85 / 117
いちごミルクと優しい言葉③
しおりを挟む
腕を掴まれて、瞳をのぞきこまれる。いたずらっぽい目であったけれど、つむぎはその色から知ってしまう。
多分これは、……ふざけているのだけでは、ない。
けれど、だからといって「はい」とすぐにできるものか。
ゆっくり、心臓の鼓動が速くなっていって、どくどくと高鳴る。顔にも熱がのぼってきそう。
こんな要求されて、こんなふうに見つめられたら。
ただ先輩を見つめるしかなくなっていたのだけど、そのうちいばら先輩が許してくれた。
「冗談だよ」
視線を外される。つむぎはほっとした。けれど次のことには、ちょっとぎくりとする。
「もう恋人の期間も終わるしな」
いばら先輩は何故か遠くを見るような顔をした。屋上の向こうの空に視線をやる。
そうだ、あれからときはさらに進んで、恋人同士でいるのはもう残り十日ほどになっていた。それが終われば恋人という関係はおしまい。の、はず。
けれど、つむぎは先ほどのことが引っかかってしまった。
そもそもの発端が解決したのか、というところである。
つまり、いばら先輩が言った『お前がいると眠くならない』『それを検証したい』というところ。
一応、答えは出ている。
『つむぎがいると、眠気は起こらない』
『起きることができる』
それは確かだ。さっきもつむぎが声をかけたらすぐに起きてくれた。
でもそれが何故か、というと、それは謎のままなわけで。それでは解決したとは言いがたいのでないか。
つむぎはよくわからなくなってしまった。思考が混ざり合って、どこから考えたものか、となってしまう。
つむぎのその様子で、いばら先輩は『つむぎを困らせてしまった』と思ったのかもしれない。手を伸ばしてきた。
たまにしてくれるときのように、頭に手が触れる。ぽんぽん、と軽く撫でられた。
いばら先輩がくれた、星のヘアピンで留めている髪の、上あたりを。
「言ってみただけだって。そんな顔すんな」
優しい声で言ってくれたけれど、直後、ぼそりと言った。
「惜しく思ってくれんなら、嬉しいけどさ」
つむぎは一瞬、幻聴でも聞こえたのかと思ってしまった。
これは、どういう、意味で。
それだけなんとか頭に浮かんだけれど、すぐにその空気はなくなってしまった。いばら先輩は、にっと笑ったのだから。明るい笑顔。なにも心配することなどない、と言いたげな。
「さ、メシにしようぜ。今日の昼飯はなに?」
するっと、空気はいつも通りのものに戻っていた。つむぎが拍子抜けしてしまうほどに。
でも考えたって仕方がない。それに昼休みももうあまり余裕はない。早く食べてしまわなければ。
「ハンバーグですよ。和風ハンバーグ」
つむぎはバッグを置いて、その中からお弁当箱をふたつ、取り出した。いばら先輩が顔を輝かせる。
「マジか! 俺、和風が好きなんだよ」
「本当ですか、それなら良かったです」
多分これは、……ふざけているのだけでは、ない。
けれど、だからといって「はい」とすぐにできるものか。
ゆっくり、心臓の鼓動が速くなっていって、どくどくと高鳴る。顔にも熱がのぼってきそう。
こんな要求されて、こんなふうに見つめられたら。
ただ先輩を見つめるしかなくなっていたのだけど、そのうちいばら先輩が許してくれた。
「冗談だよ」
視線を外される。つむぎはほっとした。けれど次のことには、ちょっとぎくりとする。
「もう恋人の期間も終わるしな」
いばら先輩は何故か遠くを見るような顔をした。屋上の向こうの空に視線をやる。
そうだ、あれからときはさらに進んで、恋人同士でいるのはもう残り十日ほどになっていた。それが終われば恋人という関係はおしまい。の、はず。
けれど、つむぎは先ほどのことが引っかかってしまった。
そもそもの発端が解決したのか、というところである。
つまり、いばら先輩が言った『お前がいると眠くならない』『それを検証したい』というところ。
一応、答えは出ている。
『つむぎがいると、眠気は起こらない』
『起きることができる』
それは確かだ。さっきもつむぎが声をかけたらすぐに起きてくれた。
でもそれが何故か、というと、それは謎のままなわけで。それでは解決したとは言いがたいのでないか。
つむぎはよくわからなくなってしまった。思考が混ざり合って、どこから考えたものか、となってしまう。
つむぎのその様子で、いばら先輩は『つむぎを困らせてしまった』と思ったのかもしれない。手を伸ばしてきた。
たまにしてくれるときのように、頭に手が触れる。ぽんぽん、と軽く撫でられた。
いばら先輩がくれた、星のヘアピンで留めている髪の、上あたりを。
「言ってみただけだって。そんな顔すんな」
優しい声で言ってくれたけれど、直後、ぼそりと言った。
「惜しく思ってくれんなら、嬉しいけどさ」
つむぎは一瞬、幻聴でも聞こえたのかと思ってしまった。
これは、どういう、意味で。
それだけなんとか頭に浮かんだけれど、すぐにその空気はなくなってしまった。いばら先輩は、にっと笑ったのだから。明るい笑顔。なにも心配することなどない、と言いたげな。
「さ、メシにしようぜ。今日の昼飯はなに?」
するっと、空気はいつも通りのものに戻っていた。つむぎが拍子抜けしてしまうほどに。
でも考えたって仕方がない。それに昼休みももうあまり余裕はない。早く食べてしまわなければ。
「ハンバーグですよ。和風ハンバーグ」
つむぎはバッグを置いて、その中からお弁当箱をふたつ、取り出した。いばら先輩が顔を輝かせる。
「マジか! 俺、和風が好きなんだよ」
「本当ですか、それなら良かったです」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる