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序章
1.「闇の王」
しおりを挟むその男は玉座に腰掛け、ただじっと扉をみつめていた。
男が腰掛ける玉座の部屋は、暗闇に包まれ、微かなロウソクの灯火と、そのロウソクの蝋の溶ける香りだけが漂っていた。
男が見詰める門は重く閉ざされ、闇の中に浮かぶロウソクの光を反射し、扉の不気味な装飾の陰影を浮かび上がらせていた。
いずれ開くであろう、その重き扉から現れる者を男は知っていた。
その者とは、迎え撃つべき敵であり、自らの分身、自身の魂の片割れと言うべき者…
(生きとし生けるものは皆、運命の流れの中で生きる
それは草花や動物、人間族、星でさえも…
私の運命が滅び行く運命ならば、受け入れざる終えまい
しかし、彼がその資格を携えているか否か…)
そう呟くと、玉座に立て掛けられているドクロの杖に手を伸ばした。
ドクロの杖を握ろうとしたその時、
ふいに暗闇に浮かぶ者、「者」言うよりは実体すら無い様な、存在事態していない様な『声』が聞こえてきた。
『すべては計画通り進んでる様だなシャイターンよ。
よくぞ、ここまで事を運んでくれた。
これからが、お前の力を思う存分発揮出来る刻だ。
抜かりなく頼んだぞ』
その『声』はいつも聞き慣れた、しかし未だに確かな実態すら掴めぬ、いつも脳裏に語りかけて来る『声』だった。
「御意のままに」
(心外だが、今はこうするしかあるまい、目指すべきはあの刻が来る事だ。それまではどんな姿にもなり、どの様な事も受け入れてみせよう…)
『シャイターンよ、少し過去の話をしようではないか…
お前がこの世界に流れ堕ちてきたのが、昨日の事の様に思い出される。あれは荒れ狂う嵐の日だった…』
(そう、嵐の日とそれから起きた出来事は、今でもすべてはっきりと覚えている、あの日…)
―数十年前―
その日は、スゥドトアカワールドでも、数百年に一度、あるか否かの大嵐の日だった。
3日3晩嵐は続き、世界の地形を神々が作り変えようとするかの様だった。
雨は降り続け、川は氾濫し、山は崩れ落ちた。
人間族の集まり住むロアン城より、はるか北に位置する山奥の渓谷では、真っ黒な雲が覆い被り続け、昼か夜かも分からない、時間の流れも無いかの様な天候が続いた。
その渓谷の山小屋には1人の男が住んでいた。
男は、神に天候が1日でも早く納まる事を願い続けていた。
山小屋の食糧も尽き果て、消えかけの命を支えるのは、ただ神に祈る事のみだった。
男が祈る力すらも無くなろうとしていたその時、山木屋の窓から黄金の光が溢れ出すのを見た。そして、それと同時に脳裏から不気味な『声』が聞こえてきた。
「お前の祈りを聞き入れ、嵐を止めてみせよう。嵐を止める事と引き換えに、我の命令に従え」
男はその『声』を聞き、驚きと同時に無意識にうなずいていた。
「今より落雷が落ちる。落ちた場所に1人子がいるであろう。その子を青年になるまで育て上げるのだ。命令に背く時は、そなたの命が無くなる時である」
『声』が聞こえ終ると、黄金の光は落雷の光となり、凄まじい音を響かせた。
それと同時に嵐は止み、さきほどの嵐は嘘だったかの様に、晴れ渡る青空が広がった。
男は、恐る恐る山小屋の扉を空け、落雷のあった場所へと足を運んだ。
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