転生女神は最愛の竜と甘い日々を過ごしたい

紅乃璃雨-こうの りう-

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第二十一話 ステラのその後と

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 ステラちゃんの騒動?の翌日。たまたまグランより早く目が覚めた私は、庭の植物に水を遣っていた。最近は暑くなってきたからか、少し植物たちが萎れている気がする。
 それでも他の植物に比べれば元気ではあるんだけど、と考えていると、玄関のほうに影が二つある事に気付く。

「ん…?朝早くに誰だろう」

 玄関の近くに出る開閉式の柵を開け、私はその影を確認しに行く。因みにこの柵、中に戻って玄関から出たりするのは手間だから、と私が作ったものである。
 柵を開けた音か私の足音かに気付いた影がこちらを向いたことで、影が何者であるかが分かった。

「あれ、ステラちゃんと……」

 少ししわの目立つ魔法学園の制服を着ているステラちゃんの隣に、黒に近い濃い紫の髪をした青年が立っている。いったい誰なんだろう?彼女の友人にしてはソーニャちゃんたちとは毛色が違うようにも見えるし……。
 とりあえず、ステラちゃんが何かを言いたそうにしているから彼の事は置いておこう。

「あ、ええと、その……昨日は、騒々しく帰ってしまってごめんなさい。それで、その、本当にそういうアレで……朝になって落ち着いたから、ミーフェさんを噛んだこと、謝らせようと思って……」

 おそらくアレソレのことを思い出してしまったからか、最初は恥ずかしそうに俯いていたステラちゃんだけど、そのままではいけないと思ったのか、顔を上げて赤い頬のまま私を見つめてそう口にした。
 ……ん?謝らせる…?

「ほらクロ、こういうのはちゃんとしないと駄目よ」
「……不用意に手ぇ出した方がわりーんだろうが」
「あっ、そのひとクロくんだったんだ?!」

 ステラちゃんに突かれて口を開いた青年に、彼があの黒竜が人化した姿だと知りつい大きな声を出してしまった。
 彼はそんな私の様子をちょっとうるさそうに見ている。竜は人化したとしても人より感覚が優れているし、耳に響いてしまったのかもしれない。申し訳ない。

「ええ…それよりも、クロ。失礼でしょう、私の相談を親身になって聞いてくれた方よ?」
「だからなんだよ。小さいとはいえ、竜に触ろうとするのがおかしいだろうが」
「はあ……事前に注意しなかった私も悪いけれど、噛んだあなたも悪いって話したわよね?謝罪をしに行くっていうのを、あなたも了承したはずよ。なのに、どうしてそういうことになるの」
「気が変わった」
「はぁ?!クロ、あなたねぇ……!」

 クロくんの態度が悪いとステラちゃんが注意をしたが、彼は改めようとはせず不遜なまま。そういう事が良くあるのか、ステラちゃんは昨日の経緯を手短に話し、あの時は了承したはずだと言えば気が変わったと。
 うーん、なんだかどんどん熱くなって行きそうだし、止めないとなぁ、と思った矢先に…ぐう、と何かの音が響いた。これは、うん…たぶんお腹の音だろう。
 その証拠に、ステラちゃんはお腹を押さえて顔を赤くしているし。

「……うちで食べていく?」

 私の問いかけに少し悩んだあと、ステラちゃんは小さく頷いた。

 *

 その後、ステラちゃんたちと朝食を取ったのだが、ちょっとばかり問題のようなものが起きてしまった。
 グランが、はじまりの竜であるグランヴァイルスだと、クロくんが気付いてしまったのだ。その場はかなり強引だったがはぐらかし、朝食の後にきちんと話をした方が良さそうだと判断したグランがクロくんと共に自室へと入ってしまった。
 居間に残っているステラちゃんはクロくんが心配なのか、ソファーに座っていてもそわそわとしている。何も説明してないからなぁ…。

「ステラちゃん、心配しなくても大丈夫だよ。ちょっとお話してるだけだから」
「そ、そんなに心配してないわ。…その、聞きたいことが」

 ステラちゃんは組んでいる手の指を忙しなく動かし、私を見たり手元を見たりして言いにくそうにしている。なんだろう?
 彼女の隣に座り、なるべく優しく聞き返す。

「私に答えられることなら、なんでも聞いて?」
「……その、私…クロと恋人になったのだけど…何をすればいいのかしら。竜との付き合い方なんて本に載ってないだろうし、このままでいいのかどうか…」

