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宮の奥へ
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ひたひたと廊下を歩く。
裸足の足に吸い付くようであった。
いつの間にか草履はなくなっていたのだ。
浚われていたときは履いていたのに、脱げてどこかへ行ってしまったようだ。
よくわからないながら、辰之助についていく。少し恥ずかしい、と感じながら。
恥ずかしいのは単純なこと。
右手を掴まれてしまっているからだ。
「万一のことがあるといけねぇからな」と言われてこの形にされたのだけど、若い女子が手を引かれているのだ。普通に恥ずかしい。
が、拒む理由も権利もないので、「わかった」と受け入れるしかなかったのである。
廊下を行く間に、辰之助はぽつぽつと説明してくれた。この状況について。
「詳しいことは着いてから話すが、あんたには『戌の刻』の加護があるんだ」
「加護……?」
加護、という言葉の意味はわかるものの、何故そんなものが私にあるというのか。
「あんたの世界じゃ、持っててもなんの力もないもんだったがな。あんたは字(あざな)があるんだろう。だから、家とか血筋とかがそうなんだろうね」
なるほど。
確かに私の名字は『戌井』である。一応の理屈は通るだろう。
「で、俺の持つ力は『辰の刻』……この関係がわかるか?」
辰之助はちょっと振り返って、謎かけのように言ってきた。だが私にわかるはずがない。
ただ、わかるとしたら……。
「時間を表す言葉、ってこと?」
それには眉が下げられた。
「いや、その通りではあるが、それだけじゃなくて……十二支はわかるんだったな」
「え、うん」
子、丑、寅、卯……のあれだ。日本人ならほとんどが知っているだろう。
「その十二支を円の形に収めたとき、向かいに来る位置なんだな。辰と戌ってのは」
私は息を呑んだ。
『円の形に収めたとき』は、実際になにかに描いて、図解しないと感覚的には掴めないだろう。
でも辰之助が嘘を言うはずもない。向かいの位置に当たるというなら、そうなのだろう。
「それがなにか……?」
それがなにに繋がるというのか。
そこまではわからずに、また聞いてしまったのだけど、辰之助は私がわからないのは前提だっただろう。すぐ教えてくれた。
「反発しあうとか、相性が悪いとかがよく言われてるんだが、今回の件に関しては少し違う」
辰之助はそこで廊下の角を曲がった。
その突き当りには、立派な扉がある。
木ではあるが、金色の縁取り、同じく金の取っ手、装飾も豪華だ。
きっとここが目的地。
私は悟って、その通りであった。
裸足の足に吸い付くようであった。
いつの間にか草履はなくなっていたのだ。
浚われていたときは履いていたのに、脱げてどこかへ行ってしまったようだ。
よくわからないながら、辰之助についていく。少し恥ずかしい、と感じながら。
恥ずかしいのは単純なこと。
右手を掴まれてしまっているからだ。
「万一のことがあるといけねぇからな」と言われてこの形にされたのだけど、若い女子が手を引かれているのだ。普通に恥ずかしい。
が、拒む理由も権利もないので、「わかった」と受け入れるしかなかったのである。
廊下を行く間に、辰之助はぽつぽつと説明してくれた。この状況について。
「詳しいことは着いてから話すが、あんたには『戌の刻』の加護があるんだ」
「加護……?」
加護、という言葉の意味はわかるものの、何故そんなものが私にあるというのか。
「あんたの世界じゃ、持っててもなんの力もないもんだったがな。あんたは字(あざな)があるんだろう。だから、家とか血筋とかがそうなんだろうね」
なるほど。
確かに私の名字は『戌井』である。一応の理屈は通るだろう。
「で、俺の持つ力は『辰の刻』……この関係がわかるか?」
辰之助はちょっと振り返って、謎かけのように言ってきた。だが私にわかるはずがない。
ただ、わかるとしたら……。
「時間を表す言葉、ってこと?」
それには眉が下げられた。
「いや、その通りではあるが、それだけじゃなくて……十二支はわかるんだったな」
「え、うん」
子、丑、寅、卯……のあれだ。日本人ならほとんどが知っているだろう。
「その十二支を円の形に収めたとき、向かいに来る位置なんだな。辰と戌ってのは」
私は息を呑んだ。
『円の形に収めたとき』は、実際になにかに描いて、図解しないと感覚的には掴めないだろう。
でも辰之助が嘘を言うはずもない。向かいの位置に当たるというなら、そうなのだろう。
「それがなにか……?」
それがなにに繋がるというのか。
そこまではわからずに、また聞いてしまったのだけど、辰之助は私がわからないのは前提だっただろう。すぐ教えてくれた。
「反発しあうとか、相性が悪いとかがよく言われてるんだが、今回の件に関しては少し違う」
辰之助はそこで廊下の角を曲がった。
その突き当りには、立派な扉がある。
木ではあるが、金色の縁取り、同じく金の取っ手、装飾も豪華だ。
きっとここが目的地。
私は悟って、その通りであった。
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