年齢逆転家族

菜花

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ドライブ中に聞いた怖い話

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 岩上俊樹いわかみとしきは友人の平坂冬治ひらさかとうじとともに、都会の大学から田舎の実家に帰省するために車を走らせていた。一応二人は同郷だ。
 同じ市内住みといっても市の端と端に住んでいるため、小中は別の学校であり、友人といえる関係になったのは高校の時から。そして大学も学部こそ違えど同じところだったことから、二人は何かと行動を共にした。本日は冬治の車を交代で運転しながら帰省中だ。

 実家のある市につくまで、高速道路を使っても一時間半はたっぷりかかる。渋滞ならもっと長くなるだろう。音楽は聞き飽きたしドラマは話が気になって気が逸れる。かといってニュースは最近ずっと熊の被害がどうたらで気が滅入る。居眠り運転は洒落にならないと思った俊樹は、助手席の冬治に目の覚めるような話をねだった。

 冬治は少し考えたあと「これは喫茶店を経営してる祖父母から聞いたんだけど」 と語り始めた。



 祖父母は定年退職したあと、一念発起して夢だった喫茶店を始めた。接客業は大変じゃないのかと夏休みで帰省した時に聞いたことがある。
 祖父母は途端に複雑な顔をした。そして「信じて貰えるか分からないけれど……」 と最近起きた事件について話し始めた。

 その日は35度をこえる猛暑日だった。店に来るお客様も動いているだけでへとへとになっているのが分かるような日。そんな日に、小学校四年生くらいのやけに大人びた服を着た少女と、男物の古くて薄汚れた服を着て俯いている小学校一年生くらいの子供が二人だけで店に入って来た。
 このご時世、どうしても子供だけの来店は心配になる。ましてこんな気温だ。接客をしている祖母はすぐお冷を出して「二名様かしら? 大人の方はいないの?」 と聞くと四年生くらいの子が「すぐ来ますわ。全員で六名ですの」 とこれまた大人びた返答をする。

 他に客もいないし、何となく二人の様子に違和感があったので、祖母は世間話をしながら話を聞きだすことにした。
「お父さんお母さんは駐車場なのかな? この暑さだと大変でしょう。子供達だけでもお店に先に入ってほしかったんだね。優しいね」
 とコミュ強な祖父母が話すと、四年生くらいの少女はふふふと笑って「私が母ですわ。こっちが父。よく勘違いされますのよ」 と言う。
 一応真面目に言われたことを受け取り、改めて二人を見た祖母だったが、四年生くらいの少女はどう見てもそれくらいの年頃で、よくて高学年だろうとしか思えないし、一年生くらいの子は下手したら幼稚園児にも見えるくらいの幼さと、どこかびくびくと怯えた仕草が痛ましいくらいだった。
 ……からかわれているのだろうか? と祖母が思っていたその時、チリンチリンと入口のベルが鳴り、大人の男女二名と姉弟らしき男女二名が入ってきた。
 彼らは店内をきょろきょろと見回し、四年生くらいの少女の姿を見つけると顔をほころばせてこう言った。「お母さんいた~!」

 おそらく彼らが四年生くらいの子が言っていた後からくる四名なのだろう。しかし、それにしても……お母さんとは?
 疑問には思うが客のプライバシーに立ち入る訳にはいかない。とにかく相手が誰であれ客なら注文を聞かねばと席に行ってオーダーを聞いていると、そこでの会話もまた奇怪なのだ。
 見た目で判断するに一番年上と思われる父親が「お母さん、五千円以内におさまるようにして~。僕難しいこときら~い」 と四年生くらいの少女に甘え、その父親らしき男の妻と思われる女が「あたしもあたしも! お母さん頼んだの適当に食べるから選んで~」 とこれまた少女に甘えている。
 そして四年生くらいの少女は「んもう仕方ないわねえ」 と鞄から電卓を取り出してメニュー表とにらめっこしながらタタタッと計算し始めていた。
 そして高校生くらいの少女が「お母さん、私のは野菜がないやつね!」 と言い、中学生くらいの少年は「僕は肉が入ってるやつ!」 と四年生くらいの少女に注文している。「はいはい分かっているわよ。お母さんに任せなさい」 と少女は愛想よく答えていく。

 唯一、男物の服を着た一年生くらいの子供は何も言わなかった。ただその姿は、死刑執行でも待っているのかというくらい生気が無かった。

 少女があらかた計算を終えると、それまでの笑顔を一変させ、母と呼ばれた少女は一年生くらいの子供に「ちょっとアンタ」 と文句をつけた。
「アンタは何がいいの? 早く決めて。お店の人に迷惑でしょう」
「な、なんでも……いい」
「はぁ? それが一番困るんだけど。っていうか、さっきから見てるだけねあんた。少しは手伝ってくれない? それでも父親なの?」
 母と呼ばれた少女が電卓を一年生の子の顔にぶつかるかというところまでずいっと差し出すが、一年生の子は力なく首を振り「む、無理だよ。計算そこまで学校で習ってない……使い方も分からない……」 と言う。これに母と呼ばれた少女が切れた。
「嘘おっしゃい! あなた中身は大人でしょう! 気持ち悪いから子供の振りしないで!」 と怒鳴りつける。それに同調したのか他の四人も「お父さんひどーい。大人がそんなんじゃ子供が困っちゃうじゃん」 と文句を言う。
 母と呼ばれた少女は追い打ちをかけるように「子供達を困らせるような親は一番安い物でも食べててちょうだい! ……いえ、そんなのもったいないわね、こんな男相手に。そうね、水だけでいいわね?」 と一年生の子に食事抜きを命じた。