 どうやら、恋人関係となったクロくんとの付き合い方を悩んでいるようだ。まあ、竜とお付き合いしているひとなんて身近どころか、国中を探しても数人くらいだろうし……ここは私がきちんと不安を取り除いてあげないと。

「クロくんと、そういう話をした?」
「ええ。クロは、これまで通り私の傍に居られればいいって。でも、本当にそれでいいのかしら…」
「大丈夫。クロくんがそれを望んでいるなら、そのままでいいんだよ」
「……そういうもの?」
「そういうものだね。まあ、何か不安があったら、クロくんと話をするのがいいと思うよ。竜種と人間は考え方が違うから」

 ステラちゃんはさっきよりは少し落ち着いたようで、私の言葉に頷いてくれた。不安が解消されたのか、考えても仕方ないとなったのかは不明だけど。
 そんな彼女は、もう一つ聞きたいことがある、と私との距離をぐっと詰める。周りを確認し、こっそりと聞いてきた内容に私は頬が熱くなった。

「わ、私より進んでる気がする…!」
「―なにがだ?」
「ぴゃ!」

 ステラちゃんと小さい声で話をしていた私は、後ろから聞こえてきた声に驚いて奇妙な声を上げてしまう。ばっと振り向けば、お話を終えたグランとクロくんが立っていた。
 こころなしか、クロくんの元気がないような気がするが……。

「な、なんでもないよ!それより、クロくんとのお話は終わったの?」
「ああ。…彼だけの秘密に、と言っておいた」

 クロくんだけの秘密か…。自分だけがグランの本当の姿を知っている、と思っているのだから、心労がすごいことになりそうだ。いや、もしかしたら案外、大丈夫かもしれない、と思ってクロくんを見れば、ステラちゃんをぎゅうっと抱きしめている。

「ちょ、ちょっとクロ…!」
「…嬉しいのに心が重い…」

 大丈夫ではなさそうだった。ステラちゃんを抱きしめて、すり減ったらしい精神を癒しているようだ。
 その後、クロくんが落ち着いてからステラちゃんは魔法学園に戻ることになった。朝食のお礼を何度も言い、小さくなった黒竜を連れて。

 *

 ステラちゃんが帰った後、私は自室に戻り今日のデートのために身だしなみを整える。
 白い髪紐を結びなおし、デートのために買った袖なしの白いワンピースに変なところはないか鏡で何度も確認し、最後に髪を整えてから、一階の玄関へと向かう。

「グラン、お待たせ。遅くなってごめんね」
「いや、君を待つのも苦ではないから大丈夫だ。それより、その服ははじめて見るな」
「フィーリと一緒に買いに行ったの。グランはこういうのが好きって聞いて……どう、かな?」
「ふむ……良く似合っているよ。可愛い」

 上から下まで見つめられて、可愛いとまで言われてしまえば、私の頬はゆるゆるになってしまう。ふにゃっとした笑みになってしまう私を見て、グランは柔らかく笑っている。

「さて、では久しぶりのデートに行こうか。ミーフェ、手を」

 差し出された手を握って、私たちはミルスマギナの街へと繰り出した。
 春に歩いた頃と違い、店に並ぶものはみな夏の気配を感じるものばかりになっている。

「これから暑くなってくるから、涼しそうなものばっかりになってるね」
「そうだな。そういえば、君はどのくらい暑さを感じるんだ?必要ならば涼を得るためのものを買うが…」
「うーん…?たぶん、ひとと同じくらいかなぁ」

 街に留まることなんてほとんど無かったし、あの頃は適度に調整してたからどのくらいの暑さを感じるのかは分からない。だいたい、ひとの体と同じくらいにしてるから、そのくらいだと思うけど。

「ふむ、一応は用意しておいた方が良さそうだな。君の店も涼しいほうが客の入りもいいだろうし」
「あ、それはそうかも。ええと、そういうのは魔法具のお店にあるんだっけ」
「ああ。他にも何か欲しい物があれば、遠慮なく言ってくれ」
「あれば、ね」

