転生女神は最愛の竜と甘い日々を過ごしたい

紅乃璃雨-こうの りう-

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第三十二話 女神と竜

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 最近ではあまり見なくなった本当の姿のグランヴァイルス。落ちていく私を受け止めて、また名前を呼ぶ。

「ミーフェリアス」
「グラン……。どうして、」
「話は後にしよう。今の星の海は居心地が悪いからな」

 そう言ってグランは四つの翼に力を籠め、荒れた星の海を力強く飛んでいく。私にその衝撃が伝わらないようにか、前足で包み込むように守られていた。
 時間が経つにつれ、混ざり合うような溶け合うような感覚は薄くなる。曖昧な意識が明瞭になり始め、薄い膜を破るような感覚の後、グランは星の海を抜けた。

「ミーフェリアス、大丈夫か?意識ははっきりしているか?」
「……うん。少しぼやけてるように感じるけど、すぐ良くなると思う」
「そうか……間に合って良かった」

 荒れた星の海から少し離れた場所でグランは私を包んでいた前足をどかし、私の無事を喜ぶように鼻先や顔を擦り付けてきていた。私は安心させるように擦り寄せている部位を撫でる。
 だが、ここでのんびりほのぼのしていてはいけない。星の海は今も荒れ、その領域を拡大しているのだから。

「君の言いたいことは分かっているつもりだ。星の海を鎮めなければいけないのだろう?」
「うん。このままだと世界が飲み込まれちゃうからどうにかしないと……」
「ふむ……ここは得意な君に任せたいが、いまの状態では難しいな。こういうのは得意ではないが、私がやろう。どうすればいいか教えてくれ」

 グランの提案に私は少し迷ったが、乗ることにした。彼は得意ではないとは言うが、出来ないわけではないのだ。それに、今の私よりよっぽど向いている。

「本当は私がするべきことだけど、グランにお願いするね。すごく、大変だと思うけど……」

 その方法は、星の海に混ざった別の力を取り除くことだ。この場合は邪神リリアの力ということになる。
 おそらく無理に星の海へ力を混ぜ、強制的に荒れた状態へと変化させたのだろう。なら、その状態へ持って行った力を取り除けば、元に戻るのではないか?という推論のもとの方法だ。

「ふむ、星の海に混ざった異なる力を取り除けばいいんだな?」
「難しいかもしれないけど、このくらいしか方法がないと思うの。本当なら私がしてたんだけど……」
「心配しなくても大丈夫だ。星の海以外の力を取り除くのなら、私が適任だろう」
「え……?」

 グランは私を乗せている前足と逆の前足を星の海へ向け、軽く振るう。たったそれだけで混ざりこんでいた邪神リリアの力が取り除かれ、浄化されていく。
 その光景に私は驚きを隠せない。出来ないわけではないと思っていたが、こうも簡単に出来てしまうなんて。

「すごい……。こんなに簡単にできるなんて、グラン、すごいね……!」
「私は星の海と共に生まれたらしいからな。それ以外の力を取り除くのならできるだろうと思ってやったが、本当にできてしまうとはな」

 荒れていた星の海はゆっくりと波を落ち着かせ、静かになっていく。広がっていた領域もどんどんと縮まり、私たちが良く知る星の海へと戻りつつある。
 そうして、グランが取り除いた力を浄化しきる頃には、星の海は静かな水面へと戻っていた。

「―おー、なんとか無事に終わったみたいだなー。良かった良かった」

 星の海を見つめる私たちのもとに、ゼンがやってくる。ゆるゆるとした空気と口調で声をかけてくる彼に、私は長く安堵の息を吐き出した。彼はこちらのことに手は出さないと言っていたから、こうやって声をかけに来たということは、終わったということなのだろう。

「……なんか、すごく…つか、れた……」
「そりゃそうだろうな。まあでも、もう終わったんだから寝てもいいんじゃないか?」
「そう、だけど……グランは、どうして私のいる場所が、分かったの……?」

