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ファーストフードランチ②
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もちろん、食べるときにちゃんと「ごちそうになります」と言ってからいただいた。
かぷっとかぶりついたサンドウィッチ。野菜はぱりっとフレッシュで、ローストチキンは味がしっかりしみこんでいてとてもおいしかった。
「うまいか?」
いばら先輩は自分のハムとチーズのサンドウィッチを持ち上げながら聞いてくれて、つむぎは素直にうなずいた。
「はい! とっても……」
飲み込んでから言いかけたのだけど、いばら先輩はカウンター席の横に座るつむぎを見て、くすっと笑ってきた。
「気に入ってくれたみたいだな。口にくっつけるくらい」
すっと手を伸ばされて、口のはしに触れられる。そこにはレタスがひとかけらついていた。
つむぎはもちろん、このようなことをされたのは初めてであった。ぽかんとしてしまう。
しかしすぐに理解した。かぁっと顔が熱くなる。まるでがっついたようではないか。そんなところを見られて、おまけに子供のように取られてしまったなんて恥ずかしすぎる。
「えっあっ、あの!」
言い訳をしようと思ったけれど、くっつけてしまったのは事実なのである。もっとからかわれるかと覚悟したつむぎであったけれど、そのあとは意外なことに違っていた。
「たっぷり挟んであるからな。どうしてもこぼしやすいんだよ」
つむぎをフォローするような言葉であった。おまけにその目にはからかう色なんてない。どこか穏やかで優しい色をしていた。
つむぎはその瞳に見入ってしまう。こんなふうに言われたことや、こんな目を向けられたことなどあまりない。
とくりと心臓が跳ねた。とくとくと鼓動が速くなる。
嬉しい、と思ったそれは、デートのはじまりとはまた少し違う気持ちだった。
「今度はこぼさないように気をつけろよ」
それだけ言って、いばら先輩はふっと笑って、自分のサンドウィッチに向き直った。ぱくりとかぶりつく。
つむぎは数秒、それを見てぼうっとしてしまった。
いばら先輩はつむぎをからかってきたり、それを楽しんだりしたり、そういうところはある。
けれどたまに、こういう顔をするのである。
優しくて、穏やかで……見守るような、あったかい……。
こういう視線。どう呼ぶのかということは知っていたはずだ。
なのに今はわからなかった。だってそれは。
「どうした。食わないのか?」
つむぎが食べないからか、いばら先輩はもぐもぐ口を動かしてから聞いてきた。つむぎははっとして首を振る。
「いっ、いえ! いただきます!」
自分もサンドウィッチに向き直って、今度はこぼしたりしないように慎重にぱくりと食べる。しゃくしゃく、と新鮮なレタスを噛みながら、そっといばら先輩を見た。
二人でお昼を食べるなんて、ここしばらくもう毎日のことだったのに、それが街中のお店である、というだけで、まったく違うものに感じられた。
これはデートなのだ。特別なのだ。
思い知ってしまって、残りのサンドウィッチを食べる間、つむぎはどうにも言葉少なになってしまった。
かぷっとかぶりついたサンドウィッチ。野菜はぱりっとフレッシュで、ローストチキンは味がしっかりしみこんでいてとてもおいしかった。
「うまいか?」
いばら先輩は自分のハムとチーズのサンドウィッチを持ち上げながら聞いてくれて、つむぎは素直にうなずいた。
「はい! とっても……」
飲み込んでから言いかけたのだけど、いばら先輩はカウンター席の横に座るつむぎを見て、くすっと笑ってきた。
「気に入ってくれたみたいだな。口にくっつけるくらい」
すっと手を伸ばされて、口のはしに触れられる。そこにはレタスがひとかけらついていた。
つむぎはもちろん、このようなことをされたのは初めてであった。ぽかんとしてしまう。
しかしすぐに理解した。かぁっと顔が熱くなる。まるでがっついたようではないか。そんなところを見られて、おまけに子供のように取られてしまったなんて恥ずかしすぎる。
「えっあっ、あの!」
言い訳をしようと思ったけれど、くっつけてしまったのは事実なのである。もっとからかわれるかと覚悟したつむぎであったけれど、そのあとは意外なことに違っていた。
「たっぷり挟んであるからな。どうしてもこぼしやすいんだよ」
つむぎをフォローするような言葉であった。おまけにその目にはからかう色なんてない。どこか穏やかで優しい色をしていた。
つむぎはその瞳に見入ってしまう。こんなふうに言われたことや、こんな目を向けられたことなどあまりない。
とくりと心臓が跳ねた。とくとくと鼓動が速くなる。
嬉しい、と思ったそれは、デートのはじまりとはまた少し違う気持ちだった。
「今度はこぼさないように気をつけろよ」
それだけ言って、いばら先輩はふっと笑って、自分のサンドウィッチに向き直った。ぱくりとかぶりつく。
つむぎは数秒、それを見てぼうっとしてしまった。
いばら先輩はつむぎをからかってきたり、それを楽しんだりしたり、そういうところはある。
けれどたまに、こういう顔をするのである。
優しくて、穏やかで……見守るような、あったかい……。
こういう視線。どう呼ぶのかということは知っていたはずだ。
なのに今はわからなかった。だってそれは。
「どうした。食わないのか?」
つむぎが食べないからか、いばら先輩はもぐもぐ口を動かしてから聞いてきた。つむぎははっとして首を振る。
「いっ、いえ! いただきます!」
自分もサンドウィッチに向き直って、今度はこぼしたりしないように慎重にぱくりと食べる。しゃくしゃく、と新鮮なレタスを噛みながら、そっといばら先輩を見た。
二人でお昼を食べるなんて、ここしばらくもう毎日のことだったのに、それが街中のお店である、というだけで、まったく違うものに感じられた。
これはデートなのだ。特別なのだ。
思い知ってしまって、残りのサンドウィッチを食べる間、つむぎはどうにも言葉少なになってしまった。
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