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【外伝】Episode-α 氷華の女王 第6章 カムチャッカの審判
6-3.打ち寄せる波と黄色い警告
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午前11時。
アール島の北端、白砂の駐車場に1台の車が滑り込み、乾いた砂を激しく蹴立てて止まった。
ドアが開き、陽炎の中に現れたのは、昨日までの都会的で冷徹な「エレーナ」の残像をすべて脱ぎ捨てた1人の女――コナミ・シバナヴァだった。
彼女はバッグも、靴さえも持っていなかった。
纏っているのは、眩い正午の光に共鳴するような、鮮やかな黄色の極小紐ビキニのみ。
10年前、ハワイの波打ち際で黒崎の目を奪ったあの衝撃を、より残酷なまでに磨き上げた姿だった。
コナミは熱を持った砂浜を避け、寄せては返す波打ち際へと足を向けた。冷たい海水が足首を洗い、細い指先を濡らす。
彼女は1歩1歩、聖地へと巡礼するような足取りで、水飛沫を散らしながら近づいてくる。
その剥き出しの肢体は、文字通りの「潔白」の証明だった。
布地の面積を極限まで削ぎ落としたその装いには、ロシア当局が仕込むべき盗聴器も、位置情報を送る発信機も、隠す隙間などどこにも存在しない。
それは黒崎が提示した「救出の条件」に対する、彼女なりの命懸けの回答だった。
テラスの階段を上がる彼女の肉体は、直射日光を全身に浴びて、真珠のような光沢を放っていた。
オリンピックの頂を極めた心肺機能と、深海の猛圧に耐えうる柔軟な筋繊維。
浮き出た鎖骨から、無駄のない腹斜筋のライン、そして砂を噛むように力強い大腿部の曲線。
その1つ1つが、彼女が歩んできた過酷な歳月の証明であり、同時に見る者の理性を焼き切るほどの官能を放っていた。
風にたなびく金髪のボブは、乾燥した潮風を受けて黄金の糸のように輝いている。
黒崎の前に立った彼女は、その乾いた髪を指先で耳にかけ、まずは深々と頭を下げた。
「……お誘いいただき、ありがとうございます。ミスター・黒崎」
黒崎は手に持ったグリルのトングを置き、眩しそうに目を細めた。
サングラスの奥の瞳が、彼女のすべてを慈しむように、そして戦友を迎えるように射抜く。
「……やっぱり、コナミだったか。その姿、懐かしいな。あの頃のままだ」
その穏やかな声に、コナミの仮面が音を立てて崩れた。
彼女の瞳に、ロシアの凍土では決して見せることのなかった切迫した色が浮かぶ。
「……ごめんなさい、エドワード。エレーナなんて女は、最初からいなかったの」
彼女は周囲を一度、鋭い視線で警戒するように見渡すと、絞り出すような声で続けた。
「中で説明させて。1分1秒が惜しいの。……私たちには、もう時間が残されていないわ」
その切実な声音に、テラスに漂っていたBBQののどかな空気は一瞬で吹き飛んだ。
背後に控えるヘンリーと、海から戻ったばかりのサラ。
一行は、南太平洋の楽園を包囲しつつある巨大な影の存在を確信しながら、無言のままリビングへと移動した。
アール島の北端、白砂の駐車場に1台の車が滑り込み、乾いた砂を激しく蹴立てて止まった。
ドアが開き、陽炎の中に現れたのは、昨日までの都会的で冷徹な「エレーナ」の残像をすべて脱ぎ捨てた1人の女――コナミ・シバナヴァだった。
彼女はバッグも、靴さえも持っていなかった。
纏っているのは、眩い正午の光に共鳴するような、鮮やかな黄色の極小紐ビキニのみ。
10年前、ハワイの波打ち際で黒崎の目を奪ったあの衝撃を、より残酷なまでに磨き上げた姿だった。
コナミは熱を持った砂浜を避け、寄せては返す波打ち際へと足を向けた。冷たい海水が足首を洗い、細い指先を濡らす。
彼女は1歩1歩、聖地へと巡礼するような足取りで、水飛沫を散らしながら近づいてくる。
その剥き出しの肢体は、文字通りの「潔白」の証明だった。
布地の面積を極限まで削ぎ落としたその装いには、ロシア当局が仕込むべき盗聴器も、位置情報を送る発信機も、隠す隙間などどこにも存在しない。
それは黒崎が提示した「救出の条件」に対する、彼女なりの命懸けの回答だった。
テラスの階段を上がる彼女の肉体は、直射日光を全身に浴びて、真珠のような光沢を放っていた。
オリンピックの頂を極めた心肺機能と、深海の猛圧に耐えうる柔軟な筋繊維。
浮き出た鎖骨から、無駄のない腹斜筋のライン、そして砂を噛むように力強い大腿部の曲線。
その1つ1つが、彼女が歩んできた過酷な歳月の証明であり、同時に見る者の理性を焼き切るほどの官能を放っていた。
風にたなびく金髪のボブは、乾燥した潮風を受けて黄金の糸のように輝いている。
黒崎の前に立った彼女は、その乾いた髪を指先で耳にかけ、まずは深々と頭を下げた。
「……お誘いいただき、ありがとうございます。ミスター・黒崎」
黒崎は手に持ったグリルのトングを置き、眩しそうに目を細めた。
サングラスの奥の瞳が、彼女のすべてを慈しむように、そして戦友を迎えるように射抜く。
「……やっぱり、コナミだったか。その姿、懐かしいな。あの頃のままだ」
その穏やかな声に、コナミの仮面が音を立てて崩れた。
彼女の瞳に、ロシアの凍土では決して見せることのなかった切迫した色が浮かぶ。
「……ごめんなさい、エドワード。エレーナなんて女は、最初からいなかったの」
彼女は周囲を一度、鋭い視線で警戒するように見渡すと、絞り出すような声で続けた。
「中で説明させて。1分1秒が惜しいの。……私たちには、もう時間が残されていないわ」
その切実な声音に、テラスに漂っていたBBQののどかな空気は一瞬で吹き飛んだ。
背後に控えるヘンリーと、海から戻ったばかりのサラ。
一行は、南太平洋の楽園を包囲しつつある巨大な影の存在を確信しながら、無言のままリビングへと移動した。
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