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契約と不自然
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アホらしい。たかだかヘルメットごとき、法の規則ごときのために足を止めるなど。
命あっての物種ではないか、ヘルメットで救われるような相手なのか?
レジに封筒に入れた現金を置き、代金とする。
これで盗られてたら流石に仕方ないよな......?
ヘルメットを被り、出口へ向かおうとする。
地面の振動は近い。早く逃げねば。
「律儀なものですね。あなたは真面目だ。不必要な程に」
声は足元から聞こえていた。
カッパを着た男児のような姿。しかし俺を見上げる目は淀み、悲しそうであり、口元は微々たる笑みを浮かべている。
こんなところに子供がいるなんて考え難い。
「早く逃げろ!親は?車でもあるのか?!」
「そんなものはありません。今あなたはそんなことを言っていられる状況なのですか?」
男児は指を指す。
俺が今から向かおうとしていた出口の先に置いてあった原チャリは瓦礫に貫かれていた。
「......っ」
「ほら、もう逃げられませんね」
「まだチャリが残っている!店の中にあるはずだ!」
ママチャリを担ぎ出し、男児を背中側に乗せて走り出す。
「あーあ、良いんですか?お金置いてかなくて」
「良いんだよ!非常事態だ!」
「あなたはよく分からない人ですね。さっきは非常事態ではなかったのですか?」
今は子供の命がかかっている。話は違うだろう。違うはずだ。違う......違う!
そんなこと言っている場合ではない。
早くこの場を去らなくては。
店の裏口から出るとまだヒーローが戦っている姿が見て取れた。早く始末してくれ。こっちにはガキがいるんだ。俺はともかくせめて未来あるガキくらいには生き延びてほしい。
自転車を漕ぐ足取りが重くなっていく。普段から運動していればこんなことには。後悔って文字は本当に適当な文字だ。もうどうしようもない後になって悔やむんだからな。
ヒーローは劣勢を極めているようだ。全く怪獣の進行を食い止められていない。
俺ももう体力の限界だ。
「悪い、俺はもう疲れてだめみたいだ。ここからどれだけ逃げられるか分からねえけど、ガキの体力ならもうちょっとでも進めるだろ」
「あなたはこのあとどうするんですか?たかがヘルメットのためにこんなことになってしまって。挙句僕に構うから移動手段も失ってしまって。自転車で全力疾走するから体力も失ってしまって。それで何ができるんですか?」
「何にも出来やしない。だけどもしかしたら、数百分の一くらいの確率で数秒くらい時間を稼げるかもしれない」
「で、その数秒で何が起きるんですか」
「お前みたいな未来のあるガキが助かる可能性が生まれる」
そうだ。俺のように終わってしまった人間。側から見れば未来あるように見えるが、実のところ空っぽな人間。やりたい事とは違う道に進まざるを得なくなってしまったような過去の人間。
「生き延びたら、将来こんな俺みたいな人間になるなよ」
やりたいことをやれ。好きなことを見失うな。もし道を踏み外しても、人生はいつだってやり直しが効くはずだ。
目を瞑り黙って話を聞いていた男児はふと目を開き言った。
「あなたは真面目で、正しい人間ですね。だからこそ、哀しい人だ」
怪獣を見上げながら男児は続けて言う。
「あなたには生き延びる資格がある。いや、
僕は生きて欲しい」
「あなたには哀しみのヒーローになってもらいたい。強制はしませんが」
男児は手を差し伸べる。
妙な説得力に負けて俺はその手を取った。
「これであなたは僕だ。そして僕はあなただ」
命あっての物種ではないか、ヘルメットで救われるような相手なのか?
レジに封筒に入れた現金を置き、代金とする。
これで盗られてたら流石に仕方ないよな......?
ヘルメットを被り、出口へ向かおうとする。
地面の振動は近い。早く逃げねば。
「律儀なものですね。あなたは真面目だ。不必要な程に」
声は足元から聞こえていた。
カッパを着た男児のような姿。しかし俺を見上げる目は淀み、悲しそうであり、口元は微々たる笑みを浮かべている。
こんなところに子供がいるなんて考え難い。
「早く逃げろ!親は?車でもあるのか?!」
「そんなものはありません。今あなたはそんなことを言っていられる状況なのですか?」
男児は指を指す。
俺が今から向かおうとしていた出口の先に置いてあった原チャリは瓦礫に貫かれていた。
「......っ」
「ほら、もう逃げられませんね」
「まだチャリが残っている!店の中にあるはずだ!」
ママチャリを担ぎ出し、男児を背中側に乗せて走り出す。
「あーあ、良いんですか?お金置いてかなくて」
「良いんだよ!非常事態だ!」
「あなたはよく分からない人ですね。さっきは非常事態ではなかったのですか?」
今は子供の命がかかっている。話は違うだろう。違うはずだ。違う......違う!
そんなこと言っている場合ではない。
早くこの場を去らなくては。
店の裏口から出るとまだヒーローが戦っている姿が見て取れた。早く始末してくれ。こっちにはガキがいるんだ。俺はともかくせめて未来あるガキくらいには生き延びてほしい。
自転車を漕ぐ足取りが重くなっていく。普段から運動していればこんなことには。後悔って文字は本当に適当な文字だ。もうどうしようもない後になって悔やむんだからな。
ヒーローは劣勢を極めているようだ。全く怪獣の進行を食い止められていない。
俺ももう体力の限界だ。
「悪い、俺はもう疲れてだめみたいだ。ここからどれだけ逃げられるか分からねえけど、ガキの体力ならもうちょっとでも進めるだろ」
「あなたはこのあとどうするんですか?たかがヘルメットのためにこんなことになってしまって。挙句僕に構うから移動手段も失ってしまって。自転車で全力疾走するから体力も失ってしまって。それで何ができるんですか?」
「何にも出来やしない。だけどもしかしたら、数百分の一くらいの確率で数秒くらい時間を稼げるかもしれない」
「で、その数秒で何が起きるんですか」
「お前みたいな未来のあるガキが助かる可能性が生まれる」
そうだ。俺のように終わってしまった人間。側から見れば未来あるように見えるが、実のところ空っぽな人間。やりたい事とは違う道に進まざるを得なくなってしまったような過去の人間。
「生き延びたら、将来こんな俺みたいな人間になるなよ」
やりたいことをやれ。好きなことを見失うな。もし道を踏み外しても、人生はいつだってやり直しが効くはずだ。
目を瞑り黙って話を聞いていた男児はふと目を開き言った。
「あなたは真面目で、正しい人間ですね。だからこそ、哀しい人だ」
怪獣を見上げながら男児は続けて言う。
「あなたには生き延びる資格がある。いや、
僕は生きて欲しい」
「あなたには哀しみのヒーローになってもらいたい。強制はしませんが」
男児は手を差し伸べる。
妙な説得力に負けて俺はその手を取った。
「これであなたは僕だ。そして僕はあなただ」
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