僕と神様の、黄昏時

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第3話 逢魔が時

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 それから僕とミコトは、夕方の散歩がてらはざま様の元へ顔を出すようになった。
 はざま様は相変わらずちょっと怖いけど、今のところ食べられることも祟り殺されることもなく平和にコミュニケーションが取れている。きっと僕が良い子だからだ。
 ミコトもすっかり懐いたようで、最初の怯えっぷりはどこヘやら、尻尾を振ってじゃれついている。

 神様はすっかり様変わりした現代に興味津々のようで、僕のスマホにご執心。スマホを使いたがる神様なんて、なんか情緒に欠けるけど。

「人の子、めぇるが来たぞ」
「はいはい、勝手に見ないでくださいね。あといい加減名前覚えてくださいよ」
「なんじゃったかの」
「武ですってば。んでこっちがミコト」

 ミコトはお利口さんにお座りしてはざま様を見上げた。耳の裏をかいてやると、目を細めてもっともっとと催促する。

「神様の名前を人間と犬につけるなんて、はざま様から見たら大それたことですよね」
「そうでもないぞ」
「あれ、そうですか」
「儂の名、漢字で書けるか」

 僕がふるふると首を振ると、はざま様は手頃な枝を拾い上げて地面にかりかりと書き付けた。
 『波邪摩』と並ぶ漢字を「はじゃま」と読み上げると、馬鹿者と鼻を鳴らされた。

「意味がわかるか」
「うーん、なんとなく」
「これはの、おぬしら人間が付けた名じゃ。名だけではない。儂の存在は、神そのものは、人の子らによって作り上げられたものじゃよ」
「どういうことですか?」

「神というのは、人の思念の集まりじゃ。
 儂は川を氾濫させる神ではない。川の氾濫にほとほと困り果てた当時の人間たちが、自分らの力の及ばぬ現象をなんとか説明しようとして、神の仕業ということにした。
 その時生まれたのが、儂じゃよ」

「つまり、どういうことだってばよ」

「わからんか、馬鹿者め。
 つまり神というのは、人の子らの『神様がいて欲しい』『神様の仕業であって欲しい』という思念が生み出したものじゃ。
 自分らが産み、自分らが名付け、勝手に崇め始めた思いの力じゃよ。
 じゃからおぬしらは、儂らの母であり名付け親じゃ。名を借りようが、なんの問題もなかろう?」

「確かに?」

 隣でミコトが大あくびした。彼にはまだ難しすぎる話だったみたいだ。

「さて、長話が過ぎたの。犬も飽いとるようだし、そろそろ帰れ」
「ミコトですってば」
「わかったわかった」

 はざま様は長い袖で口元を覆いながら笑った。
 神様は笑い方にも品があって羨ましいね。お前に言ってるんだぞ、ミコト。

「黄昏時じゃ、帰途はくれぐれも転ばぬよう」
「たそがれどき?」
「言葉を知らん小童じゃの。宿題じゃ」

 しっしっとはざま様が手を振るのに合わせて、ミコトが立ち上がる。確かにそろそろ帰り時だと、僕の腹時計も告げている。


 生真面目な僕はその晩、言われたとおり黄昏時を検索した。
 文明の利器ウィキペディア大先生は神様よりも物知りで、宿題はすぐに終わった。

 黄昏時とは、日没直後、雲のない西の空に夕焼けの名残の「赤さ」が残る時間帯、らしい。
 確かに僕らがはざま様に会いに行くのはいつも夕方で、帰る頃には日が暮れようとしてる時が多い。
 ウィキペディア曰く、この時間は人の顔の識別ができない暗さになるため、『誰そ彼』つまり、『あなたは誰ですか』と尋ねていたことが由来らしい。なかなかにエモいじゃないか。

 そうだ、エモいって言い方はしばらく眠っていたはざま様は知らないだろう。折角だし明日教えてあげよう。
 きっと外国語はあんまり知らないんだろうな。はざま様に自慢したくって、ついでに黄昏の英単語も調べておいた。
 黄昏時は、逢魔が時とも言うみたいだ。なんでも、妖怪や魔物と遭遇しやすい時間帯らしい。だからはざま様は僕に気をつけて帰れって言ったのか。あれ、そんなマイルドな言い方だっけか。

 僕がはざま様に会いに行くのがいつもその時間なのも、逢魔が時の魔力なのかなあと思ったけど、純粋に中学校から帰る時間がそのくらいだということに思い当たって、なんだかつまらなくなった。
 
そもそも、神様を魔物の類いと一緒くたにしていいものなのか。

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