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第十二話 冒険者登録と同業者
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色々な思惑があって冒険者になることを決めた私は、最大の壁であるグランを渋々ではあるが納得させ、冒険者になるための窓口へと向かっていた。
新規冒険者を募る窓口はいくつかあるが、現在、そのどれもが空いている。多いときは十数人が並んでいるらしいが、今日は誰一人としていないようだ。
とりあえず、フェイラスの顔見知りである受付役がいるらしいので、私たちはその窓口へ向かう。
「こんにちはー」
「こんにちは……あれ、フェイラスさんじゃないですか。ここは依頼受諾の窓口じゃないですよ?」
「はは、さすがに分かってるよ。今日は冒険者になりたいひとを連れてきたんだ」
「よろしくお願いします」
フェイラスに紹介され、私は頭を下げる。受付役は狐耳と尻尾を生やした狐獣人の女性で、優しくて包容力のありそうな雰囲気をしている。
「まあ、そうだったんですか。では、まずは説明をしますのでお座りください」
にこりと笑う狐獣人の女性に勧められ、椅子に腰掛ける私。それほど広くない窓口なので、フェイラスとグランは私の後ろに立っている。…威圧感とか大丈夫かな?
「さて、あなたの冒険者登録を担当させて頂きます、フェネアと申します。説明の間、疑問点などがございましたら遠慮なくご質問ください。では、まずはお名前と居住区をこの紙に記入して下さい」
「はい」
フェネアさんの差し出した紙を受け取り、間違えないように記入する。住んでいる場所を書くのはまだ数回ほどだから、なにか間違っていそうな気がする…。
後ろにいるグランに目で確認し、大丈夫だと頷いたのでフェネアさんへその紙を返す。
「……ミーフェさん、ですね。この居住区ですと……はい。問題ありませんね。では、冒険者の説明をさせていただきます」
フェネアさんは机の下から手のひらより少し大きい冊子を取り出し、何度も開いたのか癖のついたページを見せてくれる。
冒険者の等級について、冒険者としての義務などが書かれているようだ。
「冒険者は初級、中級、上級、特級、超級のいずれかに分類されます。これは後ほど行います、戦闘能力調査の結果によって変わりますが、ほとんどの人は初級か中級になります。
級によって受けられる依頼の内容が変わりますが、中級から始まる方も一ヶ月は初級と同じ内容の依頼を受けてもらいます。これは私たちギルド側が冒険者を見定める期間ですので、目に余る行動はどうぞお控えくださいね」
「…それ、伝えてもいいんですか…?その期間だけ大人しくするひととかも居そうですけど…」
「ふふ、大丈夫ですよ。常時、気を張っていられる方は多くありませんからね。そういうものを見るのが得意な職員がいますから」
にこりと笑みを浮かべるフェネアさんだが、先程と違いなんだか後ろが寒くなるような笑みだ。普段は優しくて包容力のあるひとなのだろうが、怒らせると恐そうだ……。
「次は冒険者の義務についてですが、これはあってないようなものなので頭の片隅にでも留めておいてください。あとは……」
依頼の受け方や報酬、迷宮で得たものの扱い、等級のあげ方についてなどを丁寧に説明してもらい、特に疑問を抱くことなく終わりを向かえた。
忘れたときに見返せるように、とフェネアさんが見せてくれていた冊子の新品を受け取り、いよいよ戦闘能力調査の時だ。
「では戦闘能力調査を行いますので、こちらへどうぞ。ご案内します」
「はい。じゃあ、行ってくるね」
