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「……それで、この『魔導騎士団の遠征費』の計上理由について、どなたか論理的に説明できる方はいらっしゃいますか?」
ラグナート王国の御前会議。
居並ぶ重鎮たちの中心で、私は一通の予算申請書を指先でトントンと叩いた。
静まり返る会議室。
かつてのウェルビア王国なら「女が口を出すな」と一蹴されていた場面だが、今の私の隣には、冷徹な笑みを浮かべたアルフレッド様が座っている。
「……そ、それは、伝統的にその額が必要とされておりまして……」
一人の年老いた伯爵が、脂汗を流しながら言葉を濁した。
「『伝統的に』、ですか。……閣下、伝統で予算が動くのなら、算盤も帳簿も不要ですわね。占い師でも雇った方がよっぽど安上がりではありませんか?」
私が皮肉を込めて微笑むと、アルフレッド様が「ふっ」と短く笑った。
「その通りだ。ローゼリア、君の計算ではどうなる?」
「ええ。最新の魔導エンジンの燃費、および補給ルートの最適化を考慮すれば、三割は削減可能ですわ。……浮いた予算で、騎士団の詰め所に最新の全自動洗濯機を導入してはいかがかしら? そちらの方が、現場の士気は確実に上がりますわ」
私は淀みなく、修正案をテーブルに滑らせた。
「……な、何という……。事務の道具に、そんな斬新な発想があるとは……」
「道具ではありませんわ。私は、ラグナート王国の利益を最大化する『システム』そのものですの」
私は扇をパチンと閉じ、立ち上がった。
会議は、私の「完全勝利」で幕を閉じた。
廊下に出ると、アルフレッド様が私の肩を抱き寄せ、耳元で低く囁いた。
「……見事だったよ、ローゼリア。君が数字を語るたび、この国が磨き上げられていくようだ」
「あら、嬉しい。……でも、閣下。あの方たち、まだ私のことを『恐ろしい悪役令嬢』だと思っていらっしゃるわ。可愛げがなくて、すみません」
「可愛げなど、私への夜の時間だけで十分だ。……公務の場では、その鋭利なまでの刃を見せつけてくれ。……私が惚れ込んだのは、その美しくも合理的な魂なのだから」
アルフレッド様の手が、私の腰を強く引き寄せる。
「……さあ、有能な私の婚約者殿。お祝いに、今日は王都で一番人気のケーキ屋を貸し切りにしてある。……糖分を補給して、明日の『減税案』への活力を養おうじゃないか」
「貸し切り? ……まあ、なんという不経済なことを。……でも、嬉しいわ」
私は彼の胸に顔を埋め、クスクスと笑った。
前の国では、私の努力は「無駄な厳しさ」だと切り捨てられた。
けれどここでは、私の厳しさは「国への愛」だと、この方が証明してくれる。
「……幸せすぎて、すみません。愛する人と一緒に、世界を最適化できるなんて。……私、これ以上の贅沢を思いつきませんわ」
「なら、もっと欲張りになりなさい。……君が望むなら、世界中の帳簿を君の前に並べてみせるよ」
私たちは、夕暮れに染まる王宮を、寄り添いながら歩いていった。
私のペンは、もう誰かを呪うためではなく、愛するこの国を、そして私たち自身の未来を書き綴るためにあるのだ。
ラグナート王国の御前会議。
居並ぶ重鎮たちの中心で、私は一通の予算申請書を指先でトントンと叩いた。
静まり返る会議室。
かつてのウェルビア王国なら「女が口を出すな」と一蹴されていた場面だが、今の私の隣には、冷徹な笑みを浮かべたアルフレッド様が座っている。
「……そ、それは、伝統的にその額が必要とされておりまして……」
一人の年老いた伯爵が、脂汗を流しながら言葉を濁した。
「『伝統的に』、ですか。……閣下、伝統で予算が動くのなら、算盤も帳簿も不要ですわね。占い師でも雇った方がよっぽど安上がりではありませんか?」
私が皮肉を込めて微笑むと、アルフレッド様が「ふっ」と短く笑った。
「その通りだ。ローゼリア、君の計算ではどうなる?」
「ええ。最新の魔導エンジンの燃費、および補給ルートの最適化を考慮すれば、三割は削減可能ですわ。……浮いた予算で、騎士団の詰め所に最新の全自動洗濯機を導入してはいかがかしら? そちらの方が、現場の士気は確実に上がりますわ」
私は淀みなく、修正案をテーブルに滑らせた。
「……な、何という……。事務の道具に、そんな斬新な発想があるとは……」
「道具ではありませんわ。私は、ラグナート王国の利益を最大化する『システム』そのものですの」
私は扇をパチンと閉じ、立ち上がった。
会議は、私の「完全勝利」で幕を閉じた。
廊下に出ると、アルフレッド様が私の肩を抱き寄せ、耳元で低く囁いた。
「……見事だったよ、ローゼリア。君が数字を語るたび、この国が磨き上げられていくようだ」
「あら、嬉しい。……でも、閣下。あの方たち、まだ私のことを『恐ろしい悪役令嬢』だと思っていらっしゃるわ。可愛げがなくて、すみません」
「可愛げなど、私への夜の時間だけで十分だ。……公務の場では、その鋭利なまでの刃を見せつけてくれ。……私が惚れ込んだのは、その美しくも合理的な魂なのだから」
アルフレッド様の手が、私の腰を強く引き寄せる。
「……さあ、有能な私の婚約者殿。お祝いに、今日は王都で一番人気のケーキ屋を貸し切りにしてある。……糖分を補給して、明日の『減税案』への活力を養おうじゃないか」
「貸し切り? ……まあ、なんという不経済なことを。……でも、嬉しいわ」
私は彼の胸に顔を埋め、クスクスと笑った。
前の国では、私の努力は「無駄な厳しさ」だと切り捨てられた。
けれどここでは、私の厳しさは「国への愛」だと、この方が証明してくれる。
「……幸せすぎて、すみません。愛する人と一緒に、世界を最適化できるなんて。……私、これ以上の贅沢を思いつきませんわ」
「なら、もっと欲張りになりなさい。……君が望むなら、世界中の帳簿を君の前に並べてみせるよ」
私たちは、夕暮れに染まる王宮を、寄り添いながら歩いていった。
私のペンは、もう誰かを呪うためではなく、愛するこの国を、そして私たち自身の未来を書き綴るためにあるのだ。
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