81 / 125
朝顔の悩み④
しおりを挟む
悩み、悩み、何度も消して。
ようやく下書きを書き終わった。
一時間は経っていただろう。あとは清書するのみ。
清書は勿論、便せんを使う。
ここのところ手紙を書く機会はなかったが、気に入りの便せんと封筒は荷物の中に入れて持ってきていた。
控えめに朝顔の絵が描かれている、和紙の便せん。箔が散らしてあって、角度を変えればきらきらと光る。
見付けた瞬間、気に入ったものだった。大切な気持ちを伝えるにふさわしいだろう。
ペンを持ち、間違えないように丁寧に綴っていく。
冒頭はともかく、そのあとを書くのには手が震えて、余計に気を入れなくてはならなかった。
『わたくしも先生のことを、お慕いしております』
『しかし、わたくしは怖いのです』
『怖いというのは、先生ご本人がでも、男性がでもありません』
『特別に想って頂くことに恐怖感を覚えてしまいました』
『その理由が自分でもわからないのです』
内容はおおまかにこのようなことだった。かなりぼんやりとした内容になってしまったがすべて自分の素直な気持ちだ。
何度も考え推敲したものの、これが一番率直だと思った。ここにきて言い繕ったりするほうがコトを悪いほうへ向かわせてしまうだろうし、また失礼でもある。
ペンのインクをしばらくおいて、そっと触って乾いたことを確認する。
半分に折って封筒に入れた。糊で封をする。
あとはこれを先生にお渡しするのみだが直接お渡しするのはやはり不安感がある。
幸いまだ夕刻には早い。先生はきっとまだご帰宅されていないだろう。だいぶ狡い手段であるが、お部屋の傍にでも置かせていただこうと思って金香はそっと部屋から出た。
廊下を見渡し、ついでに玄関をちらりと確認して先生の履物がまだそこに無いことを確かめた。
まるで泥棒かなにかのよう。
自分のことを情けなく思ったが、手紙にする時点で臆病なのだから仕方がない。やるしかないのだ。
屋敷のひとに遭遇しないよう願いながら、そろそろと先生の部屋へ向かい。
勝手に入るなどという無礼は勿論働けないので、扉の隙間にそっと挟んできた。
そして逃げるように部屋へ帰る。扉を閉めて、詰めていた息を、はぁ、と長く吐き出してしまった。
やり遂げた。
直接ではないのでそんなふうに堂々と言って良いのかわからないが、とにかく出来る限りの行動はした。あとはご帰宅された先生に気付いていただくのみ。
扉を開ければ、挟んである封筒に気付かれるだろう。
そして封を開けて読まれる。
想像しただけで頬が燃えた。再び手も震えてくる。
勿論、昨日先生に触れられたときとは比べ物にならないが。
が、やらなければきっとなにもはじまらない。
先生に届きますように、と願う。
手紙が、と同時に、自分の本当の気持ちが。
ようやく下書きを書き終わった。
一時間は経っていただろう。あとは清書するのみ。
清書は勿論、便せんを使う。
ここのところ手紙を書く機会はなかったが、気に入りの便せんと封筒は荷物の中に入れて持ってきていた。
控えめに朝顔の絵が描かれている、和紙の便せん。箔が散らしてあって、角度を変えればきらきらと光る。
見付けた瞬間、気に入ったものだった。大切な気持ちを伝えるにふさわしいだろう。
ペンを持ち、間違えないように丁寧に綴っていく。
冒頭はともかく、そのあとを書くのには手が震えて、余計に気を入れなくてはならなかった。
『わたくしも先生のことを、お慕いしております』
『しかし、わたくしは怖いのです』
『怖いというのは、先生ご本人がでも、男性がでもありません』
『特別に想って頂くことに恐怖感を覚えてしまいました』
『その理由が自分でもわからないのです』
内容はおおまかにこのようなことだった。かなりぼんやりとした内容になってしまったがすべて自分の素直な気持ちだ。
何度も考え推敲したものの、これが一番率直だと思った。ここにきて言い繕ったりするほうがコトを悪いほうへ向かわせてしまうだろうし、また失礼でもある。
ペンのインクをしばらくおいて、そっと触って乾いたことを確認する。
半分に折って封筒に入れた。糊で封をする。
あとはこれを先生にお渡しするのみだが直接お渡しするのはやはり不安感がある。
幸いまだ夕刻には早い。先生はきっとまだご帰宅されていないだろう。だいぶ狡い手段であるが、お部屋の傍にでも置かせていただこうと思って金香はそっと部屋から出た。
廊下を見渡し、ついでに玄関をちらりと確認して先生の履物がまだそこに無いことを確かめた。
まるで泥棒かなにかのよう。
自分のことを情けなく思ったが、手紙にする時点で臆病なのだから仕方がない。やるしかないのだ。
屋敷のひとに遭遇しないよう願いながら、そろそろと先生の部屋へ向かい。
勝手に入るなどという無礼は勿論働けないので、扉の隙間にそっと挟んできた。
そして逃げるように部屋へ帰る。扉を閉めて、詰めていた息を、はぁ、と長く吐き出してしまった。
やり遂げた。
直接ではないのでそんなふうに堂々と言って良いのかわからないが、とにかく出来る限りの行動はした。あとはご帰宅された先生に気付いていただくのみ。
扉を開ければ、挟んである封筒に気付かれるだろう。
そして封を開けて読まれる。
想像しただけで頬が燃えた。再び手も震えてくる。