 際限なく買い与えてくれそうなグランにそう言って、私たちはミルスマギナの東側にある『ルネルラ魔法具店』という、この街では有名な店へと足を運ぶ。

「魔法具店ってはじめて来たかも。わあ、色々なものがあるね」

 落ち着いた雰囲気の店内には、大きいものから小さいものまで所狭しと魔法具が置いてある。涼しい風を起こすものや水の音が聞こえるもの、任意の時間に音がなるもの、事前に魔法が組み込まれた短剣や紙など、ほんとうに色んなものが置かれている。

「おー…やっぱり人間って考えていくことは一緒なんだねぇ」
「ミーフェ。青と白ならどちらの色がいい?」
「え、うーん……白かなぁ」
「では白にしよう。で、何か気になるものはあったのか?」

 適当に魔法具を眺めている私に、どっちの色がいいかと聞くグランの手には、涼を得るための魔法具が乗っていた。どちらかといえば白のほうが好きなので白と答えると、持っていた青い魔法具は戻して、彼はこちらへ近寄ってくる。
 気になるものはあったか、という問いに、私は首を振った。

「ううん。面白いものがいっぱいあるなって思って、見てただけ。グランは、それの他に何かある?」
「いや、私もないよ。ではこれを買って、少し遅い昼食にしようか」
「うん」

 買った魔法具を収納空間へ入れ、ルネルラ魔法具店を後にする。
 近くにあった古風なレストランで昼食を取り、さてどこに行こうかと歩きながら相談していると、急に空が雲に覆われ、かげり始めていく。

「あ…なんだか雨が」

 降りそうだね、と口にする間もなく、ざあっと降り始める。慌てて近くの軒下へ避難すると、街行く人も急な雨を避けようと通りを走っていくのが見えた。

「わ、けっこう濡れちゃった……。うぅ、まだ買ったばかりなのに」
「いま拭くものを、」

 ワンピースの裾や髪の先から滴るほど濡れてしまっている。服が肌に張り付く感覚が少しわずらわしくて、私は服の裾を少しだけ持ち上げるが、あまり意味はなさそうだ。
 グランがなにか拭くものを収納空間からだそうとしてくれているが、そこで手が止まっている。うん?

「グラン?えっ、ひゃ!」

 どうしたのかと思って問いかけてみれば、ぐっと腕を引かれて抱きしめられた。そのままくるりと位置を変え、まるで私を隠すような行動だ。
 彼を見上げれば、少し機嫌が悪いような怒っているような、そういう表情をしている。

「あの、グラン?」
「……強引に抱き寄せてしまってすまない。雨に濡れて、君の下着が透けて見えていたから…」
「あ…ほんとだ…」

 白のワンピースだからか、濡れて張り付いているところが透けて見えている。グランはこの姿が通りを行く人の目を引いていることに気付き、とっさに抱きしめて隠した、ということらしい。

「ありがとう。ごめんね、気付かなくて……」
「いや……雨が弱まったらうちに帰ろう。君がそれ以上濡れないように、抱えて行く」

 有無を言わせない彼の言葉に頷く。
 数分後に雨が弱まり、グランは私を横抱きにしてマントを被せ、通りを走り抜けて行く。揺れも雨が当たる感覚もほとんどなく、無事に家まで辿り着いた。
 玄関先で雨に濡れた服を適当に絞り、歩くたびに濡れる床を魔法で拭きながら、私たちは二階へと向かう。

「…風邪を引くかどうかは分からないが、濡れたままでも良くないな。ミーフェ、先にお風呂に入るといい」
「え、でも、グランのほうが濡れてるし……」

 私がそう言うと、グランは首を横に振って自分は後でいい、と。
 濡れている度合いで言えば、私を抱えて走った彼の方が濡れている。でも、先に入ることを良しとしないだろうし……うーん、それなら。

「なら、一緒に入ろう?一緒に入ったら先も後もないよね」
「……一緒に?」
「うん。…だめ?」

 頷いてくれない気配がするが、私はじーっと期待を込めて見つめる。私の視線を避けるように横を見ているグランの服を引っ張り、さらに見つめると…彼は大きく息を吐き出した。

「分かった、一緒に入ろう。ただし、何もしない保証はないぞ」

 そう言って、グランは私の手を引いてお風呂へと向かう。
 一緒にお風呂に入りたいなぁ、と思っていたし、そういう事をされるのだってもちろん予想している。ちょっとだけ期待で胸を高鳴らせながら、私はお風呂場の戸を閉めた。


 *

 心地良い手が私の頭を優しく撫でている。気持ち良くて、そのまま身を委ねていたいが、私ははっと思い出す。
 グランとお風呂でして、そこでのぼせて気を失ってしまったことを。これは、なんというか…私が気をつけておくべきことだった事なので、とても申し訳ない。

「……ぐ、ぐらん…」

 その申し訳なさから、呼びかける声が小さくなってしまったが、彼には届いていたようだ。私を撫でる手を止め、こちらを覗きこんでくる。
 ん?あれ、私、グランに膝枕されてる?