 押し寄せる疲労感の中で、私はグランに問いかける。
 見つけられないようにしていたし、ここでの戦闘の影響は外に漏れないようになっていたはず。だから、彼が私のところに来るなんてありえない事なのに。

「ゼンに教えてもらったんだ。私の力だけでは、君がどこにいるのか分からなかった」
「…ゼンが?」
「俺は手を貸すとは言ったけど、それを誰にも話さないとは言っていないからな。ちゃんと俺を口止めしなかったお前が悪いんだぞ?」

 ぷに、とゼンに頬を突かれる。うんまあ、確かに誰にも話さないで欲しいとは言ってない。私は誰にも話さないとは言ったけど、ゼンについては何も言わなかったから。きちんと確認しなかった私の落ち度だろう。
 それならそれでいいけれど、彼はどこまで話したんだろう?

「君のことは全て聞いたよ。前世といわれるものが君にあるのは驚いたが、それだけだ。前も含めて、ミーフェリアスのすべてを愛すると決めたから、私はここに来た」
「グラン……」

 私のすべてを聞いた上で、受け入れて愛してくれると断言するグラン。それが嬉しくて、私は彼の鼻先に軽く口付ける。今の私ではこれが精一杯だ。
 グランは少し驚いたみたいだけど、嬉しそうに擦り寄ってきてくれた。

「いちゃつくのは構わんが、帰って休んだ方がいいんじゃないか?ミーフェは疲れてるだろ」
「ああ、そうだな。帰ろうか、ミーフェ」
「……うん」

 星の海は静かに揺らめいて、荒れていた痕跡など見当たらない。彼女の気配も完全に消え去って、ただ穏やかな水面が見えるだけ。
 今度こそ彼女に安らかな眠りが訪れたことを願い、私は小さく呟いた。おやすみ、と。

 *

 自宅へと戻ってきた私は疲労からか眠りに落ちてしまい、目を覚ましたのは三日後だった。
 シャローテやフィーリ、フェイラスからは心配した、無事でよかったと声を掛けられ、フェリスは泣きじゃくりながら良かったとしきりに呟いて、セラフィーヌさんとオルネラさんからはかるくお説教をされてしまった。
 ヴィアは勢力図が変わった魔界で色々と手を回して、情勢を落ち着けながら自分の領地を増やしたらしい。その後で私の様子を見に来て、まあミーフェちゃんは大丈夫だと思ってたけど!と少し震える声で言われた。
 
 それから二日ほどゆっくり過ごしてから、うやむやになっていたルーファスくんの解呪を行った。グランはまだ本調子じゃないだろう、と心配していたが、特に何も起きることなく無事に終わった。
 ルーファスくんは涙をこらえながらありがとうと感謝を口にし、後日お礼を届けると言って深々と頭を下げていた。彼の胸の内には様々な思いが去来していることだろう。私たちは何も言わず、彼を見送った。


 そしてまた日が経ったとある日。
 私はグランと一緒にミルスマギナの街を歩いていた。つまりデートである。
 お店はお休みにして、グランもギルドの仕事は受けずに、本当になんでもないデートだ。

「街はいつもと変わりないね」
「迷宮の方は騒がしかったようだが、もう落ち着いたからな。冒険者たちはまだしばらく警戒はしているだろうが、街の住人はそう変わらず過ごしているよ」
「そうなんだ。もう警戒しなくてもいいんだけど、それを伝えるのは難しいからなぁ」

 迷宮に溢れていた魔物は私と彼女の決着がつくと同時に勢いをなくし、ギルドの討伐隊によって殲滅されたらしい。突然、魔物が弱体化したことについて色々と議論が交わされているらしいが、いまだ明確な答えは出ていないとのこと。

