転生女神は最愛の竜と甘い日々を過ごしたい

紅乃璃雨-こうの りう-

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第二十二話 海への誘い

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*短め

 夏の暑さが増す今日この頃。いつものように調合屋を開け、部屋を冷やす魔法具を起動させ、やっぱり変わらずのんびりとしていた。

「んー…涼しくて快適…」

 ぐてー、とカウンターに突っ伏した私だが、はっとして姿勢を正す。いけないいけない、いくら私一人とはいえだらだらしていては駄目だ。
 棚の整理でもしようとカウンターから離れると、からん、と鈴が鳴って見慣れた四人組が入ってきた。
 良く来るソーニャちゃんとステラちゃんに、緑色の髪を三つ編みにしているウィルフレッドくん、金色の少し長い髪をそのままにしているルーファスくんだ。

「こんにちはミーフェさん!」
「こんにちは」

 この暑さでも変わらず元気なソーニャちゃんに挨拶を返す。ステラちゃんとルーファスくん、ウィルフレッドくんは小さく頭を下げてくれた。ソーニャちゃんほど元気は残っていないのだろう。

「外、暑かったでしょう。果汁水でも飲んで一息ついて?」
「わあ!ありがとうございます!」
「助かるわ、ありがとう」
「ありがとうございます、いただきます」
「……ありがとう」

 果汁水を注いだ器をそれぞれに渡し、四者四様のお礼を受け取る。
 四人が器を空にした頃を見計らい、私は今日の用件を聞くことにした。

「一息ついたところで、今日はどうしたの?」
「あ!そうですそうです。ミーフェさん、一緒に海に行きましょう!!」
「……海?」
「その言い方だと、ミーフェさんに誤解を与えるだろうが。ちゃんと順を追って話せ」
「あ、そうだよね。えっとですね……」

 ソーニャちゃん曰く、夏季休暇中に魔法学園側が指定した依頼をこなす課題があって、その依頼場所が海だから一緒に海へ行きましょうという誘いになったとの事。
 う、ううん?その依頼は部外者の私が居てもいいのかな…?

「ソーニャ、説明不足だぞ。その依頼には冒険者を三人まで呼ぶことが出来る。その内の一人を、ミーフェさんにお願いしたいと、そういうことだ」
「なるほど……」

 ルーファスくんの追加説明でようやく理解できた。
 海かあ…そういえばこの姿で海に行った事はなかったなぁ。うーん、お店…閉めても大丈夫かな…。

「グランさんも一緒で、どうですかミーフェさん!」
「んー…興味はあるけど、お店を放っておくのは……」
「―話は聞かせていただきましたわ」

 からん、と鈴が鳴って、入り口に現れたのはシャローテだ。いつもと変わらぬ笑みを浮かべて、私たちのところへやってくる。……話は、っていつから聞いていたんだろうか。

「お店の事はお任せください。たまには遠出をするのも良いことですわ」
「でも、シャローテだけに任せるわけには…」
「ご心配なく。私とフィーリでミーフェの留守を守りますわ。ですので、どうかあなたの心のままに」

 にこりと笑うシャローテに私は数秒ほど悩み、ソーニャちゃんのお願いを聞くことにした。
 
「うん、じゃあ一緒に行くね。で、その依頼はいつもの四人で行くの?」
「いえ、私たちいつも一緒に居るので、分けられちゃったんですよ。今回は私とルーファスと監督役の人が一緒です」
「そっか。じゃあ、依頼のこと詳しく聞いてもいい?」
「はーい」

 ソーニャちゃんとルーファスくんを奥へ招きいれ、依頼の日程や内容を聞く。ステラちゃんとウィルフレッドくんは必要なものを買って、準備があるからと先に帰ってしまった。

「えっと、三日後に現地集合で、場所はリートゥスの村だね」
「はい。海底遺跡での依頼なので水着があるといいですよ」
「水着……持ってない…」

 水遊びとかしたことなかったから、水着なんて持ってないや。買いに行かなくちゃいけないなぁ、と思っていると、ソーニャちゃんとシャローテが、なんだかきらきらした目で見つめてきている。

「それなら買いに行きましょう!いまなら可愛い水着もたくさんありますよ!」
「ええ、ミーフェに似合う…グランの喜びそうな水着を選びますわ」
「……なら、俺は他の準備があるから帰る」

 にこにこと楽しそうな笑みを浮かべる二人に、ルーファスくんははあ、と思い切り息を吐き出して席を立って行ってしまった。ソーニャちゃんがこうなると止められないからだろう。

「えっと…じゃあ、買いに行こうかな…?」
「はい!じゃあ行きましょう!」
「善は急げと言いますもの」

 ルーファスくんを見送ってからそう言うと、二人に両側を挟まれて水着を買いに行くことになった。グランにだけ伝わるように書き置きを残して、私たちは水着を売る店へと向かった。

 *

 ミルスマギナでは夏になると、永樹の森にある湖の一つ『竜の水浴び場』で涼を取るのが一般的であるらしく、水着はそこまで高価なものではないらしい。
 だからなのか、二人は私に似合うと主張する水着を何着も見せてくれている。

「これなんていかがです?」
「こっちはどうですかミーフェさん!」
「待って待って、持って来る水着が過激じゃないかな?!」

 シャローテが持っているのは帯状の布が胸と下の部分を隠すだけの水着で、ソーニャちゃんが持っているのは隠す部分だけしか隠れていない水着だ。それを持ってくる勇気がすごい。

「もっと普通の、グランが好きそうな可愛い感じのとか…!」
「ふふ、すみません。ちょっと遊んじゃいました。えーと、可愛い感じのものですね、ちょっと探してきます!」

 ソーニャちゃんは小さく笑って、少し悪ふざけをしてしまっていたことを謝ってくれた。それから私の要望を聞いて、水着を探しに行ってくれる。
 彼女を見送ったシャローテはふう、と小さく息を吐いて私を見上げた。

