わざわざ50男を異世界に転生?させたのは意味があるんですよね"神たま?"

左鬼気

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1章 異界の地

第三十話 スキル

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 昨夜降り出した雨は日が昇る頃には上がっていた。
 先に起きて食事の用意をしているロゼさんの気配で目を覚ます。
 テントから出ると朝食はテーブルの上に揃えられていた。
 外での食事なので食材も限られているが、パンと温かい戻し肉のスープ、それと干し柿の様な果物も用意されている。

 「おはようロゼさん」
 「おはよう御座いますユウジさん」
 「ようユウジ」
 「……………朝食食べましょうかロゼさん…」
 「んーなんだユウジ、俺は無視かー?」
 「……何でジャンさんいるんですか?」

 岩場の上に腰掛けていたジャンが立ち上がりテーブルに近付いて来る。

 「いやー流石に訓練と言ってもこんな場所で二人は危ないと思って、わざわざやって来たんだが…」

 いつジャンの椅子が用意されていたのかわからないが、ジャンは当然のように腰を下ろした。
 
 「ジャンも食べるんでしょ?」
 「当然食べるわな…で、ユウジはロゼを食べたのか?」
 「な!」
 「何馬鹿な事言ってるのよ。スープ冷めちゃうからさっさと食べてよね」

 (……何故そう来た…何か俺の態度に分かりやすい変化でも…)
 
 実際ロゼさんをどうしたと言う事実は無いのだが、結婚する約束をした事実は存在する。
 スープを飲みながらジャンの顔を見ると、タイミング良くジャンが俺の顔を見ながらウインクしてくる。
 
 (…事実を知られているとは流石に思わないが、間違いなくジャンさんには俺とロゼさんの間に何かしら男女間の変化を見透かされたのだろう……恐るべきジャン…)
 
 ジャンと言う男は初めて会った時から、一筋縄ではいかないタイプだと感じていた。
 これは人事部長と言う立場にいた俺だけに、様々な人間を見てきた実感でもある。
 
 「で、何かあったのかロゼ」
 
 スープに浸したパンを食べながら、然りげ無くジャンが尋ねて来た。

 「んーユウジさんが成人したら私ユウジさんと結婚する事になったわ」

 「………………………」←俺
 「へー。随分思い切ったな」

 何か感心したような声をジャンはあげた。
 
 「まぁユウジは不思議満載だから、もしかしたら冒険者以外でも何かやる雰囲気はあるか……メルカス伯もロゼが結婚したら安心出来るしな」

 ロゼは肩をすくめながら三人分のお茶を入れていく。

 「で、ユウジの魔法は何とかなりそうなのかロゼ?」
 「ええ…それなのだけど…」
 「大丈夫大丈夫!私がいるからなーんにも問題ないわ!」
 
 何時の間に現れたのかフェニルがテーブルの上に座り込んでいた。

 ジャンが咄嗟にテーブルから距離を取り、どこから出したのか右手にはナイフが握られていた。
 
 「ロゼ!ユウジ!離れろ!」
 
 いや、もう当然といえば当然のジャンの反応ではある。
 ロゼが首を振りながらジャンに声をかける。

 「ジャン落ち着いて。全く害は無いのよ。この子はフェニルと言う…んー何だろ…」
 「………危険は無い?…」

 俺は肯きながらフェニルの説明をする。

 「お前はあれか?記憶と常識を一気に無くしたってわけか?」

 なにか随分な言われ方だ。
 
 テーブルの上から俺の肩の上に座り込んで、足をプラプラさせているフェニルをジャンが覗き込むが、フェニルは我関せずと動き回る。
 
 「んで、そのフェニルのお陰で魔法を使える…てわけだな?」
 「んー私達が使う魔法と経路が違うけど、魔法と言っても良いと思うし、事実を知らない人から見れば魔法としか見えないわね」
 「まぁ魔法の事はロゼの専門だから俺がどうのこうのいえねーからな」

 ジャンは冷えたお茶を啜りながらチラチラとフェニルを観察している。
 
 「そうなると魔法の練習は終わりなのか?」
 「そうなるわね」
 「よし!んじゃ今日明日は、少し俺が体術と武器の扱いを教えてやろうか?」
 
 「良いんですか!」

 ジャンのこの提案に俺は食い付く。
 冒険者ギルドの地下で、バロンドと手合わせしたが、あの時は俺の力を試されただけでバロンドが納得した瞬間勝負が終わってしまったので、俺としては不完全燃焼だったのだ。
 ジャンが体術や武器の扱いを教えてくれると言うなら是非も無い。
 
 「構わないぜ。どうせ暫くパーティー組むんなら、色々知っといた方が俺も安心だしな」
 「そうね、ユウジさんが冒険者を続けるならジャンとの戦いは為になるわよ」

 俺は肯き、ジャンの戦い方を教わる事になった。



 気配を正確にどう伝えるか、これは難題だ。
 説明出来ない物を人に伝えるには何となくとか、経験による推測とか言う事も出来るが、つまるところ良く表現出来ないのだ。
 今、俺の前にいるジャンは確かに目の前にいるのだが、本来生物が発する熱量を全く感じられない。
 目に映るのに存在感が無い……
 それは木や岩と言った物の比ではない。
 木や岩は目に映ればそれが木、岩と認識出来るのだが、ジャンの場合ジャンをジャンと認識出来ないのだ。
 
