遅咲き鬱金香(チューリップ)の花咲く日

白妙スイ@1/9新刊発売

文字の大きさ
99 / 125

秋のディトはすぺしゃるな①

しおりを挟む
「ディトに行こう」
 しかしながら、その『一歩』もかわいらしいものであった。
 ある日誘われて、金香は目をぱちくりとさせた。
 連れ立って買い物などに行ったことはあったのだが、『ディト』などと言われたのは初めてであった。
 今までのものは違ったのだろうか、と思ってちょっと不安になってしまったのだ。
 が、麓乎の意図は違ったらしい。
「洋式の『ディト』を実行してみようと思ってね」
 ああ、なるほど。
 金香はその言葉で納得した。
 今までは日常の延長だったのだ。
 つまり、特別も特別、『すぺしゃる』な、おでかけというわけだろう。その思考を麓乎が裏付けた。
「洋式なのだから、洋装で行かねばだろう。用意してみたよ」
「え、洋服をですか」
 言われて驚いた。洋装をしたことがないとは言わないが完全な『全身の洋装』というのはしたことがなかったのだ。
 女性の洋装は上はぶらうす。下はすかーとというものだということは知っている。
 しかし高価なものであるし町中でも扱っている店は限られていた。
「ああ。珠子さんに選んで貰ったからね。間違いはないだろう」
「珠子さんが」
 あのお洒落でハイカラな珠子が。
 それは間違いなどあるはずがない。
 むしろどれほど素敵なものなのか楽しみになってしまった。
 珠子の家に頼めば洋装などすぐに手に入るということについても納得した。お高いものだろうからお金の面は少し気になったのだけど。
「少し待っておくれ」
 言って麓乎は箪笥へ向かった。
 出てきたものを見て金香は驚いた。包みが既にとてもうつくしいものであったので。
 桃色の薄紙に包まれて、なにやら外国の文字が入った紅いりぼんがかけられている。
「まだ贈り物をしたことがなかったね。初めての贈り物だ」
「あ、ありがとうございます!」
 もう『勿体ない』などとは言わなかった。
 以前と同じように、確かに『自分には勿体ない』と思いはするのだが言葉にはしない。そのほうがきっと良いものだと思うようになったから。
 人の褒め言葉や好意は素直に受け取って、よろこびを表現したほうが良い。
 それは金香にとっては大きな変化であった。
 勿論、良いほうへの。
「開けてみておくれ」
「はい!」
 渡されて金香はちょっと迷った。
 どう開けたら良いのだろう。
 まずはりぼんをほどいたら良いだろう。
 そろっと引っ張る。りぼんは簡単にするりと解けた。
 次に紙に手をかける。
 留めているところをそうっと剥がそうとしたが、ぺりっと薄紙が破れてしまった。乱暴だったかと焦ったが麓乎は笑った。
「テープというもので留められているから、どうしても破れてしまうのだというよ。仕方がない」
 ゆっくりと開けた包みから最初に見えたのは桃色だった。
 なんという名前なのかはわからないが、ふんわりした、冬に似合いそうなあたたかそうな素材でできているようだ。
 そっと持ち上げて広げてみる。
 随分大きかった。持ち上げて全貌を確かめる。
 おそらくこれは、すかーと。着れば多分、膝の下までくるだろう。それどころか足首の近くまで来るかもしれない。
 ほっとした。
 すかーとは随分短いものもあるのだという。脚を出すのは抵抗があった。そういうものも考慮して麓乎と珠子は選んでくれたのかもしれない。
 桃色のすかーとのほかに入っていたのは、白いぶらうすと濃い緑色の上着らしきものであった。
 もう随分寒いのだ。これがあればあたたかそうだ、と金香は思った。
「気に入ってくれたかな」
「はい! とてもかわいらしいです」
「それは良かった」
 金香が心から喜んだのはわかってくれたのだろう、そう言った麓乎は満足げであった。
 「靴もあるのだけどそれは玄関でね」と麓乎は言ったので、靴を見るのはもう少しあとになった。
 これを着て、麓乎とディト。
 想像するだけで、胸が熱く高鳴って仕方がなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

籠の鳥〜見えない鎖に囚われて✿❦二人の愛から…逃れられない。

クラゲ散歩
恋愛
私。ユリアナ=オリーブ(17)は、自然豊かなオータム国にあるグローパー学院に在籍している。 3年生になって一ヶ月が経ったある日。学院長に呼ばれた。技術と魔術の発展しているフォール国にある。姉妹校のカイト学院に。同じクラスで3年生の男子3名と女子3名(私を含め)。計6名で、半年の交換留学をする事になった。 ユリアナは、気楽な気持ちで留学をしたのだが…まさか学院で…あの二人に会うなんて。これは…仕組まれていたの?幼い頃の記憶。 「早く。早く。逃げなきゃ。誰か〜私を…ここから…。」

【完結】こっち向いて!少尉さん - My girl, you are my sweetest! - 

文野さと@書籍化・コミカライズ
恋愛
今日もアンは広い背中を追いかける。 美しい近衛士官のレイルダー少尉。彼の視界に入りたくて、アンはいつも背伸びをするのだ。 彼はいつも自分とは違うところを見ている。 でも、それがなんだというのか。 「大好き」は誰にも止められない! いつか自分を見てもらいたくて、今日もアンは心の中で呼びかけるのだ。 「こっち向いて! 少尉さん」 ※30話くらいの予定。イメージイラストはバツ様です。掲載の許可はいただいております。 物語の最後の方に戦闘描写があります。

うわさの行方

下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。 すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。 戦場から帰るまでは。 三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。 ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。

あざとさを捨てた令嬢は、若き公爵に溺愛される

古紫汐桜
恋愛
婚約者の裏切りを目撃し、命を落とした“私”が目を覚ましたのは、 見知らぬ貴族令嬢の身体の中だった。 そこは、誰かの悪意によって評判を地に落とした世界。 かつて“あざとさ”で生きていた彼女の代わりに、 私はその人生を引き受けることになる。 もう、首を揺らして媚びる生き方はしない。 そう決めた瞬間から、運命は静かに歪み始めた。 冷酷と噂される若公爵ユリエル。 彼もまた、自らの運命に抗い続けてきた男だった。 そんな彼が、私にだけ見せた執着と溺愛。 選び直した生き方の先で待っていたのは、 溺れるほどの愛だった。 あざとさを捨てた令嬢と、運命に翻弄される若公爵。 これは、“やり直し”では終わらない、致命的な恋の物語。

恋と首輪

山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。 絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。 地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。 冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。 「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」 イケメン財閥御曹司 東雲 蓮 × 「私はあなたが嫌いです。」 訳あり平凡女子 月宮 みゆ 愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。 訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

処理中です...