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少し不安な月の夜
②
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「こんばんは……」
言う声にも力がない。常と違うのがすぐにわかった。
「こんばんは。なにかあったのか」
心配になったノアだったがコリンは言葉を濁す。
「なにかっていうか……入っていい?」
「ああ、もちろんだ。どうぞ」
コリンを普段過ごす部屋に招き入れる。
普段なら明るい顔をしておしゃべりがとまらないのに、今日は寡黙だ。
どうしたのか、と思いつつもノアは「お茶を淹れよう」と毎回コリンが訪ねてきたときそうするように言ったのだが服の裾をぎゅっと掴まれてしまった。
当たり前のようにノアはどきっとしてしまう。
「お茶はいいよ……ここに居て」
弱々しい声で言われれば放っておくことなどできないではないか。コリンの狼の耳も力なく垂れてしまっている。
「具合でも悪いのか?」
彼をソファに座らせる。体調でも崩したかの様子だ。
「ううん……風邪とかじゃないんだけど」
病気ではないようだ。
ちょっとだけ安心して、ノアはその隣に腰をおろした。
コリンはノアの服を掴んだまま。妙に心細げに見えた。
「オレ、前に『月が苦手』って言ったと思うんだけど」
「ああ、そうだったな」
言われて思い出した。
ノアが犬が苦手な理由を話したときに、『誰しも苦手なものくらいある』と、コリンは『月』と挙げていたのである。
あんな綺麗で、手も届かないものを苦手とするのを不思議に思ったのだ。
「なんかねぇ、ヘンな感じになるんだ」
ぽつぽつと話された。ぎゅう、と手に力が入った。
「月が膨らんでくと、だんだんそれが強くなる」
ノアはただそれを聞く。
今ばかりは魔女業のような気持ちだった。不安に陥っているひとの悩みを聞くのも仕事。
「月に関係があるのか? 体調だけじゃなくてか?」
「そうだと思う。目にするとそれが強くなるから」
聞いてみたがコリンは確信があるらしい。はっきりと言い切った。
「月、ねぇ……」
ちょっとだけ考えて、ノアはあることに思い至った。
ひとならざるもの。
多少の知識はある。
「狼男は月の夜に変身するという話を知っているか」
え、とコリンは顔を上げた。
初めて聞いた、という顔だった。
「知らない。それに、変身なんかしないよ」
「それはお前が子供だからじゃないか?」
ノアの言葉には不満げに眉がしかめられた。
「失礼な。オレ、もう子供じゃないし。それに周りの大人だってそんなふうになったりしないよ」
「……そうか……」
言う声にも力がない。常と違うのがすぐにわかった。
「こんばんは。なにかあったのか」
心配になったノアだったがコリンは言葉を濁す。
「なにかっていうか……入っていい?」
「ああ、もちろんだ。どうぞ」
コリンを普段過ごす部屋に招き入れる。
普段なら明るい顔をしておしゃべりがとまらないのに、今日は寡黙だ。
どうしたのか、と思いつつもノアは「お茶を淹れよう」と毎回コリンが訪ねてきたときそうするように言ったのだが服の裾をぎゅっと掴まれてしまった。
当たり前のようにノアはどきっとしてしまう。
「お茶はいいよ……ここに居て」
弱々しい声で言われれば放っておくことなどできないではないか。コリンの狼の耳も力なく垂れてしまっている。
「具合でも悪いのか?」
彼をソファに座らせる。体調でも崩したかの様子だ。
「ううん……風邪とかじゃないんだけど」
病気ではないようだ。
ちょっとだけ安心して、ノアはその隣に腰をおろした。
コリンはノアの服を掴んだまま。妙に心細げに見えた。
「オレ、前に『月が苦手』って言ったと思うんだけど」
「ああ、そうだったな」
言われて思い出した。
ノアが犬が苦手な理由を話したときに、『誰しも苦手なものくらいある』と、コリンは『月』と挙げていたのである。
あんな綺麗で、手も届かないものを苦手とするのを不思議に思ったのだ。
「なんかねぇ、ヘンな感じになるんだ」
ぽつぽつと話された。ぎゅう、と手に力が入った。
「月が膨らんでくと、だんだんそれが強くなる」
ノアはただそれを聞く。
今ばかりは魔女業のような気持ちだった。不安に陥っているひとの悩みを聞くのも仕事。
「月に関係があるのか? 体調だけじゃなくてか?」
「そうだと思う。目にするとそれが強くなるから」
聞いてみたがコリンは確信があるらしい。はっきりと言い切った。
「月、ねぇ……」
ちょっとだけ考えて、ノアはあることに思い至った。
ひとならざるもの。
多少の知識はある。
「狼男は月の夜に変身するという話を知っているか」
え、とコリンは顔を上げた。
初めて聞いた、という顔だった。
「知らない。それに、変身なんかしないよ」
「それはお前が子供だからじゃないか?」
ノアの言葉には不満げに眉がしかめられた。
「失礼な。オレ、もう子供じゃないし。それに周りの大人だってそんなふうになったりしないよ」
「……そうか……」
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