遅咲き鬱金香(チューリップ)の花咲く日

白妙スイ@1/9新刊発売

文字の大きさ
28 / 125

先生のご自宅へ②

しおりを挟む
 道のりは平和だった。お天気にも恵まれた五月、むしろほのかに暑さすら感じる陽気であった。
 真昼間の今は良いが帰り道は夕方になるであろうことは予想していたのでこれ以上薄着をすることは考えなかった。寒暖差が激しい折だ。風邪などひいては困ってしまう。
 途中まで道に迷うことはなかった。源清先生のお宅は、普段買い物をする小さな町を挟んで反対側にあるようだったので。
 町で買い物をするのでそのあたりまでは通い慣れている。そこから先が少々心配ではあったが。
 しかしきちんと地図を持ってきていた。源清先生のご住所にしるしをつけて。
 普段過ごしている場所からたった一時間なのだ。そう極端に迷うこともないだろう、と思っていた。
が、それが楽観であったことは、普段訪れる町を抜けてしばらく歩いたときに思い知らされた。
 町の向こうはだいぶごちゃごちゃしていたのである。居住区ではあるのだろう。民家がたくさん並んでいた。
 それゆえにか。家が密集していてかなり道が細い。
 地図を見てもあちらかこちらか、と金香の足取りは鈍ってしまった。
 なんとなくはわかる。方向音痴というわけではないのだ。
 それでも歩みは極度に遅くなった。
 いけない、これでは遅くなって夕餉には早すぎるだろうが、お茶をするような時間になってしまう。お気を使わせてしまうだろう。
 しかし焦ったところで道がわかるわけではない。
 それでもなんとか近くであろうところまでたどり着いたが、そこで金香は途方に暮れてしまう。
 目印にしていた大きめの商家が無いのだ。
 地図が古かったのか。潰れてしまったのか。
 あちらにお寺があるはずだから、いったんそちらに行って仕切りなおしてみようか。
 金香が方針を変えてみようとしたときだった。不意に声をかけられた。
「道に迷っておられるのですか」
 声は涼やかだった。
 男の人の声だ。しかも若い。
 金香は少しびくりとしてしまう。
 男性は苦手なので。
 それでも振り向いた。
 そこにはすらりとした男性が立っていた。風呂敷包みを腕に抱えている。
 源清先生と同じほどの年頃に見えた。すなわち成人して男として久しい良い年頃のようだ。
 茶色い短い髪。ちょっと釣り気味の眼。
 源清先生とは真逆のタイプ、一目で男性とわかる精悍な姿をしていた。
 そのために金香はちょっと臆してしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

籠の鳥〜見えない鎖に囚われて✿❦二人の愛から…逃れられない。

クラゲ散歩
恋愛
私。ユリアナ=オリーブ(17)は、自然豊かなオータム国にあるグローパー学院に在籍している。 3年生になって一ヶ月が経ったある日。学院長に呼ばれた。技術と魔術の発展しているフォール国にある。姉妹校のカイト学院に。同じクラスで3年生の男子3名と女子3名(私を含め)。計6名で、半年の交換留学をする事になった。 ユリアナは、気楽な気持ちで留学をしたのだが…まさか学院で…あの二人に会うなんて。これは…仕組まれていたの?幼い頃の記憶。 「早く。早く。逃げなきゃ。誰か〜私を…ここから…。」

【完結】こっち向いて!少尉さん - My girl, you are my sweetest! - 

文野さと@書籍化・コミカライズ
恋愛
今日もアンは広い背中を追いかける。 美しい近衛士官のレイルダー少尉。彼の視界に入りたくて、アンはいつも背伸びをするのだ。 彼はいつも自分とは違うところを見ている。 でも、それがなんだというのか。 「大好き」は誰にも止められない! いつか自分を見てもらいたくて、今日もアンは心の中で呼びかけるのだ。 「こっち向いて! 少尉さん」 ※30話くらいの予定。イメージイラストはバツ様です。掲載の許可はいただいております。 物語の最後の方に戦闘描写があります。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

恋と首輪

山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。 絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。 地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。 冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。 「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」 イケメン財閥御曹司 東雲 蓮 × 「私はあなたが嫌いです。」 訳あり平凡女子 月宮 みゆ 愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。 訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜

和泉 花奈
恋愛
主人公の観月 奈緒(25)は、ある日突然仕事に行けなくなり、ずっとお家の中に引きこもっている。 そんな自分を変えたくて足掻き苦しんでいるが、なかなかあと一歩が踏み出せずにいる。 勇気を出して家から出た奈緒は、たまたまぶつかった須藤 悠翔という男に出会い、運命が大きく揺れ動く。 ※突然で申し訳ないのですが、投稿方式を変えました。 これまで1〜3話をまとめて1話にしておりますが、各話1話ずつそれぞれで公開することにしました。 急な変更に伴い、読者の皆様にご迷惑をお掛けして申し訳ございません。 これからも引き続き作品の応援をよろしくお願い致します。                   2025/10/21 和泉 花奈

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

本日、訳あり軍人の彼と結婚します~ド貧乏な軍人伯爵さまと結婚したら、何故か甘く愛されています~

扇 レンナ
キャラ文芸
政略結婚でド貧乏な伯爵家、桐ケ谷《きりがや》家の当主である律哉《りつや》の元に嫁ぐことになった真白《ましろ》は大きな事業を展開している商家の四女。片方はお金を得るため。もう片方は華族という地位を得るため。ありきたりな政略結婚。だから、真白は律哉の邪魔にならない程度に存在していようと思った。どうせ愛されないのだから――と思っていたのに。どうしてか、律哉が真白を見る目には、徐々に甘さがこもっていく。 (雇う余裕はないので)使用人はゼロ。(時間がないので)邸宅は埃まみれ。 そんな場所で始まる新婚生活。苦労人の伯爵さま(軍人)と不遇な娘の政略結婚から始まるとろける和風ラブ。 ▼掲載先→エブリスタ、アルファポリス ※エブリスタさんにて先行公開しております。ある程度ストックはあります。

処理中です...