菜の花は五分咲き

白妙スイ@1/9新刊発売

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あなたはとてもかわいくて

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「メッセ、返事しないですみません」
 やってきた公園のベンチで、菜月は夏服になっていた制服の膝の上、きゅっと拳を握って、まず切り出した。
 六月も半ば、もう暑いしカフェにでも入りたいところだったが、カフェなんて場所でできる話ではない。
 茂は「外でもいいか」と聞いたし、菜月もそう言われるのはわかっていたとばかりに「はい」とついてきてくれたのだ。
「いや、……読んでくれた、のかな」
「はい」
 茂は、せめてもと買ったペットボトルの冷たいお茶を、やはり両手で握りながら聞いた。
 菜月はペットボトルを横に置いてしまって、ただ肯定する。
「でも実は、読めたのが今日の下校時間で……、もう直接行っちゃったほうが早いかな、とか思って……。駅で待ってれば、いつかは桜庭さんが通るってわかってましたし」
 静かに説明されたけれど、そして殊勝な内容だったけれど、こんな状況には似つかわしくもなく茂はちょっとおかしくなってしまった。
 言葉より行動に出てしまうあたりが、菜月らしい、と思ってしまって。
 思ったら即座に動いてしまう。
 それは子供なのもあるだろうが、きっとそういう性格なのだろう。
「そっか。でも来てくれて、ありがとう」
 菜月は「読めたのが下校時間」と言った。
 それはつまり、茂からメッセージが届いていたのは気付いていたものの、開いて読むのにそれだけ時間が必要だったということだ。
 その事実は示していた。
 菜月も恐れていたのだろうということを。
 茂がなにを送ってきたのかと見てしまい、実感してしまうのを恐れたのだと。
 菜月のこのはっきりした性格ならば、即座に開いて読んでもおかしくなかっただろうに、それができなかったのだという。
 それは茂から送ってくるメッセージが「もう会うのもやめにしよう」だったら、という恐れだったのだろう、と茂は想像してしまった。
「んー……、なにから話したらいいのか……」
 茂はペットボトルを握ったまま、ちょっと視線を上げた。
 公園では奥のほうの遊具で子供たちが遊んでいる。
 そのもっと奥、公園の逆の端にあるベンチで、母親らしきひとたちも何人か。
 子供と母親。
 ことの原因になったことを思い出させてしまって、ちくりと胸が痛んだ。
「まず、はっきり言おう。俺はバツイチだ。二年くらい前に、離婚した」
「……はい」
 茂のはっきりとした説明の言葉。
 菜月にとっては、茂の口から言われるのはまた別のショックだっただろうに、静かに返事をしてくれる。
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