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大きな愛に包まれて①
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今夜はきっとなにかある。
非常に高いその可能性に金香は夕餉のあとからそわそわしてしまい、早めに湯まで使ってしまった。普段は遠慮もあってあとのほうにとしているのだが、今日ばかりは早い湯をいただいた。
浴衣は……普段ならもう夜着にしてしまうのだが、万一、先生とお逢いするのであれば夜着では無理だ。よって、浴衣……一応、昼間にも着られるもの……を選ぶ。
どれにしようか悩んだのだが、目についたのは薄い水色の水紋が入ったものであった。
青色は心を落ち着けてくれるような気がする。
着てからなにかが引っかかった。
水色?
水紋?
……水?
先生の号は『水』に縁がある。
『源清』というのは清い水の源を連想させる名字だ。
無意識のうちに先生を表すような『水』を選んでいたのだろうか。
気付いてしまって顔が熱くなった。
しかしそこで、むしろこのことに先生が気付いてくださったら、と思った。
花の一輪にも意味を見出す、先生。この柄から『先生のことを受け入れます』という気持ちに、気付いて貰えたら。
とても恥ずかしく、またやはり恐ろしさもあるものの、そう願うのは本心。
それでもこちらから押しかけていく勇気はまだない。先生が来てくださるとは限らないけれど。
落ち着いて、落ち着いて。
課題を片付けましょう。
心臓は落ち着かないものの、昨夜よりはずっとましになっていた金香はそうまで思い、文机に向かった。
今日の題を開いて思わず目を瞬いてしまった。
題は『川』だったのだから。
『水』だ。
この題を出されたのは数日前。今日に当たったのは偶然に決まっている。
だというのに、なんということか。
金香は感嘆してしまった。些細なことではあるが、なんだか良い兆候に思えてしまって。
落ち着いて。
もう一度自分に言い聞かせて、まずは砂時計に手を伸ばして逆さにした。桃色の砂が、さらさらと落ちはじめる。それははじまりの合図だ。
頭の中に川を思い浮かべる。
こぽりと水が湧いて泉となる。そこから流れ、流れて細い川から徐々にほかの川と合わさって、太い川となり、そして最後は海へ。
海を見たことはまだない。しかしきっと綺麗なものなのだろう。
流れを一通り想像して、そこから話になるように連想を繰り返した。
まずは鍵となる単語を書いていって、そこからそれらを繋げて脈絡ある文にしていくのが、金香のやりかたであった。
いくつかの単語が並び、ひとまず文の向かう先は決まる。
既に砂時計の底には砂が積もりつつあった。落ち切ってしまう前には完成させる。
すう、と息をして鉛筆を走らせる。
意外であったが、書けている。
昨日のことばかりが頭に浮かんで到底手につかないと思ったのに。
書きながら金香は意外に思った。その思考すら落ち着いている。
手紙を書いたことで思考が整理され、また一区切りができたのかもしれない。
文を書くことが好きな自分には最適だったのかもしれない、と金香は思い、次の文を考えはじめたのだが。
不意にこんこん、と扉が鳴った。
こればかりはどうしようもなく、心臓が喉から出そうになる。
いらした。
多分、源清先生。
ほかに今、訪ねてくるひとなどいるわけがないではないか。
非常に高いその可能性に金香は夕餉のあとからそわそわしてしまい、早めに湯まで使ってしまった。普段は遠慮もあってあとのほうにとしているのだが、今日ばかりは早い湯をいただいた。
浴衣は……普段ならもう夜着にしてしまうのだが、万一、先生とお逢いするのであれば夜着では無理だ。よって、浴衣……一応、昼間にも着られるもの……を選ぶ。
どれにしようか悩んだのだが、目についたのは薄い水色の水紋が入ったものであった。
青色は心を落ち着けてくれるような気がする。
着てからなにかが引っかかった。
水色?
水紋?
……水?
先生の号は『水』に縁がある。
『源清』というのは清い水の源を連想させる名字だ。
無意識のうちに先生を表すような『水』を選んでいたのだろうか。
気付いてしまって顔が熱くなった。
しかしそこで、むしろこのことに先生が気付いてくださったら、と思った。
花の一輪にも意味を見出す、先生。この柄から『先生のことを受け入れます』という気持ちに、気付いて貰えたら。
とても恥ずかしく、またやはり恐ろしさもあるものの、そう願うのは本心。
それでもこちらから押しかけていく勇気はまだない。先生が来てくださるとは限らないけれど。
落ち着いて、落ち着いて。
課題を片付けましょう。
心臓は落ち着かないものの、昨夜よりはずっとましになっていた金香はそうまで思い、文机に向かった。
今日の題を開いて思わず目を瞬いてしまった。
題は『川』だったのだから。
『水』だ。
この題を出されたのは数日前。今日に当たったのは偶然に決まっている。
だというのに、なんということか。
金香は感嘆してしまった。些細なことではあるが、なんだか良い兆候に思えてしまって。
落ち着いて。
もう一度自分に言い聞かせて、まずは砂時計に手を伸ばして逆さにした。桃色の砂が、さらさらと落ちはじめる。それははじまりの合図だ。
頭の中に川を思い浮かべる。
こぽりと水が湧いて泉となる。そこから流れ、流れて細い川から徐々にほかの川と合わさって、太い川となり、そして最後は海へ。
海を見たことはまだない。しかしきっと綺麗なものなのだろう。
流れを一通り想像して、そこから話になるように連想を繰り返した。
まずは鍵となる単語を書いていって、そこからそれらを繋げて脈絡ある文にしていくのが、金香のやりかたであった。
いくつかの単語が並び、ひとまず文の向かう先は決まる。
既に砂時計の底には砂が積もりつつあった。落ち切ってしまう前には完成させる。
すう、と息をして鉛筆を走らせる。
意外であったが、書けている。
昨日のことばかりが頭に浮かんで到底手につかないと思ったのに。
書きながら金香は意外に思った。その思考すら落ち着いている。
手紙を書いたことで思考が整理され、また一区切りができたのかもしれない。
文を書くことが好きな自分には最適だったのかもしれない、と金香は思い、次の文を考えはじめたのだが。
不意にこんこん、と扉が鳴った。
こればかりはどうしようもなく、心臓が喉から出そうになる。
いらした。
多分、源清先生。
ほかに今、訪ねてくるひとなどいるわけがないではないか。
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