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第一章 災い

1話 

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「いらっしゃいませ~お待たせ致しました~。」

ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ

客がドンッとレジ台に置いた買い物カゴから嵐田は商品を丁寧に取り出していった。

商品ひとつひとつに記されている白黒の縞模様を慣れない様子で手探りにさがしだす。

バーコードリーダーを縞模様に押し当てながら目の前に佇むサラリーマンのような風貌をした客へと嵐田は丁寧な言葉で質問を投げかけた。

「レジ袋はご入用ですか?」 

嵐田の問い掛けに対して客は眉を顰め「うん?この数見て袋が必要かわからない?」強い口調で言葉を返す。

嵐田はしまったと言わんばかりに「すみません!すみません!そうですよね!」客へ何度も頭を下げ謝る。

「君さ、そんなんいいから早くしてくれない?」

客は自らの左腕に巻き付けた腕時計を見て溜め息を吐きながら嵐田に言った。

「はい、すみません…。」

嵐田はレジに表示された数字を確認しながら「お会計、千六百六十三円です…あ、いや、違う…。レジ袋込みなので…千六百六十六円です…。それとお客様…カード…当店のポイントカードはございますか…?」先程客から急かされたのもあってか辿々しく詰まりそうな声を絞り出す。

嵐田の言動を見た客は更に詰め寄る。

「はぁ~。ほんとなんなの?君バイト?こんなコンビニごときで仕事出来ないのマジで終わってると思うわ。早く辞めたら?はいはい、カードね。」

嵐田を罵しり、面倒臭そうに尻ポケットから黒革の長財布を取り出し、その中から当店でしか使用できないポイントカード引き抜いた。

客が手にしているカードは青色だった。

当店のポイントカードの色は全部であると店長から聞いた。

聞くところによると当店のカードにはランクと言うものがあるらしく「青」「緑」「黒」の順番らしい。

青色のカードであれば年会費〇円で誰でも作る事ができる。

当店で商品を購入した際、カードを提示する事により金額に応じてカードへとポイントが入る仕組みとなっている。

ニ倍、四倍などキャンペーン期間中は更にポイントが貯まり易くなっている。

その貯まったポイントは商品購入時などに使えると言う訳だ。

他、ニ種類「緑」「黒」色のカードを嵐田自身未だ目にした事はなくそのランクがどうやって上がるのかすらまだ知る良しもない。

客は手にしたカードをレジ台へと放り投げるようにして嵐田に出した。

くすんだ青色のカードの表面中央に描かれているのは山羊だ。

その山羊は妙にリアルに描かれている。

四本脚に磨かれた蹄、凛々しい立ち姿。

風で体毛が靡いてるようにも見える色は白。

角は何故か三本。

両方の耳の上には太くて長い巻いた角が2本生え頭のてっぺんには不自然に歪な形をした鋭く尖った角が一本生えていた。

山羊の瞳は深淵を見つめているような闇深く艶のある黒色をしている。

嵐田はレジ台へと滑り込んできたカードを手で拾い上げる際、描かれた山羊が不気味にもこちらを見て口角を少し上げ笑ったような気がした。

「会計、ポイント全部使ってよ。」

「かしこまりました。」

無事、精算を終えた嵐田は全ての商品をレジ袋に詰め「ありがとうございました。」と深々と頭を下げ袋を客へ手渡した。

客は何も言わず店を後にした。

~数十分後~

「嵐田くん、ごめん遅くなったね。もうお昼になるから休憩入っていいよ。」

レジ打ちをしていた僕の背後から肩をトントンと叩きコソコソ耳打ちをしてきたのは上司の佐藤さんだ。

「いや、でも佐藤さん…これから昼休みに入るお客さんいっぱい来ると思うし忙しいですよ?」

レジ前方上、壁掛け時計の針が十ニ時丁度に重なるのを見て嵐田は佐藤に言葉を返した。

嵐田はその丸いフォルムをした壁掛け時計がいつから壁に掛けられているのか知る由もないが当時は白色だった筈の時計の縁は埃も被り酷く黄ばんでいた。

佐藤は「大丈夫大丈夫、任せてよ。」手を仰ぐようにして言った。

「佐藤さん、僕ここにバイトで入って一ヶ月くらいじゃないですか?でも、最近ミスばっかりで前に佐藤さんに教えてもらった事もすぐ忘れちゃって。なんならさっき来たお客さんにも早く辞めちまえって怒られてしまって…。」

「でも僕、せっかく佐藤さんに紹介してもらった職場なんで誰に何て言われようが辞めたくないんです。」

「レジの打ち方とか他の仕事内容も早く覚えて佐藤さんとか他の方に迷惑かけちゃいけないと思ってるんですよ。」

僕は多少早口になりながらも横に並ぶ佐藤さんに話した。

佐藤さんは僕の言葉を聞くと少し間を空けゆっくりと話すように言葉を返してきた。

「うん、そうだね。でも、嵐田くんが言う他の人に迷惑かけちゃいけないとか早く覚えて自分一人で頑張りたいって気持ちは他の人も俺としてもすごい嬉しいんだけどさ、まだ嵐田くん十八歳だし焦ってやっても自分がしんどくなるだけだよ。そんな無理しなくても大丈夫だから。嵐田くんが何度失敗しても俺がここに居る限りは全力でサポートするからさ。後、さっき嵐田くんが辞めちまえって言われた奴どんな奴??今度俺が見かけたら店長に報告しとくからさ。」

嵐田は頭を下げ「ありがとうございます佐藤さん。」としか言えなかった。

指で自らの額を掻き照れ臭かったのであろうか、もう片方の手で嵐田のことを払いながら「まあ、要するに早く昼ご飯食べてきな。あ、それと裏の冷凍庫の中にあるアイス好きなの食べていいから!」佐藤はバックヤードに歩いて向かう嵐田の背中に向け言い放った。
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