わざわざ50男を異世界に転生?させたのは意味があるんですよね"神たま?"

左鬼気

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1章 異界の地

第六十二話 不撓不屈

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 「……隊長…ありゃ何ですかね?」
 
 実働部隊として鍛え上げられた青銅騎士団でさえ濃密なガナの影響で苦しそうだ。

 「知らんっ!……間違いなく味方では無いな」

 ロワンの視界に見たことがある鎧が転がっていた。

 「竜星衣……あれは王か?…」

 ピクリとも動かない鎧

 (……あれが王だとすると……あの化け物は……)

 ガナの濃密な圧力の中ロワンは化け物と対峙する。

 「……まさかと思うが…お前サルモンか?」

 【誰だ!】
 
 聞き取りにくい擦過音混じりの声。

 「ロワン……ロワン・ヴァナ・フレムナード…」

 化け物の目が思案したかのように細まる。

 「ロワン・ヴァナ・フレムナード……懐かしい名だな。御父上はご存命か?」

 (やはりサルモンか…)

 「故郷でピンピンしてるぜ……ところでお前、何だその姿…」
 「ちょっとした実験に付き合った代償ってやつ……だ…ふっふっふっ」
 「…何がおかしい…」

 化け物は小首を傾げる。

 「さあな……何がおかしかったのか……で、ロワン何しに来た」
 「……あそこに倒れてるのは王か?」

 ロワンの質問に化け物の口角が吊り上がる。

 「竜星衣を着けられるのは王だけなのは、お前も知っているだろう?」
 「……死んだのか…」

 化け物は体の向きを変え、転がっていた竜星衣の鎧を片手で持ち上げる。
 その竜星衣の胸鎧の真ん中に人の頭程の穴が空いていた。

 「生きていると思うかロワン?」
 「……………………………」

 (間に合わなかったか……)

 メルカス伯爵からロワンが受けた命令は、"王を守れ"では無く"サルモン辺境伯を止めろ"だったので、王の死にロワンが責任を感じる必要は無いのかも知れない。

 (王国騎士だからその考え自体どうかと思うが……だが、この王では誰も幸せにはならんだろうしな…)

 「サルモン……それでお前の目的は果たせたのか?」
 「目的?…そう…ああ、そう言えば何か高尚な目的があった様な気がするな…」

 ロワンは息を呑む。

 (こいつ……本当にサルモンなのか?)

 外見的にはサルモン…と言うより人族とかけ離れた姿形をしていたが、記憶や自分との会話でサルモンだと、一度は確信していたロワンに疑問が湧き上がった。

 「サルモン…大人しく投降しろ……若しくは自害を勧める…」
 「くっくっくっ。何故俺が自害せねばならん!この無能の王を殺してどこの誰が困ると言うのか」
 「……………………」
 「答えられまい?此奴の馬鹿げた治世でどれ程の民が苦しんだ?……だから俺が冥土に送ってやったのよ。それにもまして、この愚かな王を此処まで増長させた貴族共……お前も同罪だぞロワン!」

 化け物の体が一回り膨れ上がる。

 「……同罪か……だとしたら、どうすると言うのだサルモン!」
 
 化け物と化したサルモンがニヤリとする。

 「全員防御態勢!」

 ロワンの命令を受け青銅騎士団を含む騎士達が盾を構える。
 
 次の瞬間、化け物と化したサルモンを中心に業火が吹き出し、辺り全域を薙ぎ払った。

 ロワンは剣を全面に構え炎を切り裂きながら化け物に向かい走り出した。
 
 (この程度の炎なら彼奴等の魔法盾で防げる。だが、何時迄もこの程度だと思えん。早めに倒さねば不味い気がする…)

 実戦を何度も潜り抜けたロワンには、目の前に立つ化け物がこの程度だとは、とても思えないのだ。
 相手が此方を舐めきってるうちに全力で潰すのが勝利に繋がる事をロワンは肌身でわかっていたのだ。

 (全力で行くぞ!)

 メルカス伯爵から紹介された冒険者が付与してくれた剣に、ロワンはありったけのガナを流し込む。
 
 『ロワンさんのガナ量だと…一撃だけですが、あの山の半分位消し飛ばせます』

 少年が指さした山は凡そ人がどうこう出来るレベルの山ではなかった。

 ロワンが流し込んだガナが柄から剣先に伝わると、反射するように柄に戻り、また反射してゆく。

 (こ、これは!)

