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「……嘘だ、嘘だ嘘だ! 我が王家の秘宝が、スフレを焼くための道具にされるなど……!」
騎士たちに両脇を抱えられ、引きずられていくカイルの声が遠ざかっていく。
彼は最後まで自分の過ちを認めるのではなく、運命の不条理を呪い続けていた。
レティシアは、そんな彼を一瞥もせず、魔導具から漂う香ばしい匂いに目を細めた。
「アラル様、見てください。この焼き色、完璧ですわ。絶望の熱だなんて仰っていましたけれど、実際はとても優しくて均一な熱量でしたのね」
レティシアは銀のスプーンで、焼き上がったばかりの巨大なスフレを器用に掬い取った。
ぷるぷると震える生地からは、温かな湯気と共に甘いバニラの香りが立ち上る。
「……。君がそう言うなら、あのガラクタも本望だろう。カイルを地下牢へ入れた後は、あの箱を厨房の家宝として登録させておこう」
アラルは呆れたように笑いながらも、レティシアが差し出したスプーンを、素直に口に含んだ。
「……っ。これは……驚いたな。口に入れた瞬間に消えてしまった」
「でしょう? 雲を食べているような食感ですわ。これこそ、結婚という新しい門出にふさわしい味です」
「ああ。……だが、最高の隠し味は君の笑顔だ」
アラルが彼女の頬を指先で愛おしそうに撫でる。
大聖堂の中にいた貴族たち、そして中継の魔導具を通じて様子を見守っていた民衆たちは、一斉に歓声を上げた。
「皇帝妃様! そのスフレ、私たちにも食べさせてください!」
「なんて素敵な方なんだ! 敵の攻撃さえも、皆の幸せに変えてしまうなんて!」
かつてエストニア王国で「地味で無能」と蔑まれていた少女は、今や帝国の誰もが認める、最高に聡明で愛らしい「女神」となっていた。
レティシアは周囲の歓声に応えるように、優雅にスカートを摘んで一礼した。
「皆様、今日のお料理はすべてお代わり自由ですわ! お腹いっぱい食べて、一緒に幸せになりましょうね!」
その宣言に、帝都全土が地鳴りのような「レティシア様万歳!」の声に包まれた。
一方、冷たい石床の地下牢に放り込まれたカイル。
彼は、窓の隙間から流れてくる甘いスフレの香りを嗅ぎながら、膝を抱えて震えていた。
「……ああ。お腹が……減った。レティシア……。なぜ、あんなに美味しそうなものを……。私には、一口も……」
カイルの頬を、後悔の涙が伝う。
だが、その香りが彼に届くことはあっても、その味が彼の喉を潤すことは二度とない。
彼が捨てたのは、ただの便利な婚約者ではなかった。
どんな絶望さえも甘い幸福に変えてしまう、魔法のような輝きそのものだったのだ。
「さあ、レティシア。仕切り直しだ」
アラルがレティシアの手を取り、再び祭壇の前へと導く。
ステンドグラスから差し込む光が、二人の行く先を黄金色に照らしていた。
「今度こそ、誓いのキスを。……邪魔者は、もう誰もいない」
「ええ。……その後に食べるウェディングケーキも、楽しみですわね、アラル様」
「ああ、一生かけて、君の腹を満たし続けてやろう」
聖なる鐘の音が、高らかに鳴り響いた。
それは、逃げ遅れた断罪の果てに掴み取った、甘くて終わらないハッピーエンドの幕開けだった。
騎士たちに両脇を抱えられ、引きずられていくカイルの声が遠ざかっていく。
彼は最後まで自分の過ちを認めるのではなく、運命の不条理を呪い続けていた。
レティシアは、そんな彼を一瞥もせず、魔導具から漂う香ばしい匂いに目を細めた。
「アラル様、見てください。この焼き色、完璧ですわ。絶望の熱だなんて仰っていましたけれど、実際はとても優しくて均一な熱量でしたのね」
レティシアは銀のスプーンで、焼き上がったばかりの巨大なスフレを器用に掬い取った。
ぷるぷると震える生地からは、温かな湯気と共に甘いバニラの香りが立ち上る。
「……。君がそう言うなら、あのガラクタも本望だろう。カイルを地下牢へ入れた後は、あの箱を厨房の家宝として登録させておこう」
アラルは呆れたように笑いながらも、レティシアが差し出したスプーンを、素直に口に含んだ。
「……っ。これは……驚いたな。口に入れた瞬間に消えてしまった」
「でしょう? 雲を食べているような食感ですわ。これこそ、結婚という新しい門出にふさわしい味です」
「ああ。……だが、最高の隠し味は君の笑顔だ」
アラルが彼女の頬を指先で愛おしそうに撫でる。
大聖堂の中にいた貴族たち、そして中継の魔導具を通じて様子を見守っていた民衆たちは、一斉に歓声を上げた。
「皇帝妃様! そのスフレ、私たちにも食べさせてください!」
「なんて素敵な方なんだ! 敵の攻撃さえも、皆の幸せに変えてしまうなんて!」
かつてエストニア王国で「地味で無能」と蔑まれていた少女は、今や帝国の誰もが認める、最高に聡明で愛らしい「女神」となっていた。
レティシアは周囲の歓声に応えるように、優雅にスカートを摘んで一礼した。
「皆様、今日のお料理はすべてお代わり自由ですわ! お腹いっぱい食べて、一緒に幸せになりましょうね!」
その宣言に、帝都全土が地鳴りのような「レティシア様万歳!」の声に包まれた。
一方、冷たい石床の地下牢に放り込まれたカイル。
彼は、窓の隙間から流れてくる甘いスフレの香りを嗅ぎながら、膝を抱えて震えていた。
「……ああ。お腹が……減った。レティシア……。なぜ、あんなに美味しそうなものを……。私には、一口も……」
カイルの頬を、後悔の涙が伝う。
だが、その香りが彼に届くことはあっても、その味が彼の喉を潤すことは二度とない。
彼が捨てたのは、ただの便利な婚約者ではなかった。
どんな絶望さえも甘い幸福に変えてしまう、魔法のような輝きそのものだったのだ。
「さあ、レティシア。仕切り直しだ」
アラルがレティシアの手を取り、再び祭壇の前へと導く。
ステンドグラスから差し込む光が、二人の行く先を黄金色に照らしていた。
「今度こそ、誓いのキスを。……邪魔者は、もう誰もいない」
「ええ。……その後に食べるウェディングケーキも、楽しみですわね、アラル様」
「ああ、一生かけて、君の腹を満たし続けてやろう」
聖なる鐘の音が、高らかに鳴り響いた。
それは、逃げ遅れた断罪の果てに掴み取った、甘くて終わらないハッピーエンドの幕開けだった。
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