた龍宮、その地下の「プレミアム・ダイブ」の部屋。リーは、自分を縛るすべての装束を脱ぎ捨てていた。
一糸纏わぬ全裸。
その肢体は、非常灯の赤い光を反射し、まるで深海の奥底で目覚めたばかりの、禍々しくも美しい女神のようだった。
彼女は素足のまま、冷徹なまでに磨き上げられた床を歩いた。
自らが人生を賭けた「城」。その最期を、彼女は生まれたままの姿で、ただ1人で迎えようとしていた。
午前11時50分
リーは据え付けられている椅子に深く腰を下ろすと、携帯電話で、別区画のメンテナンス室にいるヘンリーへ電話を入れた。
「……ヘンリー。聞こえる?」
「……はい、社長。準備はすべて整っています」
電話越しに聞こえるヘンリーの声は、極度の緊張で張り詰めていた。メンテナンス室のコンソールに向かう彼の指先は、僅かに震えている。
「始めて、ヘンリー」
リーの静かな命令が、世界の終わりの合図となった。無線越しにキーボードを叩く乾いた音が聞こえる。ヘンリーが最終プロテクトを解除し、暗証コードを入力した。
「……起爆装置、起動。カウントダウンを開始します」
司令室のメインモニターに、血のような赤で刻まれた数字が浮かび上がった。
【 10:00 】
海底の支柱、アクリルパネルの基部、そしてメインシャフト。昨夜2人がかりで仕掛けた「100個の火種」が一斉に「起爆待機」へと変わり、不気味な赤い光を点灯させた。
「……行きなさい。早く逃げて、ヘンリー。エントランスからなら、今すぐ走れば間に合うわ」
「社長……」
「私はもうエントランスにいるわ、外で会いましょう」
一瞬の沈黙の後、ヘンリーの声が返ってきた。
「……わかりました。すぐ行きます」
リーは何も答えずに電話を切った。ただ、満足げに微かに口角を上げ、プールの蒼い深淵を見つめた。
午前11時55分
ヘンリーは電話を切ると、メンテナンス室を飛び出そうとした。
だが、ドアに手をかける直前、胸を刺すような違和感に襲われた。彼は振り返り、管理用端末に飛びついた。
(本当に、全員出たのか……?)
指を震わせながら、彼は管理者権限で「入出館記録」のリアルタイムログを呼び出した。
避難した工事関係者、立ち去ったメンバーたち、そして自分。
スクロールするリストを追い、最下部で彼の指が凍りついた。
「……嘘だろ」
そこには、全職員・関係者の退出記録が並んでいた。
だが、たった一行、最上段に並ぶ「社長:リー」のステータスだけが、虚しく白く点灯したままだった。
【 入館:07:45 / 退出:―― 】
彼女がゲートを通過した記録はない。
つまり、今この瞬間も、彼女は施設のどこかにいる。
「リーさん!!」
ヘンリーの叫びが、無人のメンテナンス室に反響する。
壁のモニターには、非情にも【 04:58 】の数字が点滅していた。
人影の消えた龍宮、その地下の「プレミアム・ダイブ」の部屋。リーは、自分を縛るすべての装束を脱ぎ捨てていた。
一糸纏わぬ全裸。
その肢体は、非常灯の赤い光を反射し、まるで深海の奥底で目覚めたばかりの、禍々しくも美しい女神のようだった。
彼女は素足のまま、冷徹なまでに磨き上げられた床を歩いた。
自らが人生を賭けた「城」。その最期を、彼女は生まれたままの姿で、ただ1人で迎えようとしていた。
午前11時50分
リーは据え付けられている椅子に深く腰を下ろすと、携帯電話で、別区画のメンテナンス室にいるヘンリーへ電話を入れた。
「……ヘンリー。聞こえる?」
「……はい、社長。準備はすべて整っています」
電話越しに聞こえるヘンリーの声は、極度の緊張で張り詰めていた。メンテナンス室のコンソールに向かう彼の指先は、僅かに震えている。
「始めて、ヘンリー」
リーの静かな命令が、世界の終わりの合図となった。無線越しにキーボードを叩く乾いた音が聞こえる。ヘンリーが最終プロテクトを解除し、暗証コードを入力した。
「……起爆装置、起動。カウントダウンを開始します」
司令室のメインモニターに、血のような赤で刻まれた数字が浮かび上がった。
【 10:00 】
海底の支柱、アクリルパネルの基部、そしてメインシャフト。昨夜2人がかりで仕掛けた「100個の火種」が一斉に「起爆待機」へと変わり、不気味な赤い光を点灯させた。
「……行きなさい。早く逃げて、ヘンリー。エントランスからなら、今すぐ走れば間に合うわ」
「社長……」
「私はもうエントランスにいるわ、外で会いましょう」
一瞬の沈黙の後、ヘンリーの声が返ってきた。
「……わかりました。すぐ行きます」
リーは何も答えずに電話を切った。ただ、満足げに微かに口角を上げ、プールの蒼い深淵を見つめた。
午前11時55分
ヘンリーは電話を切ると、メンテナンス室を飛び出そうとした。
だが、ドアに手をかける直前、胸を刺すような違和感に襲われた。彼は振り返り、管理用端末に飛びついた。
(本当に、全員出たのか……?)
指を震わせながら、彼は管理者権限で「入出館記録」のリアルタイムログを呼び出した。
避難した工事関係者、立ち去ったメンバーたち、そして自分。
スクロールするリストを追い、最下部で彼の指が凍りついた。
「……嘘だろ」
そこには、全職員・関係者の退出記録が並んでいた。
だが、たった一行、最上段に並ぶ「社長:リー」のステータスだけが、虚しく白く点灯したままだった。
【 入館:07:45 / 退出:―― 】
彼女がゲートを通過した記録はない。
つまり、今この瞬間も、彼女は施設のどこかにいる。
「リーさん!!」
ヘンリーの叫びが、無人のメンテナンス室に反響する。
壁のモニターには、非情にも【 04:58 】の数字が点滅していた。
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