 次第に光り輝く刀身。

 ロワンに向け一歩踏み込んだ化け物が、その光を見て前進を止め防御するように頭部の前に腕を上げた。
 
 間合いに入ったロワンは、最後のトリガーとなるガナを柄に流し込みながら化け物に回避されにくい軌道を描きながら剣を振り抜いた。

 全てを切り裂く光の刃。

 静止したような一瞬の間が過ぎた後、強烈な空気の流れが巻き起こり、辺りに熱風が吹き荒れる。
 騎士達は盾にガナを流し込み巨大な魔法障壁を形成していく。
 熱風が巻き上がり、辺りは砂埃で霞んでいた。
 その後方で魔法障壁に包まれていた王城がゆっくりと崩れ落ちて行く。

 (………た…倒せた…か)

 その刹那、不意に意識がブレる程強烈な圧迫感に晒されたロワンは咄嗟に身を伏せた。
 ロワンの頭上を巨大な石造りの柱が通り抜け、遥か後方で爆発するように砕け散った。

 【ローワーンンン!凄いじゃないか!同郷の馴染みの俺も自慢できる力だ……】
 『……そりゃどうも……』

 (ちっ、生きてるか…もうあんなすげ~の出せるガナが残ってないんだがな…どうする…)

 周りの砂埃が落ち着き、化け物の姿がはっきりとロワンの視界に入っていた。
 化け物の腕は真っ黒に焼け爛れ、至る場所から血(たぶん)が流れ出してはいるが、致命傷にはなっていないようだった。
 魔法士を目指していた訳では無いが、この場面で己のガナの少なさに歯噛みするとは…
 
 化け物が観察するようにロワンを見つめていたが、ロワンの剣を見て小さく肯く仕草をする。

 【成る程…お前にしては随分と派手な攻撃だと思っていたが、その剣の力のようだな】
 「…だったら何だ…」
 【いや、別に……俺はなロワン。今最高に気分が良い】
 「……………………………」
 
 じわりじわりと化け物の圧力が高まっていく。

 【だから……だから…苦しまずに殺してやるよ!】

 咄嗟にロワンは叫んだ。

 「全員逃げろ!」

 逃げろと言われて逃げる様な騎士はいない筈だが、ロワンの部下をそこらの騎士とは一味違う。
 上司の命令通り一目散に逃げ出す。
 ジグスタン伯爵やメルカス伯爵の騎士達も、どういう教育をされてきたのか分からないが、全員が蜘蛛の子を散らすように逃げ出したのだ。

 それを見た化け物が戸惑うようにロワンを見る。

 【お前の部下は本当に騎士か?それともお前は部下に見捨てられる程嫌われていたのか?】
 「馬鹿を言うな!ちゃんと上司の命令通り行動しているだろ?自慢の部下だ!」
 
 化け物の姿になってはいても確実にサルモンとしての意思を感じたロワンは何故かホッとしていた。
 滅びるにしても、自身がわけも分からぬ物に成り果てて…は…とロワンは思う。

 【まぁ良い……お前も含めこの国の大掃除を始めるか】
 
 再び膨れ上がる圧力にロワンは耐える。
 
 突然ロワンのすぐ横から声が聞こえる。

 「すげーなあんた!一人でアレを食い止めてたのかよ!」

 ロワンの周りに数名の人影が立つ。

 「お前等は……」
 「冒険者に決まってるだろ!まさか騎士様がいるとは思って無かったぜ。あんた冒険者になりゃあ良いのに」
 「ゼイター!のんびりしてる場合じゃねー。ありゃかなりヤバイぜ!」

 後方から続々と集まる人影は各々兵装がバラバラな荒くれ者、つまり冒険者だ。

 「何か城が潰れてるが、これ以上好きにされたらマリの冒険者の名が廃るってもんだ」

 「当然だ」と、初老の男が化け物の前に立つと、後ろから野次が飛ぶ。

 「おいおい、いくらなんでも止めとけや(笑)ギルドマスターは茶でも啜ってろっての」
 「喧しい!この化け物に貴様らヒヨッコがどうこう出来るわけなかろう!」
 「おもしれー全員でかかれー!」

 化け物と化したサルモンに次々に突っ込む冒険者達を啞然と見ていたロワンが我に返ったように叫ぶ。

 「止めろ!そいつは無理だ!」

 ロワンの叫びを聞いたマリのギルドマスターはロワンの顔を睨みつける。

 「無理かもしれん。これが普通の依頼なら逃げるのも正解だ。騎士の旦那、だがな、ここは儂等の町なんだよ。今逃げてどうする」

 ロワンは奥歯を噛みしめる。

 (…確かにそうだ…しかし…)

 ロワンの命令に従い散り散りに逃げた部下は今頃、町の人々を安全な場所に誘導しているだろう。
 事前に打合せた行動だ。

 (……まぁ、一度は捨てた命…俺とイカれた冒険者等で相打てれば上々だな……)

 化け物は煩い蝿を払うように冒険者達を蹂躙していく。
 だが、冒険者達は腕を失おうとも化け物を睨みつけ前進する。
 見たこともない剣技や道具。知らない魔法が叩き込まれるが化け物は無傷だ。
 ロワンが放った初撃だけが化け物に傷を負わせたが、ロワンには二撃目を撃つ余力は無かった。
 次々と地に伏す冒険者達。

