39 / 125
内弟子入り③
しおりを挟む
「では、源清流門下生についてお話しようか」などと、その日は詳しいお話となった。
源清流門下生は何名か居て、一人、唯一の女子である門下生は事情があって少々休暇の状態になっているのだと源清先生は言った。
女の子の門下生もいらっしゃるのね。
金香は思ってちくりと胸が痛むのを感じた。
門下生も通いの者が多いらしい。高等学校へ通っていたり、家が近いために内弟子に入るまでも無いという理由だと言っていた。
木曜日は弟子の添削に使うことが多い、と言っていた源清先生であるが、それは高等学校へ出向いたりすることもある、という理由もあったそうだ。そしてそれは大抵午前中なのだと。
午後はこの自宅へやってくる門下生の添削をしたりして過ごすのだと言われた。
「校長先生にもお礼を申し上げないとね」
内弟子のお話をお受けして、細々とした色々が済み、あとは引っ越しばかりとなった頃会いに源清先生は言った。
金香は寺子屋の仕事を完全に辞めることは無かったのだ。毎日のように通っていた今までとは違い、週に三日ほど通うことになっていた。
寺子屋を卒業したときから、今まで長いことお世話になっていたのだ。散々お世話になっておいてすっぱり辞めてしまうのも躊躇われたし、それに内弟子になったとはいえ、常に文を書いていられる身分でもない。
『仕事』として出掛けることも良いと思ったし、今までよりさらに減りはするものの、お賃金もいただける。内弟子として食事などは供されると聞いたが、寺子屋からのお金で自分の身の回りのものくらいは揃えられるであろう。
金香の「内弟子に入ることになりましたので……」という相談に校長は少し渋った。
勉強を教える者が減ればそれだけ子供たちへの指導の質は落ちることになる。そのくらいに頼られていたことは嬉しいのだけど。そこを交渉してくださったのは源清先生であった。
「内弟子とはいえ、常に拘束しているわけではないのです」
「門下生たちも、高等学校へ通ったり家の仕事を手伝ったりして、いくつかやることを掛け持ちしております」
「巴さんも、そのようにしていただければいかがでしょうか」
など。
自分のためにわざわざ出向いて校長と交渉してくださったことが、金香は嬉しかった。それだけ自分を弟子にと望んでくれているのだと感じられたので。
結局、毎日のように通っていたところを週に三日程度まで減らしてもらうことで、交渉は成立した。
寺子屋への通勤はそれほど大変ではない。
金香の暮らしていた家と、源清先生のお宅のある場所に挟まれている『町』のはずれにあるのだ。源清先生のお宅から家へ毎日帰ることを考えればずっと近かった。
内弟子に入ることも、寺子屋の仕事をどうするかについても、そして家についても(これは父親に「好きにしろ」と言われた時点で九割方話がついていたのであるが)かたがついた。あとは引っ越しばかり。
物心ついてから大規模な引っ越しなど初めてであった。
「弟子たちにも手伝わせよう」などと言われて、恐縮しつつも金香はお言葉に甘えた。
引っ越しのために荷物もまとめた。
出来る限り荷は減らそうと身の回りのものも少し整理した。服や小物はどうしてもある程度の量になってしまったが。
これからの生活は愉しいかしら。
好きな文を書いて暮らせるなんて、愉しいに決まっている。
着物を丁寧に畳みながら、金香はこれからの生活に想いを馳せた。
このようなこと、まったくあとから考えれば、馬鹿のように無邪気すぎることだった。
源清流門下生は何名か居て、一人、唯一の女子である門下生は事情があって少々休暇の状態になっているのだと源清先生は言った。
女の子の門下生もいらっしゃるのね。
金香は思ってちくりと胸が痛むのを感じた。
門下生も通いの者が多いらしい。高等学校へ通っていたり、家が近いために内弟子に入るまでも無いという理由だと言っていた。
木曜日は弟子の添削に使うことが多い、と言っていた源清先生であるが、それは高等学校へ出向いたりすることもある、という理由もあったそうだ。そしてそれは大抵午前中なのだと。