「ミーフェ…!良かった、目が覚めたんだな。すまない、私がもう少し注意しておくべきだった。今の君は限りなく人に近いのに、それを留意しなかった私の責任だ」
「ううん、私もちゃんと気をつけておくべきだった。ごめんね、びっくりしたでしょう?」

 私と同じように申し訳なさそうな顔をするグランの頬に手を伸ばして撫で、私が急に意識を失ったことに対してそう聞けば、彼は私の手をぎゅっと握って搾り出すように声を発した。

「……っ、心臓が、止まるかと、」
「…ごめんね」

 慰めるために頭を撫でようと思っても手が届かないので、グランの頬を撫でるに留まる。彼の心が軽くなるまで、優しく頬を撫でて、大丈夫だよ、と繰り返す。
 しばらく慰めると彼は持ち直したらしく、握っていた手を離して、私をソファへと座らせてくれた。
 いま気が付いたが、私が彼に膝枕をされていたのは居間にあるソファだったようだ。お風呂から出て、すぐに寝かせられる場所はここぐらいしかないから、当然といえば当然だけれど。

「水を持ってくる」
「うん、ありがとう」

 ソファを離れたグランは私のために冷たい水を持って来てくれる。それを受け取り、ゆっくりと飲んでいるのだが、隣に座りなおした彼にじーっと見つめられてちょっと居心地が悪い。
 たぶん、まだ心配だからだろうけど……。

「大丈夫だよ。もうくらくらしないし、気分が悪いとかそういうのもないから」
「だが、まだ頬が赤い」
「…まあ、ちょっと頬は熱いけど…冷やせば大丈夫だから」

 心配そうに見つめて、ふと思いついたようにグランは私に手を伸ばす。なんだろう、と思いつつもそのまま手の行方を見ていると、彼はそっと私の頬に触れた。

「ん…っ、つめたい…」
「手だけ体温を低くした。これなら冷やせるだろう?」
「うん…手、冷たくてきもちいい…」

 グランの男らしい少しかたい手に擦り寄る。水に濡らした布ででも、と思っていたが、こちらのほうが断然良い。愛しい彼の手だし。
 それにしても、グランは器用だなぁ。元が規格外の存在だからこういうことも出来るんだろうけど。

「……グラン、もういいよ。ほら」

 冷たい手が気持ち良いと感じなくなったので、もう大丈夫だろうとグランに手を離すように要求する。彼は素直に手を離して、私の顔を見てほっと息を吐き出した。

「赤みが引いたな……ミーフェ」
「ん?」

 すりすりと頬を撫でていたグランが、私に口付けを落とす。触れて、啄ばむだけのそれはすぐに離され、彼はただじっと私を見つめている。

「ん、もう…そういう事すると、また熱くなっちゃうよ」
「また冷やせばいい。が、今日はもうやめておこう。君にばかり負担をかける訳にはいかないからな」

 ふっと笑みを浮かべ、グランはソファから立ち上がる。手を差し出されたので、その手を取って私も立ち上がれば、くう、と小さくお腹が鳴った。

「ふふ、少し早いが夕食にしようか。まだ何も用意はしていないが」
「そ、そんなにお腹空いてないし、私も手伝うよ」
「いや、今日は私に任せて休んでいてくれ。良くなっているのだとしても、無理はさせたくない」

 グランの言葉の言葉に頷くと、優しく頭を撫でられた。聞き入れてくれてありがとう、という意味だろう。
 待ってる間は暇なので、料理している姿が見える位置に移動して、座って眺めることにした。うーん、後姿も格好良いなぁ……。

 その後、グランの作った夕食を食べた私はそのまま寝室に向かい、片づけを終えた彼が来る前に眠りに落ちてしまったのだった。


*10月21日、修正に伴い二十二話を統合
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