わざわざ50男を異世界に転生?させたのは意味があるんですよね"神たま?"

左鬼気

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2章 新たな地

第六十九話 国境の街

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 一般的にこの世界の年号を記する時に使われる"聖歴"とは何ぞや?
 
 「知らね~」ジャンは言う。
 「神魔戦争が終わり、人が国を興した時に定められたと古文書には書かれていますね」ロゼが詳しく教えてくれた。

 そうなると、現在聖暦5762年なので、この大陸が生まれたのは約6000年前位なのだろうか?
 何故なら、神魔戦争の影響で大陸は五つに分断され、現在の姿になった…と聞いた事がある。
 そもそも神魔戦争の最中に人間…と言うか、文明を築いていた生物がいたのか?
 ユウジには神魔戦争そのものが、誰かが創り上げた創作物のように思える。
 勿論、創作物には何かしらの意図があるわけで、ユウジの生きていた世界にも様々な神話のたぐいがあった。
 大概は世界の始まりを都合良く説明しようとした物なのだが、物語を記するのも語り継ぐのも人族であるわけなので、大概世界の始まりは似たような話が多い。
 
 緩やかに下る街道の先に巨大な街が見えている。
 隣国タティラ共和国との国境にある交易都市カナン。
 交易都市と呼ばれているだけはあり、街の規模もビッグだ。
 モンタスの街も大きかったが、国境に建てられたこの街は巨大な壁に囲まれた要塞のようだった。
 カナン正面門に並ぶ長蛇の列を見たユウジはゲンナリする。

 (…いつ街に入れるんだよ…)
 
 ユウジ達の商隊も街に入る為に列に並んでいた。
 
 "大きな街は何処も同じですよ"と、ユウジに語りかけて来たのは、この商隊の交渉役を任されているラングレと言う男だ。
 元々はモーズラント商会で商材の仕入れを仕切っていた男だそうだ。
 マリを出立する日シレミナ様に紹介されていた。
 カナンに辿り着くまでに何度か、隣国の人々の気質や決まり事等を丁寧にユウジに教えてくれた。
 多分だが、シレミナ様の気遣いだろうと思う。
 
 ラングレが列の先頭を見て"このぶんなら日が落ちる前に街に入れますよ"と教えてくれる。
 国境に建つ交易都市クラスの大きな街は街へ入る門が閉じる事は無い。
 ただし、国境門だけは通れる時間が決められているので注意が必要だった。
 
 (…確かここの領主はロズナン伯だよな…女王からの書状を見せれば優先で入れてくれるんじゃないか?)

 その事をラングレに話すと微妙な顔をして首を振った。

 「私もロズナン伯以外ならそうしますが、あの方は何と言うか…強い信念の持ち主でして…」

 ああ、融通が利かない人なのか…

 ユウジが生きて来た世界でも、その手の人物は少なからず…いや、かなりいた。
 取引先の担当者が融通の利かない人物の場合話がなかなか進まない。
 基本的に案件に対して権限が無い人物の場合、融通が利かないのはある意味仕方がないとユウジは思っていたが、同時に権限の無い者を矢面に出す相手の上司に腹がたった事案が多々あった。

 "部下の教育…分からんでもないが、相手するこちらのストレスはどうするんだ?"…と。

 いかん…余りに暇で過去のネガティブな出来事ばかり思い出されている。

 久し振りにユウジは緊張感の無い時間を過ごす羽目になったのだった。
 
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        :
        :
        :
 
 無駄に華美な装飾品を着けた男が玉座に座している。
 "怠惰"を実際に形にすると目の前の男になるだろうと、誰もが考えるのではなかろうか?
 
 (我が実父なれど…いや、最早あっぱれと言う程何もしておらんようだな…)

 ザイルバーンは誰にも気付かれない様に溜め息を吐いた。

 「ザイルバーンよ。此度の遠征失敗の原因は何処にあった?」

 熱量の感じられない音声が目の前の怠惰から発せられた。

 「は。今回の失敗は、あたかも出来ると思わせる計画を愚考したサルモンと言う男に責があるかと…」
 「そのサルモンの計画を承認した儂の責をどう考えるザイルバーン」

 (……つまりこの男は、俺の口から王に責任は無いと言えって事か…全く面倒臭い…)

 「王よ、サルモン伯の計画は、一見何処にも穴はありません。時間をかけ精査すればどんな計画にも必ず穴があるものです。今回の計画をサルモンが持ち掛けた時期等を考えれば、時間を掛け精査するのは不可能かと、よって遠征失敗の責を何処に求めるかと問われれば、死したサルモンに全責任があるのでは無いかと愚考します」

 玉座に座る王は力の無い目でザイルバーンを見ながら肯いた。

 「うむ、良く言った…。英傑であるお主の言葉には誰もが納得するであろう」
 「………………………」



 「で、誰にも責任は無いと?……死んだ兵士や騎士はあの世で泣いてるわね」
 
 大理石のテーブルの上に座り、果実酒を飲んでいたイネイラが呆れ顔でザイルバーンを見る。

 「今は仕方無かろう…俺とてこのままで良いとは思ってはいないからな」

 イネイラの言葉にザイルバーンは憮然として答えるが、その胸中は複雑な思いが乱れているのは、その表情を見れば一目瞭然であった。 
 
 現在、ザイルバーンの賓客待遇のリーデンスは、ソファーに足を組んで座りながら色の濃い酒を飲んでいた。
 スカッドと言う蒸留酒らしく、元々はリーデンス自身が発案、製造した酒らしい。
 