午後はこの自宅へやってくる門下生の添削をしたりして過ごすのだと言われた。
「校長先生にもお礼を申し上げないとね」
内弟子のお話をお受けして、細々とした色々が済み、あとは引っ越しばかりとなった頃会いに源清先生は言った。
金香は寺子屋の仕事を完全に辞めることは無かったのだ。毎日のように通っていた今までとは違い、週に三日ほど通うことになっていた。
寺子屋を卒業したときから、今まで長いことお世話になっていたのだ。散々お世話になっておいてすっぱり辞めてしまうのも躊躇われたし、それに内弟子になったとはいえ、常に文を書いていられる身分でもない。
『仕事』として出掛けることも良いと思ったし、今までよりさらに減りはするものの、お賃金もいただける。内弟子として食事などは供されると聞いたが、寺子屋からのお金で自分の身の回りのものくらいは揃えられるであろう。
金香の「内弟子に入ることになりましたので……」という相談に校長は少し渋った。
勉強を教える者が減ればそれだけ子供たちへの指導の質は落ちることになる。そのくらいに頼られていたことは嬉しいのだけど。そこを交渉してくださったのは源清先生であった。
「内弟子とはいえ、常に拘束しているわけではないのです」
「門下生たちも、高等学校へ通ったり家の仕事を手伝ったりして、いくつかやることを掛け持ちしております」
「巴さんも、そのようにしていただければいかがでしょうか」
など。
自分のためにわざわざ出向いて校長と交渉してくださったことが、金香は嬉しかった。それだけ自分を弟子にと望んでくれているのだと感じられたので。
結局、毎日のように通っていたところを週に三日程度まで減らしてもらうことで、交渉は成立した。
寺子屋への通勤はそれほど大変ではない。
金香の暮らしていた家と、源清先生のお宅のある場所に挟まれている『町』のはずれにあるのだ。源清先生のお宅から家へ毎日帰ることを考えればずっと近かった。
内弟子に入ることも、寺子屋の仕事をどうするかについても、そして家についても(これは父親に「好きにしろ」と言われた時点で九割方話がついていたのであるが)かたがついた。あとは引っ越しばかり。
物心ついてから大規模な引っ越しなど初めてであった。
「弟子たちにも手伝わせよう」などと言われて、恐縮しつつも金香はお言葉に甘えた。
引っ越しのために荷物もまとめた。
出来る限り荷は減らそうと身の回りのものも少し整理した。服や小物はどうしてもある程度の量になってしまったが。
これからの生活は愉しいかしら。
好きな文を書いて暮らせるなんて、愉しいに決まっている。
着物を丁寧に畳みながら、金香はこれからの生活に想いを馳せた。
このようなこと、まったくあとから考えれば、馬鹿のように無邪気すぎることだった。
0
あなたにおすすめの小説
籠の鳥〜見えない鎖に囚われて✿❦二人の愛から…逃れられない。
クラゲ散歩
恋愛
私。ユリアナ=オリーブ(17)は、自然豊かなオータム国にあるグローパー学院に在籍している。
3年生になって一ヶ月が経ったある日。学院長に呼ばれた。技術と魔術の発展しているフォール国にある。姉妹校のカイト学院に。同じクラスで3年生の男子3名と女子3名(私を含め)。計6名で、半年の交換留学をする事になった。
ユリアナは、気楽な気持ちで留学をしたのだが…まさか学院で…あの二人に会うなんて。これは…仕組まれていたの?幼い頃の記憶。
「早く。早く。逃げなきゃ。誰か〜私を…ここから…。」
【完結】こっち向いて!少尉さん - My girl, you are my sweetest! -
文野さと@書籍化・コミカライズ
恋愛
今日もアンは広い背中を追いかける。
美しい近衛士官のレイルダー少尉。彼の視界に入りたくて、アンはいつも背伸びをするのだ。
彼はいつも自分とは違うところを見ている。
でも、それがなんだというのか。
「大好き」は誰にも止められない!
