婚約破棄されて何か幸せですみません

恋守あい

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「お嬢様、あちらの国から『断末魔の報告書』が届きました」

午後の穏やかな陽だまりの中で、ランが愉快そうに封筒を差し出してきた。

私はちょうど、ラグナート王国の新しい魔導通信網の予算配分を終えたところだった。

「あら、ラン。断末魔だなんて、物騒な言い方ね。……どれ、見せてちょうだい」

私は受け取った報告書を、事務的に素早く読み進める。

そこには、ウェルビア王国の無残な現状が克明に記されていた。

「……ふむ。紙不足の影響で、徴税通知が出せず、税収が前年比で六割減。……おまけに、私が管理していた『緊急予備費』の鍵が見つからず、無理やり扉を壊そうとして、王宮の地下倉庫を全焼させた……?」

私は思わず、指先で眉間を押さえた。

「あの方たち、本当に想像を絶する無能ぶりですわね。あの鍵は、適切な事務手続きを踏めば自動的に開く『魔導ロック』だと、マニュアルに三回も書いておいたはずよ」

「お嬢様の書かれたマニュアルは、あちらの国では既に『失われた古代遺産』扱いだそうです。内容が高度すぎて、誰も理解できなかったとか」

ランが呆れたように肩をすくめる。

「さらに、ジュリアン殿下ですが……。ミエッタ様の過剰な宝石購入を止めることができず、ついに王室直営の銀行から無断で資金を流用。それが公になり、国内の貴族たちから一斉に突き上げを食らっているとのことです」

「……あはは! 最高だわ! 『真実の愛』には、相応のコストがかかることをようやく理解したのかしら」

私は背もたれに体を預け、高らかに笑い声を上げた。

前の国で、私が一ペニー単位で経費を削っていた時、彼らは私を「吝嗇な悪女」と罵った。

今のその惨状は、彼らが求めた「自由」の結末なのだ。

「……何の笑い声かな、ローゼリア」

執務室のドアが開き、アルフレッド様が入ってきた。

彼は私の楽しげな様子を見て、自分の口元も緩ませている。

「閣下。……見てください、あちらの国の喜劇(コメディ)を。……国庫が底をつき、ついに王宮のカーテンを切り刻んで、ミエッタ様のドレスに仕立て直しているそうですわよ」

「……カーテンを? それはまた、随分と情けない話だな。……だが、笑い事ではないぞ。その余波で、我が国に亡命を希望する商人がさらに増えている」

アルフレッド様は私の隣に座り、私の肩を優しく抱きしめた。

「彼らは口を揃えて言う。『ローゼリア様がいれば、こんなことにはならなかった』とね。……君の名は、今や隣国では救世主か、あるいは国を滅ぼした死神として伝説になっている」

「死神だなんて。私はただ、自分の仕事に相応しい場所へ移っただけですわ」

私は彼の胸に顔を寄せ、安らぎを感じる香りを吸い込んだ。

「……でも、閣下。あちらが崩壊すれば、我が国への難民流入や市場の混乱も予想されます。……ラン、第十五号計画を発動して」

「承知いたしました。国境付近の倉庫の増設、および一時雇用枠の確保ですね」

「ええ。崩壊すらも、我が国の『利益』に変えて差し上げますわ。……無能な者たちの不始末を、有能な者たちの肥料にする。……これこそが、最高の事務処理でしょう?」

アルフレッド様は、私の冷徹ながらも完璧な先読みに、感嘆の吐息をついた。

「……君を敵にした者は、死ぬよりも恐ろしい目に遭うな。……だが、私の隣にいてくれる限り、これほど頼もしい存在はいない」

アルフレッド様は、私の顎を指先で持ち上げ、熱い視線を絡ませる。

「……ローゼリア。君は、もうあちらの国のことなど考えなくていい。……君のその美しい頭脳は、私と、この国の幸せのためだけに使いなさい」

「……ええ。もちろんですわ、旦那様。……あ。でも、旧王国の王冠がオークションに出たら、安値で買い叩いて、私の部屋のペーパーウェイトにしてもよろしい?」

「……ふっ、ははは! いいだろう、最高に贅沢な重石(ペーパーウェイト)を用意してやるよ」

私たちは笑い合い、窓の外に広がる繁栄の景色を見つめた。

遠くから聞こえてくる旧王国の崩壊の足音は、今の私には、祝福の拍手のようにしか聞こえなかった。

幸せすぎて、本当にすみません。

私は、愛する人と共に、この沈まぬ船の舵を完璧に操り続けるのだ。
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