窓口の机の一部分を外して内側へ招くフェネアさんに頷き、私は後ろに居る二人へ声をかけてから彼女の案内を受ける。その場所はそれほ遠くはないようなので、扉の前まで案内されてもわずかに彼らの頭が見えた。
フェネアさんは扉を三回、ゆっくりと叩いてから開く。
「アティカさん、新規冒険者の方を連れてきましたので調査をお願いします」
「ええ、その方を部屋に」
「はい」
アティカと呼ばれた、声の感じからして女性であろう人物に促され、フェネアさんは私に目で合図を送り、大丈夫だというように頷いてくれる。
私は初めてのことに少し緊張しつつ、その部屋へ足を踏み入れた。
「はじめまして、こんにちは。私はこのミルスマギナのギルドを運営しているアティカと言います。これから能力調査を行いますが、気分が悪くなったり体に異常を感じた場合はすぐに申告して下さいね」
「は、はい。よろしくお願いします」
「ふふ、緊張しなくても大丈夫。深く息を吐いて、吸って…日常と変わらぬ心持ちで…」
紫色の髪を編んで垂らしている女性、アティカさんの言葉に従い、緊張を解すように呼吸をする。柔らかく細められたアメジストのような色の瞳は、幼子を見つめる親のように優しい。
そうして深呼吸を繰り返し、私が常と変わらぬ心持ちになったところで、アティカさんが声をかけた。
「では、そろそろ能力調査をはじめます。あなたはそのまま、何もしなくて大丈夫ですよ」
私が頷くと、アティカさんは懐から分厚い魔法書を取り出して開き、それを宙に浮かばせる。ふわふわと浮いた状態でページがめくられていき、それを見つめながら彼女は詠唱を始めた。
「ミルスマギナギルド、マスター:アティカの名の下に魔法書を発動 我が瞳は真を見つめる神眼となりて、汝が能力を見定める…」
魔法書から重なり合う魔法陣が球体になって浮かび上がり、それらが解けるようにして私の足元と頭上に移動する。淡い光を放つ魔法陣は数秒ほどゆっくりと回転していたが、再び球体へ戻って魔法書の中へ溶けるように消えた。
「……はい、調査は終わり。んー…と、魔法の適正がかなり高いですね。魔力の質もとても良いですし…剣術の心得も多少ですがあるみたいですし、これなら十分です。ギルドへの所属を歓迎します」
「よかった…。これからよろしくお願いします」
「ええ、末永いお付き合いになることを願っています。では、手を」
「え、あ、はい」
にこりと微笑んでいるアティカさんにそう言われ、私は不思議に思いつつも手を差し出す。彼女は魔法書から出てきたペンダントを取り、私の手の上に乗せた。
銀色の細い鎖の先には硝子玉のようなものがついており、中にギルド全体をあらわす印が付いているのが見える。
「これはあなたがギルドに所属している証です。迷宮や遺跡に入る際や依頼を受諾する際に必要なものですので、失くさないように気をつけてくださいね。では、あとは窓口へ戻って登録を完了して下さい」
「はい」
にこにこと笑みを浮かべて小さく手を振ってくれるアティカさんに頭を下げ、私はその部屋を出る。扉を開けると、すぐ傍で待機していたらしいフェネアさんにおめでとうございます、と声を掛けられ、彼女と共にグランとフェイラスの待つ窓口へと戻ってきた。
「調査の結果、ミーフェさんは中級に分類されます。先程も申しました通り、一ヶ月は初級の依頼を受けてもらいますが、ギルドが信頼できると判断した場合はその期間よりも早く中級の依頼を受けられるようになります」
「あ、そうなんですね…。ええと、頑張ります」
「はい、期待していますね。では、これで冒険者登録は完了です。また何か困り事がありましたら、気軽にどうぞ」
「ありがとうございます」