いつか自分を見てもらいたくて、今日もアンは心の中で呼びかけるのだ。
「こっち向いて! 少尉さん」
※30話くらいの予定。イメージイラストはバツ様です。掲載の許可はいただいております。
物語の最後の方に戦闘描写があります。
助けた騎士団になつかれました。
藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。
しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。
一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。
☆本編完結しました。ありがとうございました!☆
番外編①~2020.03.11 終了
【完結】ルースの祈り ~笑顔も涙もすべて~
ねるねわかば
恋愛
悪路に閉ざされた貧しい辺境ルースライン領。
兄を支えたい子爵令嬢リゼは、視察に来た調査官のずさんな仕事に思わず異議を唱える。
異議を唱えた相手は、侯爵家の子息で冷静沈着な官吏ギルベルト。
最悪の出会いだった二人だが、領の問題に向き合う中で互いの誠実さを知り、次第に理解し合っていく。
やがてリゼが王都で働き始めたことを機に距離を縮める二人。しかし立ちはだかるのは身分差と政略結婚という現実。自分では彼の未来を縛れないと、リゼは想いを押し込めようとする。
そんな中、故郷の川で拾われる“名もなき石”が思わぬ縁を呼び、リゼの選択と領の未来を動かしていく――。
想いと責務の狭間で揺れる青年と、自分を後回しにしがちな少女。
すれ違いと葛藤の先で、二人は互いを選び取れるのか。
辺境令嬢の小さな勇気が恋と運命を変えていく。
※作中の仕事や災害、病、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。
※8万字前後になる予定です。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜
和泉 花奈
恋愛
主人公の観月 奈緒(25)は、ある日突然仕事に行けなくなり、ずっとお家の中に引きこもっている。
そんな自分を変えたくて足掻き苦しんでいるが、なかなかあと一歩が踏み出せずにいる。
勇気を出して家から出た奈緒は、たまたまぶつかった須藤 悠翔という男に出会い、運命が大きく揺れ動く。
※突然で申し訳ないのですが、投稿方式を変えました。
これまで1〜3話をまとめて1話にしておりますが、各話1話ずつそれぞれで公開することにしました。
急な変更に伴い、読者の皆様にご迷惑をお掛けして申し訳ございません。
これからも引き続き作品の応援をよろしくお願い致します。
2025/10/21 和泉 花奈
本日、訳あり軍人の彼と結婚します~ド貧乏な軍人伯爵さまと結婚したら、何故か甘く愛されています~
扇 レンナ
キャラ文芸
政略結婚でド貧乏な伯爵家、桐ケ谷《きりがや》家の当主である律哉《りつや》の元に嫁ぐことになった真白《ましろ》は大きな事業を展開している商家の四女。片方はお金を得るため。もう片方は華族という地位を得るため。ありきたりな政略結婚。だから、真白は律哉の邪魔にならない程度に存在していようと思った。どうせ愛されないのだから――と思っていたのに。どうしてか、律哉が真白を見る目には、徐々に甘さがこもっていく。
(雇う余裕はないので)使用人はゼロ。(時間がないので)邸宅は埃まみれ。
そんな場所で始まる新婚生活。苦労人の伯爵さま(軍人)と不遇な娘の政略結婚から始まるとろける和風ラブ。
▼掲載先→エブリスタ、アルファポリス
※エブリスタさんにて先行公開しております。ある程度ストックはあります。
皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる
若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ!
数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。
跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。
両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。
――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう!
エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。
彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。
――結婚の約束、しただろう?
昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。
(わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?)
記憶がない。記憶にない。
姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない!
都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。
若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。
後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。
(そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?)
ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。
エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。
だから。
この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し?
弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに?
ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる