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夏休みと陸上大会

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「そう? さんきゅ。えっと……『りぜ』さんだったよな。漢字は?」

「えっとね、『り』は普通に変換を押せば出ると思う……あ、ああ、それだよ!」

 そのあと『はやと』の字も教えてもらった。

 ふたつのスマホをのぞきこむその作業が、とても近くて。

 胸の奥が、羽根かなにかでくすぐられているようにこそばゆくて、莉瀬はスマホ同士の番号交換を終えてすぐに言っていた。

「じゃあ、あの……連絡するね。そろそろレッスンに行こうかな」

 莉瀬の言葉に乙津くんは……いや、隼斗くんはあっさりうなずいた。

「ああ、そうだな。ひきとめてごめん」

「そんなことないよ! ……」

 嬉しかった、と声に出そうとしたのに言えなかった。

 やっぱり胸が、くすぐったくなってしまって。

 なので莉瀬はただ「じゃ、またね」とだけ言って、その場を離れた。

 駅の構内を出て、むせかえるような暑さの中へ出て、そこでやっと、はーっとため息をつく。

 もう隼斗くんから莉瀬は見えないだろう。


 まさかこんなことになるとは思わなかった。


 でも嬉しくてたまらない。

 心の奥がむずむずする。

 頬も熱くなりそうだ。
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