にっこりと笑って見送ってくれるフェネアさんに頭を下げ、私たちは新規冒険者用窓口を離れる。これで私の目的はすべて達成できたのだが、このまま家に帰るのもなんだか勿体無いような気がしてしまう。
「とりあえず、これでミーフェの用事は終わったと思うんだけど…他に何かあるか?」
「うーん…特に用事はないかなぁ…。グランは何かある?」
「いや、私もない」
「じゃあ、ちょっと俺に付き合ってくれるか?」
にっと笑みを浮かべて提案するフェイラスに、私とグランは二つ返事で頷いた。このまま帰るのも勿体無いと思っていたところだし、丁度いい。
案内すると言うフェイラスに続き、私たちはギルドをあとにした。
*
フェイラスに案内されるがまま、ミルスマギナの南東側にやってきた私たち。年季の入った家屋や看板があるかと思えば、つい最近建てたばかりのような店があったりと新しいものと古いものが入り混じっているようだ。
「えーっと……あ、ここだ。ここに紹介したいひとがいるんだ」
「ここに?なんか、すごく大きな家だけど……いったい何処で知り合ったの?」
「あー、まあ、そこは話すと長くなるしまた今度な」
はは、と乾いた笑みを零すフェイラスに、色々と事情があるのだろうと察して頷く。
私は玄関に向かうフェイラスから視線を外し、その家へと向ける。庭、といえばいいのか、玄関へ向かうまでの道の両脇には木々が覆い茂っており、他の家とはまるで雰囲気が違う。
小さな森に来たような気分になりながらフェイラスと共に扉の前まで行き、彼が大きく扉を叩いた。
「―おーい、オルネラー!」
フェイラスがそう呼びかければ、扉の向こうで誰かが動く気配と近付いてくる足音が聞こえる。少しして扉が開き、姿を見せたのは女性だった。
少し灰がかった青色の髪を結んでいる、きりっとした顔立ちの美人さんだ。
「ちょっと、訪ねてくるのなら事前に教えなさいよ。私にも予定と言うものがあるのよ?」
「はは、ごめんごめん。ちょっとオルネラに会わせたいひとが居てさ。いま大丈夫か?」
「……まあ、彼にあなたを紹介するのもいいかしらね。いいわ、どうぞ」
オルネラと呼ばれた女性は、少し悩んでいたがすぐに招き入れてくれる。彼女に続いて家の中へ入って行くフェイラスに、私とグランも続く。
中は雑然と物が置かれており、おそらく通り道であろう箇所だけ、なんとか物が避けられているようだ。置物や本、何に使うのかよく分からない道具などの横を通り過ぎ、客間らしき部屋へ通された。
「うん?客人なら俺はいない方がいいか?」
「構わないわ。ここで冒険者をするのなら、こいつとは知り合いになっておいて損はないし。で、ええと、フェイラスは私に会わせたいひとがいるのよね?どっち?」
通された客間には先客がおり、その青年は机に並べられている菓子を頬張って食べている。私はその青年に見覚えがあった。
星空を切り取ったかのような髪色に透き通った青空の瞳は、どこをどう見ても、あの夢で出会ったゼンだ。彼は驚いている私を見て、まるで悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべている。
「オルネラに会わせたいのはこっち、ミーフェだよ。一応、ちゃんと教えておいた方がいいかと思ってな」
「教えるってどういう……ん、うんん?えーっと、あなた、ミーフェといったかしら……?」
「あ、はい。ミーフェといいます。南西で調合屋を開いてます」
「ううーん…なにかしら、なにかすごくきらきらと光って見えるような気がするけど…まあいいわ。
私はオルネラよ。オルネラ・グランツィア・フォンターナ。あなたと同じ調合師を仕事にしているの」
よろしく、と手を差し出すオルネラさんの手を握り、こちらこそ、と返す。彼女はにこりと笑みを浮かべ、立ち話もなんだから、と椅子を勧めてくれたので素直に座ることに。
