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【外伝】Episode-ゼロ 真珠の起源 第4章 静かなる幕開け
4-1.虚無の境界線:HADAL & NUCLEUS
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2021年9月。
ヘンリー・西谷に、懲役10ヶ月、執行猶予3年の判決が出た。
しかし、これまでの勾留期間が刑期に入るため、即日釈放となった。
だが、2021年10月から2022年3月は、社会奉仕の期間ということで、まだ自由の身にはならないらしい。
2021年11月。
ケアンズ郊外。
観光地としての賑わいが遠ざかり、人の気配が希薄になっていく海岸線をさらに進んだ先——
そこに、地図には記されない私有地がある。
ブラックドッグが所有する、海と陸と現実の境界が曖昧になる領域だ。
夜明け前の薄明かりの下、海面はまだ冷たく眠っている。
その静寂の上に、2つの建物が黒い影として海へせり出して佇立していた。
どちらも窓ひとつない、完全な黒。
光を吸い込み、気配を拒み、海原に浮かぶ異質な聖殿のようだった。
まるでここだけが現世の論理を裏切っているかのような、静かな圧が漂っている。
1つ目の建物——「HADAL」。
“人類未踏の深淵”の名を冠したこの施設だけは、
誰ひとりとして、関係者以外の立ち入りを許されない。
その理由は明白だった。
この内部で行われるのは、世界に露出してはならない儀式——
サラの極秘動画撮影である。
『THE ABYSS PEARL : The Evolution SARAH』
世界の富豪たちが、途方もない金を積み上げてでも手に入れようとする映像作品。
海水を内部へと注ぎ込み、建物全体をゆっくりと“海に沈め直す”ような構造は、
まさしく深淵へと沈降する神殿さながらだった。
そこで映し出されるサラ——
光を吸い込む黒の世界の中に立つ、黄金の髪をもつ美女。
その存在は闇に浮かぶ灯火のようで、
儀式の中心に据えられた“生きた秘宝”であった。
そして、2つ目の建物——劇場「NUCLEUS」。
HADALと並ぶもうひとつの影。
こちらも深海の闇をそのまま具現化したように、黒く無窓で、外界を拒絶する殻を持つ。
しかし、NUCLEUSは閉ざされてはいない——
莫大な財を献じた者にのみ扉を開く。
世界の富豪たち。
彼らは金で買えるすべてに飽き飽きし、それでもなお「未知」を求める者たち。
その欲望が導くのが、この劇場であり、サラであり、
ここで行われる唯一の演目——
「Abyss Cathedral」
NUCLEUSは器であり、舞台であり、深淵への門である。
観客は、サラのパフォーマンスを生で、リアルタイムで目撃するために集う。
生者が踏み入れてはならない聖域のような空気が、劇場全体を満たしていた。
明けかけた空の下、黒い2つの殿堂が海に向かって並び立つ様は、
まるで“現世と深淵を繋ぐ双子の祭壇”だった。
その中心に立つサラは、黄金の髪を淡く揺らしながら、
これから始まる儀式を静かに待つ。
もはや彼女は人ではなく、深淵が世界に差し出した唯一の聖なる存在なのかもしれなかった。
ヘンリー・西谷に、懲役10ヶ月、執行猶予3年の判決が出た。
しかし、これまでの勾留期間が刑期に入るため、即日釈放となった。
だが、2021年10月から2022年3月は、社会奉仕の期間ということで、まだ自由の身にはならないらしい。
2021年11月。
ケアンズ郊外。
観光地としての賑わいが遠ざかり、人の気配が希薄になっていく海岸線をさらに進んだ先——
そこに、地図には記されない私有地がある。
ブラックドッグが所有する、海と陸と現実の境界が曖昧になる領域だ。
夜明け前の薄明かりの下、海面はまだ冷たく眠っている。
その静寂の上に、2つの建物が黒い影として海へせり出して佇立していた。
どちらも窓ひとつない、完全な黒。
光を吸い込み、気配を拒み、海原に浮かぶ異質な聖殿のようだった。
まるでここだけが現世の論理を裏切っているかのような、静かな圧が漂っている。
1つ目の建物——「HADAL」。
“人類未踏の深淵”の名を冠したこの施設だけは、
誰ひとりとして、関係者以外の立ち入りを許されない。
その理由は明白だった。
この内部で行われるのは、世界に露出してはならない儀式——
サラの極秘動画撮影である。
『THE ABYSS PEARL : The Evolution SARAH』
世界の富豪たちが、途方もない金を積み上げてでも手に入れようとする映像作品。
海水を内部へと注ぎ込み、建物全体をゆっくりと“海に沈め直す”ような構造は、
まさしく深淵へと沈降する神殿さながらだった。
そこで映し出されるサラ——
光を吸い込む黒の世界の中に立つ、黄金の髪をもつ美女。
その存在は闇に浮かぶ灯火のようで、
儀式の中心に据えられた“生きた秘宝”であった。
そして、2つ目の建物——劇場「NUCLEUS」。
HADALと並ぶもうひとつの影。
こちらも深海の闇をそのまま具現化したように、黒く無窓で、外界を拒絶する殻を持つ。
しかし、NUCLEUSは閉ざされてはいない——
莫大な財を献じた者にのみ扉を開く。
世界の富豪たち。
彼らは金で買えるすべてに飽き飽きし、それでもなお「未知」を求める者たち。
その欲望が導くのが、この劇場であり、サラであり、
ここで行われる唯一の演目——
「Abyss Cathedral」
NUCLEUSは器であり、舞台であり、深淵への門である。
観客は、サラのパフォーマンスを生で、リアルタイムで目撃するために集う。
生者が踏み入れてはならない聖域のような空気が、劇場全体を満たしていた。
明けかけた空の下、黒い2つの殿堂が海に向かって並び立つ様は、
まるで“現世と深淵を繋ぐ双子の祭壇”だった。
その中心に立つサラは、黄金の髪を淡く揺らしながら、
これから始まる儀式を静かに待つ。
もはや彼女は人ではなく、深淵が世界に差し出した唯一の聖なる存在なのかもしれなかった。
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