菜の花は五分咲き

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!

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スーパーでばったり

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「んー……、箱とどっちが安いかな」
 ぶつぶつ呟いている背中を見て、やばい、と思った。
 制服の背中しか見たことがないとはいえ、体格と髪型、それから小さく聞こえてくる声でわからないはずがない。
 あの子だ。
 菜月だ。
 一体どうしてこんなところへ。
 思ったけれど、別段おかしなことでもなかった。
 だって、近所ではないようだが、近くの街には住んでいるのだ。
 おまけにこのスーパーは割合大きめ。わざわざ「ここの店を」とやってきてもおかしくない。
 やばい、出るか。
 こんなところで出くわしても、「桜庭さん!」なんて飛びつかんばかりにされるのは確実だったのだ。
 だがすぐにはできなかった。
 なにしろ買い物カゴにはそれなりの量の品物が入っている。即座に全部戻すなんてできるものか。
 だからといって、レジに並ぶなんて、それこそ命取りだ。
 この場所にいるということは、買い物は大方終わっていて、あとは会計なのだろうから。
 並んでいる間に気付かれ、捕まえられるに決まっていた。
 悩んだのは数秒だった。
 おそるおそる、茂は踏み出し、菜月のうしろに立った。
「……空条くん?」
 声をかける。
 かけてから気付いた。
 この子をこちらから名前で呼びかけるのは初めてだ、と。
 菜月は驚いたのだろう、肩がびくっと震えた。
 ばっと振り返る。
 警戒だった、その目。
 茂を認めて、その色はすぐに変わった。ぱぁっと明るいものへと。
「桜庭さんじゃないですか!」
 ああ、自分を見てこんなに嬉しそうな顔をしてくれるやつ。
 今はほかに、そうそういない。
 茂はその目を見て、そう感じてしまった。
 すぐにはっとして、ごく普通のことを口に出す。
「買い物か?」
「ええ! 夕飯の買い物に……桜庭さんもですか?」
 菜月は明るい顔から、嬉しそうな顔に変わる。
 振り返ったところから、体の向きも変えて向き直ってくれる。
「ああ。メシなんて作るんだな。えらいじゃないか」
 ごく普通の会話。
 でもスーパーなんてところで会話しているというだけで、どうにも違和感やら、これはおかしなことだが、くすぐったさのようなものまであったのだ。
 菜月のカゴには野菜や肉がたっぷり入っていた。明らかに手料理をするという様子の買い物だ。
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