「こっちも紹介しておくわね。最近、冒険者になったばかりのゼンよ」
「気軽にゼンと呼んでくれ。よろしくな」
にこー、と人好きのする笑みを向けるゼンに、私も違和感のないように当たり障りなく返す。彼と知り合いだと分かっても説明が難しいし…。
笑顔でフェイラスとグランに挨拶をしてから、彼は急に何かを思いついたようにぽん、と手を叩いた。
「そうだ、俺、これからちょっと用事があるのを忘れていたから、ここで失礼するな。オルネラ、菓子ありがとう。じゃ、またな!」
「ええ。また明日、ギルドでね」
風のように素早く去って行くゼンを見送ったところで、オルネラさんが口を開く。
「それで?別に紹介するってだけじゃないんでしょう?」
「うーん、別に何か要求しようってわけじゃないぞ。ミーフェはまだここに来ただかりだから、同じ調合師の知り合いでも出来ればいいかなぁって思って、オルネラに紹介しただけで」
「あら、そうなの?まあ、先輩 調合師として助言は出来るだろうけど…」
うーん、と小さく唸るオルネラさん。何か出来ることがあるか、考えてくれているのだろう。面倒見の良い女性だ。
「助言をしていただけるだけでもありがたいです。調合師として、まだまだ未熟ですから」
「……良い子ね、勤勉だわ。他の調合師もこうならいいのだけど、って、そんな事をあなたに言っても仕方ないわよね。まあ、何か困ったことがあったり欲しい素材があったら声をかけて」
「ありがとうございます」
フェイラスが彼女を紹介したいと言った理由が分かったような気がする。同じ調合師としてというのが根元にあるのだろうけど、彼女はとても好ましい人物で私はとても気に入った。
それから少しだけオルネラさんのことを聞いたり、こちらのことを話したりしてから、彼女の家を後にした。
*
今日はギルドに行ったり、フェイラスに紹介されてオルネラさんに会ったり、なぜかゼンがこちらの世界に居たりと色々なことがあった日だった。なんだかとても疲れた…。
「ん、ふわ…」
「……眠い、か?」
「あ、うん…ちょっと」
いつものように私の体に触れるグランが、私の小さな欠伸を聞きとめてそう問いかけてきた。
ちょっとどころではないけど、グランが触れてくれるのは嬉しいし…彼の好きなようにさせてあげたいのでこう答えたが、彼はじっと私を見つめてめくりあげた服を直してくれた。
「グラン?」
「君と肌を合わせることはいつでも出来る。睡眠を欲している君に無理強いはしないよ」
「……ん、ありがとうグラン」
優しく額に口付けを落としたグランは私を抱きしめ、そのまま目を閉じる。私も彼の優しさに甘えて、ぎゅっと抱きついて目を閉じた。
愛しいぬくもりを感じながら、私はゆっくりと眠りに落ちていった。
新規冒険者を募る窓口はいくつかあるが、現在、そのどれもが空いている。多いときは十数人が並んでいるらしいが、今日は誰一人としていないようだ。
とりあえず、フェイラスの顔見知りである受付役がいるらしいので、私たちはその窓口へ向かう。
「こんにちはー」
「こんにちは……あれ、フェイラスさんじゃないですか。ここは依頼受諾の窓口じゃないですよ?」
「はは、さすがに分かってるよ。今日は冒険者になりたいひとを連れてきたんだ」
「よろしくお願いします」
フェイラスに紹介され、私は頭を下げる。受付役は狐耳と尻尾を生やした狐獣人の女性で、優しくて包容力のありそうな雰囲気をしている。
「まあ、そうだったんですか。では、まずは説明をしますのでお座りください」
にこりと笑う狐獣人の女性に勧められ、椅子に腰掛ける私。それほど広くない窓口なので、フェイラスとグランは私の後ろに立っている。…威圧感とか大丈夫かな?