 あまりにやり取りに無視できなくなった祖母は「申し訳ありませんお客様。椅子が壊れていたのを失念しておりました。お父様、こちらの席にお移動願います」 と一年生の子を家族から見えない席に引き離した。
 そして「作り過ぎちゃったから食べてくれる?」 とご飯を差し出すと、一年生の子は口に入れた瞬間、「おいしい……」 と言ってぽろぽろ泣きながら食べ始めた。
 落ち着くのを待って「あの人達は本当に家族なの? ごめんね私の知っている家族とはずいぶん違うようだから……。普段の様子、教えてくれる?」 と聞きだした。
 そこからの話は信じられないようなものだった。

 いわく、両親は「自分達は本当は子供なのだ」 と主張しているとのこと。普通の人は大人から子供が生まれるのだけれど、自分達は別。後に生まれた二人こそ自分達の両親であると。その証拠に次女にあたる四年生くらいの子はギフテッドではないかと。実際四年生の子は早熟の天才で一つ聞いて十を覚えられるような人間だった。幼稚園の頃から至らない両親や上の子を助けるような子だった。
 そしていつからか次女をお母さんお母さんと家族で呼ぶようになり、次女自身もそれにノリノリ。その流れなら末っ子である自分は当然父親であるべきなのだが、物心つく前から「お前が自分達の保護者だ。父親らしく振る舞え」 と言われても何が何だか分からない。何をしても「父親がそんな子供っぽい振る舞いするな!」 と怒られるので、ただただ毎日息を潜めて生きているのだ、と。

 祖母はちらりと家族のテーブルを見た。見れば見る程、悪い意味で若々しく見える人達だった。そして見ているうちに父親らしき男が「お母さん! 僕こんなこと出来ちゃうよ~」 と調味料を直接口につけてぺろぺろしたのを見て、迷わず警察に連絡した。器物損壊と、虐待されている子供がいると。
 来店した客相手にかなりリスキーなことをしているという自覚はあったが、結果的には正しかった。

 その両親達は普通に警察にも「虐待ではない。何故ならあの一年生は父親だから。この四年生が母だ。父が何か言ったらしいが、あの人は頭がおかしいので気にしないでほしい」 と供述。
 警察がいくら「あの子は正真正銘小学一年生だ。お前達は何を言っているんだ」 と言っても世間一般で父親にあたる男が「記憶を持ったまま転生とか流行ってるじゃないか。だからよくあることなんだ。うちの一家はそれを信じているし、今まで問題なかった」 などと逆にお前は何を言っているんだという目つきで呆れたように言ってくる。
 警察は聞けば聞く程「こいつらは現実とフィクションの区別がついていない」 と判断するしかなくなり、末っ子を毒家族から引き離ししかるべき家に養女に出した。そもそも末っ子は女子であるのに父親って何なんだと誰もが思ったという。

 この事件に関わった関係者は、他の子供、特に次女はヤングケアラーというより自分は本当は大人なのだと洗脳されて虐待されているといったほうが実情に近い気がするので、離れるのに協力しようとしたのだが、「私の家族をどうしようというの! 私は正常よ! 人の家族を崩壊させようとする貴方達は何様なの!? 訴えてやる!」 と激しく抵抗するのでどうしようもなかった。傍にいる家族も「私達からお母さんを取らないで!」 と泣き叫んで抵抗する。どうにもならなかった。誰も虐待だと思ってないのだから。被害者本人すらも。



 だから、今でもどこかにその年齢逆転家族は存在するのだと冬治は言う。
 俊樹は声を立てて笑った。幾らなんでもリアリティがなくてありえないと。だってそうだろう。出来がいい子供を自分達の母親だと洗脳するって。そして子供自身がそれに答えちゃうって。

 冬治はそうか、とだけ言った。そして休憩にこの近くの喫茶店に行こうと言う。
 比較的最近出来たばかりと思われる、綺麗で落ち着いた色味の喫茶店だった。入った途端「いらっしゃ……あら、冬治ちゃん! 祖父母のやる喫茶店は恥ずかしいって言ってたのに! まあまあお友達まで連れて来てくれたの? 嬉しいわ」 と年配の女性に言われた。
 え、話に出てきた喫茶店って、ここ? おいおいこんな雰囲気の良い店を都市伝説ジョークのネタにするとか……と俊樹は呆れた。
 席に案内され、冬治がトイレに行っている間に先程こんな話をした、ジョークでもセンスがないし失礼だと思うと言うと、老夫婦の顔色が変わった。目線の先には奥の席に座る家族連れの姿がある。

 目を向けると、中年の男女と高校生くらいの女、中学生くらい男の合計四人から、小学校中学年か高学年くらいの少女がお母さん、お母さんと呼ばれていた。
 そして母と呼ばれた小学生は「はいはい、今日もお母さんが選んであげたわよ。本当みんな、私がいなくちゃ駄目なんだから」 と嬉しそうに笑っていた。
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みんなの感想(1件)

小判鮫
2025.12.04 小判鮫
ネタバレ含む
2025.12.04 菜花

感想ありがとうございます!
多分ですが母親と呼ばれてる女の子に聞いても「私が産んだ訳じゃないんですけど?中身だけが逆転してるって話なのに。頭大丈夫ですか?」と言い返しそうですね……。口が恐ろしくまわるし話の筋も一応通ってるから役所もどうにもできないでいます。
両親に似ず過大な要求に応えられるスペックを持って生まれたから歪みが生じてしまったというか。
更に洗脳されて逆に幸せを感じてしまっているからもう駄目。

解除

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