「まあ、そのうち元に戻るだろう。それより、ミーフェ。どこか行きたいところはあるか?」
「うーん……行きたいところは特にないかなぁ。グランと一緒にこうして歩くだけでも楽しいし」
「ふむ、では春花の湖に行かないか?君はあそこを気に入っていたようだし、見せたいものもある」
「見せたいもの?」

 何も言わずに笑みを浮かべてグランは私の手を取り、湖への道を歩き始める。見せたいものってなんだろうと考えながら、彼に手を引かれるまま歩く。
 たどり着いた春花の湖は、春に来た時とそう変わりない。色とりどりの花が綺麗に咲いていて、二度目でもやっぱりきれいだなぁと感じる。
 さくさくと入口からある程度離れた場所まで来て、グランはこちらを向く。

「ここに座って、目を閉じていてほしい。少しだけだから」
「ん、わかった」

 彼の言う通り、座って目を閉じることにした。なんとなく、私に贈り物とかを渡そうとしているのかな、と分かるので。
 彼は私の隣に腰を下ろし、なにかをしているようだ。ただ贈り物を渡すだけなら何もする必要はないと思うけど、なんだろう。
 少しして、ふわ、と私の頭に何かが乗った。

「……目を開けて。手に取って見て欲しい」

 ぱっとめを開けて、頭の上にあるものに触れた。植物のような感触がし、それをそっと持ち上げて目の前に持ってくる。
 白の花で編まれた綺麗な花冠だ。

「これ、グランが……?」
「ああ。練習して、きれいに作れるようになったんだ。君はあの歪な花冠でも嬉しいと言ってくれたが、私は綺麗なものを君に贈りたくて」

 こんなに綺麗に、それもあの少しの時間で編めるようになるなんて。私が知らないうちにたくさん練習したんだろう。
 照れくさそうに笑うグランが、とても愛おしい。

「やはり、君には白が似合うな。とても、綺麗だ」

 私が花冠を頭に乗せなおすと、グランがそう呟いた。愛おしそうに目を細めて、私の頬を優しくなでる。
 そのままゆっくりと顔が近づいてきた。

「ミーフェ。これから未来さきもずっと、変わらず君を愛してる」
「うん……。私も、ずっとグランだけだよ」

 永遠の約束をもう一度交わし、私たちは唇を重ねた。

 *

 日課である朝の水やりをし、グランと少しいちゃいちゃして、お店を開く。前と同じような日常が戻ってきて、私はつい笑みがこぼれてしまう。

「ミーフェ、今日は私も店にいるよ。君のことを考えずにやってくる奴がいるかもしれないからな」
「ふふ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ヴィアだってちょっとずつ学んでいるんだし」

 私の言葉にグランは渋面を作った。ヴィアは邪神で私に色々とちょっかいをかけてくるし、ちょっと抜けてるようなところもあるから、疑う気持ちは分かるけれど。

「ほら、そんなに怖い顔しないで」
「怖い顔をしているつもりはないんだが……」

 グランが少し困ったように眉を下げる。私は彼を格好いいと思っているけれど、他の人たちからすると腕を組んで眉間にしわを寄せているだけで怖いらしい。格好いいのになぁ。
 彼が怖いと思われるのは私としても心外なので、そのしわを取るべくじゃれついていると、来店を知らせる鈴が鳴った。

「あ、いらっしゃいませ!」

 魔法学園の四人組が来店し、私は久しぶりに会う彼女らに笑顔で出迎える。
 
 今日も、明日も明後日も。私の日々は変わらずに続いていくだろう。あたたかくて優しくて、ときに騒がしい日々が。
 私の、ミーフェリアスとグランヴァイルスの幸福な日々は終わらない。いつまでも続いていく。
 それはきっと、永遠に。


〈Eternal days へつづく〉


――
*これにてミーフェリアスとグランヴァイルスの物語は一区切りです。この先は Eternal days としてその後を不定期で書いていこうと思います。
 ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。

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