「さて、あなたの冒険者登録を担当させて頂きます、フェネアと申します。説明の間、疑問点などがございましたら遠慮なくご質問ください。では、まずはお名前と居住区をこの紙に記入して下さい」
「はい」
フェネアさんの差し出した紙を受け取り、間違えないように記入する。住んでいる場所を書くのはまだ数回ほどだから、なにか間違っていそうな気がする…。
後ろにいるグランに目で確認し、大丈夫だと頷いたのでフェネアさんへその紙を返す。
「……ミーフェさん、ですね。この居住区ですと……はい。問題ありませんね。では、冒険者の説明をさせていただきます」
フェネアさんは机の下から手のひらより少し大きい冊子を取り出し、何度も開いたのか癖のついたページを見せてくれる。
冒険者の等級について、冒険者としての義務などが書かれているようだ。
「冒険者は初級、中級、上級、特級、超級のいずれかに分類されます。これは後ほど行います、戦闘能力調査の結果によって変わりますが、ほとんどの人は初級か中級になります。
級によって受けられる依頼の内容が変わりますが、中級から始まる方も一ヶ月は初級と同じ内容の依頼を受けてもらいます。これは私たちギルド側が冒険者を見定める期間ですので、目に余る行動はどうぞお控えくださいね」
「…それ、伝えてもいいんですか…?その期間だけ大人しくするひととかも居そうですけど…」
「ふふ、大丈夫ですよ。常時、気を張っていられる方は多くありませんからね。そういうものを見るのが得意な職員がいますから」
にこりと笑みを浮かべるフェネアさんだが、先程と違いなんだか後ろが寒くなるような笑みだ。普段は優しくて包容力のあるひとなのだろうが、怒らせると恐そうだ……。
「次は冒険者の義務についてですが、これはあってないようなものなので頭の片隅にでも留めておいてください。あとは……」
依頼の受け方や報酬、迷宮で得たものの扱い、等級のあげ方についてなどを丁寧に説明してもらい、特に疑問を抱くことなく終わりを向かえた。
忘れたときに見返せるように、とフェネアさんが見せてくれていた冊子の新品を受け取り、いよいよ戦闘能力調査の時だ。
「では戦闘能力調査を行いますので、こちらへどうぞ。ご案内します」
「はい。じゃあ、行ってくるね」
窓口の机の一部分を外して内側へ招くフェネアさんに頷き、私は後ろに居る二人へ声をかけてから彼女の案内を受ける。その場所はそれほ遠くはないようなので、扉の前まで案内されてもわずかに彼らの頭が見えた。
フェネアさんは扉を三回、ゆっくりと叩いてから開く。
「アティカさん、新規冒険者の方を連れてきましたので調査をお願いします」
「ええ、その方を部屋に」
「はい」
アティカと呼ばれた、声の感じからして女性であろう人物に促され、フェネアさんは私に目で合図を送り、大丈夫だというように頷いてくれる。
私は初めてのことに少し緊張しつつ、その部屋へ足を踏み入れた。
「はじめまして、こんにちは。私はこのミルスマギナのギルドを運営しているアティカと言います。これから能力調査を行いますが、気分が悪くなったり体に異常を感じた場合はすぐに申告して下さいね」
「は、はい。よろしくお願いします」
「ふふ、緊張しなくても大丈夫。深く息を吐いて、吸って…日常と変わらぬ心持ちで…」
紫色の髪を編んで垂らしている女性、アティカさんの言葉に従い、緊張を解すように呼吸をする。柔らかく細められたアメジストのような色の瞳は、幼子を見つめる親のように優しい。
そうして深呼吸を繰り返し、私が常と変わらぬ心持ちになったところで、アティカさんが声をかけた。
「では、そろそろ能力調査をはじめます。あなたはそのまま、何もしなくて大丈夫ですよ」
私が頷くと、アティカさんは懐から分厚い魔法書を取り出して開き、それを宙に浮かばせる。ふわふわと浮いた状態でページがめくられていき、それを見つめながら彼女は詠唱を始めた。
「ミルスマギナギルド、マスター:アティカの名の下に魔法書を発動 我が瞳は真を見つめる神眼となりて、汝が能力を見定める…」
魔法書から重なり合う魔法陣が球体になって浮かび上がり、それらが解けるようにして私の足元と頭上に移動する。淡い光を放つ魔法陣は数秒ほどゆっくりと回転していたが、再び球体へ戻って魔法書の中へ溶けるように消えた。