「グランが喜びそう、という意味での選択は間違っていませんわよ?ただ、他の方には見せたくはないでしょうが」
「…まあ、うん。そういうのも考えて、可愛い水着をと思ってるんだけど」
「ふふ、承知しておりますわ。では白を基調とした水着を重点的に見て行きましょうか」

 くすくすと笑うシャローテになんとも言えない気持ちになる。私を信奉する側であるのに、色々と見透かされているような気がしてしまう。
 まあ、シャローテとの付き合いも長いし、私が上手く言葉にできない気持ちを汲み取って発言してくれているからだろうけど。

「ミーフェ、これはいかがですか?」
「わー、フリルの水着だ。うーん、上はいいけど、下が少し心許ないような…」
「では…スカートのようになっているものの方が良いですわね」
「ミーフェさんミーフェさん、これどうですか?」

 シャローテと一緒に選んでいる中に、ソーニャちゃんが水着を持って現れる。その手には胸元に花があしらわれた、白フリルの水着が。

「わぁ…、可愛いしグランも好きそうかも…」
「わーいやった!さっきのシャローテさんとの話が聞こえてて、これなら!って思ったんです」
「下も短いですがフリルのスカートのようですし、これなら良いのではないですか?」

 ソーニャちゃんから水着を受け取って、胸元の花やフリルを確認する。胸部分の真ん中に少し隙間があるけど、フリルで隠れるし……。
 少しだけ考えてから、その水着を買うことにした。値段も私がお店で稼いだお金でも買えるくらいだったのはありがたい。


「―じゃあ、三日後に!」
「はーい、またねソーニャちゃん」

 水着を買って少しお茶をしてから、私とシャローテはソーニャちゃんと別れる。ぶんぶんと手を振ってくれる彼女に手を振り返して見送り、私たちは自宅へと向かう。

「買った水着ですが、一度見せておいたほうが良いかと思いますわ」
「え、当日に見せようかと思ってたんだけど……」
「駄目ですわ。グランがいかに水着というものを知っていようとも、実際にミーフェが着ているのを見て、素早く理解できるとは限りませんもの」
「グランなら大丈夫だと思うけど……うん、事前に見せておくね」
「はい」

 シャローテの忠告を受け入れ、とりあえず今夜にでも着てみるかと考えているうちに自宅へと辿り着く。家に灯りがついているから、グランはもう帰っているのだろう。

「では、私はこれで。また明日ですわ、ミーフェ」
「うん、また明日」

 小さく頭を下げて隣家へ入っていくシャローテを見送り、私も家の中へ入る。ひんやりとした中に一つ息を吐き出して、私は二階へと向かった。

 *

 夕食の時にソーニャちゃんの事を話せば、グランは快く了承してくれた。彼女たちと一緒に水着を買いに行ったと続けて言うと、彼はふむ、と呟く。

「水着、か。聞いたことはあるが……どんなものか見せてもらってもいいか?」
「うん。シャローテにも事前に見せておいたほうがいいって言われてるから、んー…ここで見る?」
「……いや、後にしよう。片付けや風呂が終わった後に」

 すぐに見たいのかと思って言えば、すごく間を空けて返された。
 全部終わった後のほうが都合がいいかな?と考えてグランの言葉に頷き、私は夕食の片付けをして、グランが先にお風呂へ入ることにした。
 寝室で待っているとお風呂上りのグランに言われ、今度は私がお風呂に入ったのだけど。

「買うときには大丈夫だと思ってたけど、真ん中がなんか…ちょっとやらしい感じになってしまった気がする…」

 鏡で変なところはないか確認しつつ、胸を覆うフリルをめくる。真ん中にあった隙間は広がって、綺麗な円になっていた。
 穴と言ってもいいような形状で、私が読んでいる本的に言えば……ちょっともにょもにょ出来るというか。

「うぅ、だめだめ…!そういう気分になる前に、グランに見せに行こう」

 浮かんできたえっちな想像を振り払い、グランの待つ寝室へ向かう。ちょっとどきどきする心臓をなだめ、私はそっとドアを開けた。

「グラン。その、これが買った水着、なんだけど……」
「………ふむ」

 寝台に腰掛けて待っていたグランは、私の姿を見るとそう呟いて近くに来るように手招きをする。それに従って彼の前まで来ると、上下から前面、背面をじっくりと見られた。

「水着は肌が露出するものとは知っていたが、これほどとはな」
「えと、でも、水着ってこういうものだし……」
「分かっている。分かってはいるが……せめて何か羽織れないか?」

 腕を引かれてぎゅうっと抱きしめられながら、そんな事を言われる。羽織るものっていうと、薄手のカーディガンとかローブとかかな…。

「海に入らないときだけでいい。君の白い肌を、他人に見せたくない」
「ん、じゃあ何か用意しておくね。ところで、水着の感想は?」
「良く似合っているよ。とても可愛らしくて私好みだ」

 似合っている、可愛い、好みと言われて、私は満面の笑みを向ける。グランはいつも私が選んだ服や私を可愛いと褒めてくれるから、今回だってそう言うのは分かっている。分かっているけど、嬉しい。

「えへへ、ありがとう。じゃあ着替えてくるね」
「ああ」

 グランの腕の中から離れ、私は自分の部屋へと向かう。水着を脱いで魔法で綺麗にし、就寝用のワンピースへと着替える。
 それから寝室に戻り、横になっているグランの隣にいけばぎゅっと抱きしめられる。色んなところに口付けを落とされたけど、それ以上は何もせずに眠りについた。

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