夜が足りない

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今夜のお仕事

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「こんばんはっ。湯原(ゆはら)さん?」
「こんばんは。ああ、湯原だ。ラインしてたレオくんだね」
「はい。レオです。よろしくお願いします」
 今日の客は特に上客だった。見るからに羽振りがいい。
 大体、待ち合わせに指定してきた場所だって銀座だ。金のあるヤツが集まる街。普段の俺には縁のない街。
 そのほうが好都合だけどな。知り合いに会う危険も少ないし。
 湯原と名乗ったその男、年齢は三十代半ばくらいか。でも体を使う仕事をしているか、それとも意識してジムにでも通っているのか、なかなか良い体をしていそう。服を着ている上からでもわかった。
 これは良さそうだ。玲也の体型とそれほど剥離していなさそう。
 きっと今夜の妄想はラクだろう。あとは下手じゃなければ最高になる。
「おにーさん、なにしてるひと?」
 歩きだして、すぐに俺は客の腕にまとわりついた。
 ラインでやりとりした感じだと、軽くてちょっと生意気な子が好きそう。最初のやり取りで「タメ語でいいよ」って言ってきたくらいだ。
 なので挨拶のあとは速攻タメ語に変えたし、こうやってフランクに甘えられるのが好きだろうと踏んで。
 それは間違っていなかったらしく、そのまま受け入れられた。本当のことなんて言うわけないだろうけど、一応訊いておく。
「営業だよ。不動産営業」
 ああ、なるほど。ああいう営業は歩合制のところも多いと聞く。
 それでこれほど羽振りがよさそう、ってわけか。それほど大きなウソではなさそうだった。少なくとも歩合制である仕事であることは本当のようだし。
 そのへんはどうでもいいけど、頭の中は現在ヒマなのでそんなことを考える。
 秋も深まって、俺は制服のジャケットの下にセーターを着るようになっていた。わざとちょっと袖の長いセーター。萌え袖になるように着ていた。
 ジャケットは体に沿うようなタイトめの作りなんだけど、このセーター、長いのは袖だけでボディ部分は薄いので着られないことはない。
 割といいやつなんだ。カシミア素材で、薄くてもあったかい。
 金があれば商売道具だって良いものに出来るのであった。
「夕ご飯、フレンチでいいかな。いい店があるんだ」
「え! 高いんじゃないの?」
「そんなことないよ。いつも行くとこだし」
 嘘つけ、高級店だろ。お前の「いつも」はどんだけ高級なんだ。
 心の中で突っ込む。まったく、いい世界に住んでるやつもいるもんだ。
 まぁでも、オトコノコなんて買う時点でどこか満たされてないところがあるんだろうけど。
 そこは多分、俺と同じなんだと、思う。勝手な想像だけど。
「フレンチなんて、なかなか食べないから楽しみ!」
 ぎゅっとしがみつく。あたたかかった。
 たとえ金と妄想のやりとりで繋がろうとしている男であろうとも。
 この体温は本物だ。
「高校生だとそうだよな。俺も中学とか高校の頃は、マックとかミスドとかばっかだったし」
「そうなんだ? なんか親近感沸くなぁ」
 どうでもいい話をしながら連れていかれた店はやっぱり高級店で、美味い料理を腹いっぱい食わせてもらった。
「一杯どう?」
「やだなー、高校生だからお酒は駄目だよ」
「いいからいいから。美味しいよ。試してみな」
 そんなやりとりで、ワインを一杯飲まされた。酒なんて実のところ合法的に飲める年齢なんだし、もう一杯なんかじゃ酔いもしない。でも俺は期待されているだろう反応として「うー、ふわふわするー」なんて言っておく。
 そのあとは勿論ホテル。ラブホじゃなくてシティホテルだった。
 まぁ当然。ラブホじゃ制服はアウトだ。
 シティホテルなら、あからさまに援交でもなにもいわれやしない。
 ホテルに入るなり男は俺を抱き寄せてくる。俺も酔った勢いでテンションがあがっている、という風を装って男の首に腕を回した。
 こういう援交という行為にありがちな『キスはNG』という決まりは特にない。今更だろう。女の子と散々キスをしておいて。そのへんの貞操感はない。
 なので俺からくちびるを寄せる。すぐにしゃぶりつくように食いつかれた。
 俺の妄想もここからスタートする。
 玲也が俺を抱き寄せる。
 俺もそれに応えて身を寄せる。
 そしてキスをするのだ。
 まぁ、玲也はキスなんてしたことないだろうから、今、実際にキスしてるこの男よりもっとずっと下手なキスをするんだろうけど。
 そこはちょっとだけ妄想減点。
 それでも目を閉じれば俺はすぐにスイッチが入った。
 間違っても名前は呼ばないが、頭の中で玲也のことを呼ぶ。
 それだけで今、抱かれようとしているのがヤツだと脳に言い聞かせるのだ。
「ねぇ、早くぅ……」
 ねだるように言ってやる。エッチなことに慣れた、援交なんかしている軽いオトコノコならこんなこと言っても不自然ではないだろうし、むしろ喜ばれると思って。
 しかし向こうも、高校生を酔わせて抱こうとしている、というシチュエーションに興奮したのだろう。すぐにベッドに俺を押し倒し、乗りかかってきた。
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