「……はい、調査は終わり。んー…と、魔法の適正がかなり高いですね。魔力の質もとても良いですし…剣術の心得も多少ですがあるみたいですし、これなら十分です。ギルドへの所属を歓迎します」
「よかった…。これからよろしくお願いします」
「ええ、末永いお付き合いになることを願っています。では、手を」
「え、あ、はい」
にこりと微笑んでいるアティカさんにそう言われ、私は不思議に思いつつも手を差し出す。彼女は魔法書から出てきたペンダントを取り、私の手の上に乗せた。
銀色の細い鎖の先には硝子玉のようなものがついており、中にギルド全体をあらわす印が付いているのが見える。
「これはあなたがギルドに所属している証です。迷宮や遺跡に入る際や依頼を受諾する際に必要なものですので、失くさないように気をつけてくださいね。では、あとは窓口へ戻って登録を完了して下さい」
「はい」
にこにこと笑みを浮かべて小さく手を振ってくれるアティカさんに頭を下げ、私はその部屋を出る。扉を開けると、すぐ傍で待機していたらしいフェネアさんにおめでとうございます、と声を掛けられ、彼女と共にグランとフェイラスの待つ窓口へと戻ってきた。
「調査の結果、ミーフェさんは中級に分類されます。先程も申しました通り、一ヶ月は初級の依頼を受けてもらいますが、ギルドが信頼できると判断した場合はその期間よりも早く中級の依頼を受けられるようになります」
「あ、そうなんですね…。ええと、頑張ります」
「はい、期待していますね。では、これで冒険者登録は完了です。また何か困り事がありましたら、気軽にどうぞ」
「ありがとうございます」
にっこりと笑って見送ってくれるフェネアさんに頭を下げ、私たちは新規冒険者用窓口を離れる。これで私の目的はすべて達成できたのだが、このまま家に帰るのもなんだか勿体無いような気がしてしまう。
「とりあえず、これでミーフェの用事は終わったと思うんだけど…他に何かあるか?」
「うーん…特に用事はないかなぁ…。グランは何かある?」
「いや、私もない」
「じゃあ、ちょっと俺に付き合ってくれるか?」
にっと笑みを浮かべて提案するフェイラスに、私とグランは二つ返事で頷いた。このまま帰るのも勿体無いと思っていたところだし、丁度いい。
案内すると言うフェイラスに続き、私たちはギルドをあとにした。
*
フェイラスに案内されるがまま、ミルスマギナの南東側にやってきた私たち。年季の入った家屋や看板があるかと思えば、つい最近建てたばかりのような店があったりと新しいものと古いものが入り混じっているようだ。
「えーっと……あ、ここだ。ここに紹介したいひとがいるんだ」
「ここに?なんか、すごく大きな家だけど……いったい何処で知り合ったの?」
「あー、まあ、そこは話すと長くなるしまた今度な」
はは、と乾いた笑みを零すフェイラスに、色々と事情があるのだろうと察して頷く。
私は玄関に向かうフェイラスから視線を外し、その家へと向ける。庭、といえばいいのか、玄関へ向かうまでの道の両脇には木々が覆い茂っており、他の家とはまるで雰囲気が違う。
小さな森に来たような気分になりながらフェイラスと共に扉の前まで行き、彼が大きく扉を叩いた。
「―おーい、オルネラー!」
フェイラスがそう呼びかければ、扉の向こうで誰かが動く気配と近付いてくる足音が聞こえる。少しして扉が開き、姿を見せたのは女性だった。
少し灰がかった青色の髪を結んでいる、きりっとした顔立ちの美人さんだ。
「ちょっと、訪ねてくるのなら事前に教えなさいよ。私にも予定と言うものがあるのよ?」
「はは、ごめんごめん。ちょっとオルネラに会わせたいひとが居てさ。いま大丈夫か?」
「……まあ、彼にあなたを紹介するのもいいかしらね。いいわ、どうぞ」
オルネラと呼ばれた女性は、少し悩んでいたがすぐに招き入れてくれる。彼女に続いて家の中へ入って行くフェイラスに、私とグランも続く。
中は雑然と物が置かれており、おそらく通り道であろう箇所だけ、なんとか物が避けられているようだ。置物や本、何に使うのかよく分からない道具などの横を通り過ぎ、客間らしき部屋へ通された。
「うん?客人なら俺はいない方がいいか?」