 「ユウジ、どう捉えられてる?」
 
 ジャンがニヤリと口の端を少し吊り上げながら聞いてくる。

 「……何と言うか…気持ち悪いですね…」

 見えているのにソレを認識出来ないとは一体どう言う状態なのか…全く理解できない。

 「今はユウジが理解できる程度に気配を消しているからそう感じる」

 今のような状況では無く、戦闘中に本気で気配を消されたら、かなりヤバイ相手となる。

 「俺は基本的に騎士や剣士のような戦い方が出来ないが、スカウトとしての能力と経験による先読みが俺の武器だ…が、流石にユウジに今教えるのは無理だろう」

 ユウジは肯く。
 
 「んで、今ユウジが感じている技術を俺が教える…が、直ぐに出来無いかもしれん。まぁ知っとくだけで慌てずにすむ場合もあるからな」
 
 確かにジャンの言う事は正しい。現実、行動をするにあたって知ってるのと知らないのでは違う。
 生死が掛かっている場合、理解できない物でも知ってるだけで助かる場合があるだろう。
 こう言う世界で生きるなら、ジャンが見せてくれる物は間違いなく自分の命を繋ぐ為になるはずだ。

 「分かりました。お願いします」 
 「ああ、パーティーを同じにするなら死んでは貰いたくないからな…」
 
 ジャンの顔に一瞬暗い陰をみる。
 冒険者をやって来たならいくつもの人の死を見てきただろう。それは仲間や友人であったかも知れない…

 「おーい、少し離れた場所でやるからロゼはどうするー?」
 
 テーブルでお茶を飲んでいたロゼが椅子から立ち上がり"怪我するかもしれないから行くわ"と言い、三人で移動する事になった。
 移動と言ってもそれ程離れた場所では無く、歩いて五分程度の荒地。
 ここから俺達が居た場所を見るとテントやテーブルがちゃんと確認出来る距離だった。

 「さて、剣士や騎士の使う技は俺がやると実践では使い物ならないが、人に見せる分には丁度良い。実際は簡単な技くらいしか真似出来ないが、見て損はしないさ」

 ジャンはそう言いユウジから五メートル程距離を取り向かい合う様に立った。

 「ユウジもゴブリンとやり合ってわかっていると思うが、対人戦は相手と自分の距離の取り合いって意味合いが強い。ユウジのあのわけわからない斬撃を考えれば、もっと距離を取って弓や投擲、魔法等で攻撃するか、後は接近戦を仕掛けるのがユウジを見た俺の考えだ…例えばユウジなら俺とどう戦う?」
 「…そうですね…やはり斬撃を放って様子見をしますね…洞窟で見た限りジャンさんの攻撃方法はフェイントと素早い斬撃や投擲でしたから…それを考えればやはり余り接近戦はしたくないです」

 ジャンは苦笑いを浮かべる。
 
 「実際ユウジが接近戦をどの程度出来るのか不明なだけに、俺としては離れて戦う方法を取るな…まぁ今から見てもらうのは俺が色々見てきた技だ。中距離から接近戦まで色々あるからその目で良く見とけよ」
 「…お願いします…」
 「最初に使うのは俺が独自に工夫した技を見せる」

 この世界にも"スキル"と言う言葉が存在した。ジャンさんは"技"と言っていたが、ロゼさんはスキルと表現している。

 本当に技なのだろうか?首筋に当てられた短刀の刃の冷たさに俺は戦慄を覚える。

 「今のがレイジって俺様が命名した技だ」

 首筋に当てた刃を離しながらジャンさんが言う。
 目の前五メートルにいたジャンさんが左足を一歩引いた瞬間俺はジャンさんを見失った。
 左足を引いたのを注視してジャンさん全体の動きを見ていなかったわけではないはずだったのだが、見事に見失ったのだ。

 「実際この技を使う奴は多分いないから安心しろ」
 「今のは体術なんですか?」
 「ガナ操作と体術の合体技だな…ガナ操作で干渉したのは俺自身の身体能力向上とユウジに思考低下を掛けたわけだ」
 「…思考低下なんて出来るんですか?」

 ジャンは笑いながら"瞬間だからな"と言うが、これは武術やスポーツ等、 体を使う者からすれば恐ろしい事だった。
 
 「ユウジから見たら多分俺が左足を引いた瞬間首筋に刃を当てられたって感じだろ?」
 「…はい」
 「ロゼから見たらどう見えた?」
 「ジャンがダッシュしてユウジの前でバックスタブを掛けたわ」
 
 ジャンが肯く。
 
 「まぁこんな具合なんだ。多分ユウジに思考低下を掛けなきゃ俺のバックスタブをユウジは躱してたかもしれない。技は組み合わせる事でより相手に判断を狂わせる事が出来る……まぁ集団戦の場合難しいがな」

 俺は肯く。

 「さて、次からは剣士や騎士、冒険者達がよく使う技を見せていく」

 「よ、宜しくお願いします…」

 ジャンさんが見せて来る技は前世でも見たことがある体捌きや型からの一連の動き等も多かったが、前世とは決定的に違うのはやはりガナ操作に尽きる。
 そのガナ操作で強化された身体能力が、前世では考えられないスピードを与えていた。初心者の…と言うよりこの世界の住人は誰もがガナ操作を日常生活の中で使っているので、現代人の俺は本来なら子供にも地べたに転がされてもおかしくないのだが、"神たま"の作ったこの身体は、スペックが高すぎるのか力技で何とか切り抜けているようだ。
 
 (…ちゃんとガナ操作くらいやれないとまずいよな…)

 ジャンの"レイジ"と言う技を見て俺はつくづく思うのだった。
 
 
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