 蝿の様に集る冒険者達に苛立ったのか、化け物が一声雄叫びを上げ四方に火炎を蒔き散らす。
 魔術士の一部は何とか障壁を張り難を逃れたが、大半の冒険者は火炎に包まれ地に倒れた。
 残ったガナを柄に通し、辛うじて火炎を切り裂いたロワン。

 (ちきしょう!残りのガナを防御に使っちまった……ここまでか…)

 ロワンが諦め掛けた瞬間、化け物を中心に大地が沈み込んだ。
 地盤が軋む音と言うものを初めて聞いたロワンは、何が起きたのかわからず呆然とする。
 そのロワンの横を走り抜ける巨体の男が、沈み込んだ化け物の前で巨大な盾を構えながら咆哮する。

 "うぉおおおおーー"
 
 化け物の動きが一瞬停止した所に上空から氷の槍が化け物目掛け降り注いだ。
 
 「よう、あんたがロワンさんか?」

 いつの間にかロワンの横に立つ男がロワンの顔を覗き込む。

 「そうだが…お前達は…」
 「冒険者だ。おーいバロンド、一旦引くぞ」

 その男の声に肯いた大男がゆっくりとした歩みで後退してきた。

 「ジャン、やっぱりあれくらいじゃ駄目みたいだぞ?」
 「そりゃそうだろ。俺達じゃちょっとした足止めくらいが精々だろうよ」
 
 細身だが筋肉質な男が後方を振り向く。

 「なぁロゼ、ユウジの回復はどのくらいかかるんだ?」
 「初めての集団転移だったから…でも、ユウジさんが言うには少し休めば回復するそうよ」

 鈴の音のような声に振り向くと、真黒なマントを纏う女が立っていた。
 女はロワンを中心に巨大なドーム状の回復魔法を構築していく。
 絶命を逃れた冒険者達の傷も見る間に治していく高度な治癒魔法。

 難を逃れたギルドマスターが女をみて驚いた顔になる。

 「……ま、まさかロゼ殿か?」
 
 ギルドマスターに向けてニコリと女は微笑んだ。

 (ロゼ……!まさか エイヤードの一人娘のロゼ・リーシェ・エイヤードか…)

 生き延びた冒険者達も驚いた顔をしていた。

 「ジャン、もう少しやらないと足止めにもならないみたいよ?」

 沈み込んだ大地の縁に巨大な腕がせり上がり、大地の縁を掴み巨大な体を持ち上げていた。

 「随分とタフな奴だな……ロワンさんよ。あれサルモンなんだよな?」
 「ああ……」

 ロワンの返事を聞いたジャンが頭をポリポリと掻きながら溜め息を吐く。

 「まぁ化け物の素がサルモンなら、ゲダの時よりはましだな…多分」
 「流精虫の出来が違ったらどうすんだジャン?」
 「しるか!……んじや時間稼ぎやるか…」

 ジャンの姿がロワンの横から消え化け物の頭上に現れ首筋を薙ぐように短剣を振り抜いた。

 "ぐおおおおー"

 化け物が首筋を抑えながら蹲った。

 「いやー…流石魔法付与された武器は違うなー…化け物に刃が通ると思わなかったからびっくりしたぜ」

 いつの間にかロワンの横に立つジャン。
 
 「バロンド、ひょっとするとひょっとするかもなー」
 
 バロンドは盛大に溜め息を吐く。

 「ジャン…あれを見ろよ…」

 バロンドが指さした先の化け物の首筋から紫色の粘液が湧き出してゆく。

 「…なんか見たことある光景だな…」
 「マルガリ大坑道で化け物になった騎士と同じよ」
 
 ロゼの言葉に肯くバロンド。
 
 「ああ…あの時か……まぁ何とかなるさ」

 バロンドが大盾を構え直し、前傾姿勢を保ちつつ前進したのが切っ掛けだった。傷が癒え、動ける冒険者達が再び化け物目掛け突入していく。

 「……あれに勝てると思うか?」

 ロワンは隣に立つジャンに問う。

 「ん?俺がどう思うかが、お前にとってそれ程重要なのか?」
 「いや…………」
 「なら、その質問意味ねーぜ?。やる事決まってるだろ(笑)」

 簡潔なジャンの返しに笑いが込み上げてくる。

 (そうだな。ああ、そうだ。)

 ロワンの体に力が湧き上がり、一歩足を踏み出す。
 そのロワンの周りにガナが纏わりつくように渦を巻き始め、ロワンの背を優しく押す。
 青銅騎士団長ロワン・ヴァナ・フレムナードは彼が目指す騎士の理想へ一歩近付いて行くのだった。
 
 
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