 「儂が気にする所では無いが、いい加減お主が国を治めたほうが良いのではないか?お主の父とはいえ、あの無気力はいただけんぞ?」
 「………………わかっている」

 珍しく他人事に口を出すリーデンスに歯切れの悪い返答をするザイルバーン。
 
 (……まぁ分からないでもないか…)

 英傑と呼ばれる程のザイルバーンと言えど第二王子。第一王子に何かあった時の控え…。
 これで第一王子の出来が悪いならザイルバーンにも芽があるのだが、第一王子のヌーレウスは緯武経文を体現した神童。

 (あの兄じゃ、ザイルバーン王子も迂闊に動けないわよね…)
 
 王位継承権自体は他の王家と変わらない。
 正妃ノプティアスの長子であるヌーレウスに、第一継承権があるのは当然と言えば当然なのだが…イネイラから見てヌーレウス王子は不気味・ ・ ・なのだ。
 マーレ国に思い入れ等無いイネイラだが、ヌーレウスが王位に就いたら間違いなく良く無い事が起きそうな予感がしていた。
 例えが適切かわからないが、イネイラが育った聖王国の一部狂信的信者の様な、危うい雰囲気がヌーレウス王子には感じる。
 その点、ザイルバーンと言う王子は分かりやすい男だ。
 
 (だけど…、あの国王が次の王を指名する前に、ザイルバーンの地盤をもう少し固めておかないと、私の気儘な生活にもする支障をきたすかも…)

 軍部においてザイルバーンの支持は、ヌーレウスを上回っていたが、文官や貴族間の支持は第一王子のヌーレウスを支持している。
 そして、当然の事ながら文官の数は軍部よりも遥かに多いのだ。
 イネイラがチラッとザイルバーンを見て溜め息を吐く。

 (この男がもう少し貴族の付き合いに気を払える性格なら……)

 グラスを傾け、残り少ないスカッドを飲み干したイネイラが口を開く。
 
 「ねえ、第一王子 私が殺してあげようか?」

 イネイラの言葉にザイルバーンは少し眉を顰め「何を馬鹿なことを…」と呟いた後沈黙するのだった。

 

 「ユウジさん、ユウジさん」

 ロゼの声でユウジはゆっくりと目を開く と、ロゼの優しい笑みを見上げた。
 いつの間にか寝ていたのだろう。
 ゆっくりと身体を起す。

 「後二組で私達の番ですよ」 
 「ああ、やっと街に入れそうだな。……ああ、膝枕有り難うロゼ」
 「いいえ、どういたしまして」

 軽く伸びをして目の前の巨大な門を見上げる。
 
 (流石国境都市。城郭都市ならではの堅牢な城壁だな…警備の兵士の数も半端ない)

 街へ入る手続きは、商隊の責任者であるラングレが済ますのだが、護衛の責任者たるユウジが寝ていたのでは、流石に格好がつかない。
 ユウジは馬車から騎獣に移りラングレの横へ移動する。

 「すみません、寝てしまいました」
 「いえいえ、問題ありませんよ。まぁ時間が時間ですのでロズナン伯への御目通りは明日になりますから、ユウジ様達とは明日でお別れですなー」
 
 ラングレの言う通り、シレミナ様から預っている書状をロズナン伯に渡せば護衛任務は終了だ。
 その後はタティラ共和国へ入るのだが、ジャンの要望もあり、数日はこのカナンに逗留する事になっている。
 カナンにあるモーズラント商会に行って、旅に必要な馬車や糧食を受け取らなければならないし、冒険者ギルドにも行かなければならない。
 カナンの街の冒険者ギルドに行って越境手続きをしなければならないらしく、そういう意味では冒険者と言う立場も自由ではないようだ。
 まぁ冒険者ギルドと言う組織としても、問題の有る冒険者をおいそれと他国に流出しては色々問題もあるのだろう。
 
 「ユウジさん」

 馬車を降りて騎獣に跨ったロゼがユウジの横に来た。

 「街に入ったら、宿で護衛の引き継ぎをしてから冒険者ギルドに行きましょう」
 「ん?今日中に冒険者ギルドに行くのか?」
 「ええ、越境手続きは時間が掛かるので早めに済ませたほうが良いと思います」
 
 ロゼの提案にユウジは肯く。

 (この街のギルドは初めてだから、絡まれたりするのかな……まぁそれはそれで面白そうだが……)

 「……ユウジさん?誰かに絡まれても暴れないで下さいね…」
 「え!……いや、暴れないよ……」
 「そうですか…なら良いのですが」

 (……うん、問題は起きないに越したことは無いな…)

 ユウジ達の前にいた一団が手続きを終えたようだ。

 (さて次は俺達だな)

 ロズナンが門を守る兵士の前に立ち身分証を見せながら街に入る手続きを開始するのだった。
 
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