「構わないわ。ここで冒険者をするのなら、こいつとは知り合いになっておいて損はないし。で、ええと、フェイラスは私に会わせたいひとがいるのよね?どっち?」
通された客間には先客がおり、その青年は机に並べられている菓子を頬張って食べている。私はその青年に見覚えがあった。
星空を切り取ったかのような髪色に透き通った青空の瞳は、どこをどう見ても、あの夢で出会ったゼンだ。彼は驚いている私を見て、まるで悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべている。
「オルネラに会わせたいのはこっち、ミーフェだよ。一応、ちゃんと教えておいた方がいいかと思ってな」
「教えるってどういう……ん、うんん?えーっと、あなた、ミーフェといったかしら……?」
「あ、はい。ミーフェといいます。南西で調合屋を開いてます」
「ううーん…なにかしら、なにかすごくきらきらと光って見えるような気がするけど…まあいいわ。
私はオルネラよ。オルネラ・グランツィア・フォンターナ。あなたと同じ調合師を仕事にしているの」
よろしく、と手を差し出すオルネラさんの手を握り、こちらこそ、と返す。彼女はにこりと笑みを浮かべ、立ち話もなんだから、と椅子を勧めてくれたので素直に座ることに。
「こっちも紹介しておくわね。最近、冒険者になったばかりのゼンよ」
「気軽にゼンと呼んでくれ。よろしくな」
にこー、と人好きのする笑みを向けるゼンに、私も違和感のないように当たり障りなく返す。彼と知り合いだと分かっても説明が難しいし…。
笑顔でフェイラスとグランに挨拶をしてから、彼は急に何かを思いついたようにぽん、と手を叩いた。
「そうだ、俺、これからちょっと用事があるのを忘れていたから、ここで失礼するな。オルネラ、菓子ありがとう。じゃ、またな!」
「ええ。また明日、ギルドでね」
風のように素早く去って行くゼンを見送ったところで、オルネラさんが口を開く。
「それで?別に紹介するってだけじゃないんでしょう?」
「うーん、別に何か要求しようってわけじゃないぞ。ミーフェはまだここに来ただかりだから、同じ調合師の知り合いでも出来ればいいかなぁって思って、オルネラに紹介しただけで」
「あら、そうなの?まあ、先輩 調合師として助言は出来るだろうけど…」
うーん、と小さく唸るオルネラさん。何か出来ることがあるか、考えてくれているのだろう。面倒見の良い女性だ。
「助言をしていただけるだけでもありがたいです。調合師として、まだまだ未熟ですから」
「……良い子ね、勤勉だわ。他の調合師もこうならいいのだけど、って、そんな事をあなたに言っても仕方ないわよね。まあ、何か困ったことがあったり欲しい素材があったら声をかけて」
「ありがとうございます」
フェイラスが彼女を紹介したいと言った理由が分かったような気がする。同じ調合師としてというのが根元にあるのだろうけど、彼女はとても好ましい人物で私はとても気に入った。
それから少しだけオルネラさんのことを聞いたり、こちらのことを話したりしてから、彼女の家を後にした。
*
今日はギルドに行ったり、フェイラスに紹介されてオルネラさんに会ったり、なぜかゼンがこちらの世界に居たりと色々なことがあった日だった。なんだかとても疲れた…。
「ん、ふわ…」
「……眠い、か?」
「あ、うん…ちょっと」
いつものように私の体に触れるグランが、私の小さな欠伸を聞きとめてそう問いかけてきた。
ちょっとどころではないけど、グランが触れてくれるのは嬉しいし…彼の好きなようにさせてあげたいのでこう答えたが、彼はじっと私を見つめてめくりあげた服を直してくれた。
「グラン?」
「君と肌を合わせることはいつでも出来る。睡眠を欲している君に無理強いはしないよ」
「……ん、ありがとうグラン」
優しく額に口付けを落としたグランは私を抱きしめ、そのまま目を閉じる。私も彼の優しさに甘えて、ぎゅっと抱きついて目を閉じた。
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ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
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