勿論、昨日先生に触れられたときとは比べ物にならないが。
が、やらなければきっとなにもはじまらない。
先生に届きますように、と願う。
手紙が、と同時に、自分の本当の気持ちが。
0
あなたにおすすめの小説
籠の鳥〜見えない鎖に囚われて✿❦二人の愛から…逃れられない。
クラゲ散歩
恋愛
私。ユリアナ=オリーブ(17)は、自然豊かなオータム国にあるグローパー学院に在籍している。
3年生になって一ヶ月が経ったある日。学院長に呼ばれた。技術と魔術の発展しているフォール国にある。姉妹校のカイト学院に。同じクラスで3年生の男子3名と女子3名(私を含め)。計6名で、半年の交換留学をする事になった。
ユリアナは、気楽な気持ちで留学をしたのだが…まさか学院で…あの二人に会うなんて。これは…仕組まれていたの?幼い頃の記憶。
「早く。早く。逃げなきゃ。誰か〜私を…ここから…。」
【完結】こっち向いて!少尉さん - My girl, you are my sweetest! -
文野さと@書籍化・コミカライズ
恋愛
今日もアンは広い背中を追いかける。
美しい近衛士官のレイルダー少尉。彼の視界に入りたくて、アンはいつも背伸びをするのだ。
彼はいつも自分とは違うところを見ている。
でも、それがなんだというのか。
「大好き」は誰にも止められない!
いつか自分を見てもらいたくて、今日もアンは心の中で呼びかけるのだ。
「こっち向いて! 少尉さん」
※30話くらいの予定。イメージイラストはバツ様です。掲載の許可はいただいております。
物語の最後の方に戦闘描写があります。
助けた騎士団になつかれました。
藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。
しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。
一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。
☆本編完結しました。ありがとうございました!☆
番外編①~2020.03.11 終了
【完結】ルースの祈り ~笑顔も涙もすべて~
ねるねわかば
恋愛
悪路に閉ざされた貧しい辺境ルースライン領。
兄を支えたい子爵令嬢リゼは、視察に来た調査官のずさんな仕事に思わず異議を唱える。
異議を唱えた相手は、侯爵家の子息で冷静沈着な官吏ギルベルト。
最悪の出会いだった二人だが、領の問題に向き合う中で互いの誠実さを知り、次第に理解し合っていく。
やがてリゼが王都で働き始めたことを機に距離を縮める二人。しかし立ちはだかるのは身分差と政略結婚という現実。自分では彼の未来を縛れないと、リゼは想いを押し込めようとする。
そんな中、故郷の川で拾われる“名もなき石”が思わぬ縁を呼び、リゼの選択と領の未来を動かしていく――。
想いと責務の狭間で揺れる青年と、自分を後回しにしがちな少女。
すれ違いと葛藤の先で、二人は互いを選び取れるのか。
辺境令嬢の小さな勇気が恋と運命を変えていく。
※作中の仕事や災害、病、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。
※8万字前後になる予定です。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜
和泉 花奈
恋愛
主人公の観月 奈緒(25)は、ある日突然仕事に行けなくなり、ずっとお家の中に引きこもっている。
そんな自分を変えたくて足掻き苦しんでいるが、なかなかあと一歩が踏み出せずにいる。
勇気を出して家から出た奈緒は、たまたまぶつかった須藤 悠翔という男に出会い、運命が大きく揺れ動く。
※突然で申し訳ないのですが、投稿方式を変えました。
これまで1〜3話をまとめて1話にしておりますが、各話1話ずつそれぞれで公開することにしました。
急な変更に伴い、読者の皆様にご迷惑をお掛けして申し訳ございません。
これからも引き続き作品の応援をよろしくお願い致します。
2025/10/21 和泉 花奈
本日、訳あり軍人の彼と結婚します~ド貧乏な軍人伯爵さまと結婚したら、何故か甘く愛されています~
扇 レンナ
キャラ文芸
政略結婚でド貧乏な伯爵家、桐ケ谷《きりがや》家の当主である律哉《りつや》の元に嫁ぐことになった真白《ましろ》は大きな事業を展開している商家の四女。片方はお金を得るため。もう片方は華族という地位を得るため。ありきたりな政略結婚。だから、真白は律哉の邪魔にならない程度に存在していようと思った。どうせ愛されないのだから――と思っていたのに。どうしてか、律哉が真白を見る目には、徐々に甘さがこもっていく。
(雇う余裕はないので)使用人はゼロ。(時間がないので)邸宅は埃まみれ。
そんな場所で始まる新婚生活。苦労人の伯爵さま(軍人)と不遇な娘の政略結婚から始まるとろける和風ラブ。
▼掲載先→エブリスタ、アルファポリス
※エブリスタさんにて先行公開しております。ある程度ストックはあります。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる