各末

蟹虎 夜光

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第1話 痔持ちと作家の頭は苦労しがち

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第1話 痔持ちと作家の頭は苦労しがち

 点滅する街灯の近くで二人の人間がいた。
 
「ひぃ……命だけは……命だけは……!」
 
「……」
 
 無表情の彼は無言を突き通しながら、ゆっくりと刀を命乞いする男に刺していく。
 
「ぐはっ!!!」
 
 刀を肩に刺して痛そうな表情を浮かべると刺した男は笑顔になる。
 
「そういうの好き。」
 
「悪魔がっ……ぐふっ……」
 
 男は意識を失うと身体が消滅した。男の姿が消えたのを確認すると一人の少年がもう一人の男に近づく。

「お兄ちゃん!助けてくれてありがとう!」
 
「無事で良かったよ少年!……僕ね、帰り道分からないんだ!案内してくれないか?」

「え、そういうのってお兄さんが道分かってて僕を送ってくんじゃないの?」

「は?」

 少年は呆れた顔をした。男は首を傾げ、少年は仕方なく帰りの道を案内することにした。


 この世の中にはありとあらゆる作品が存在する。みんなから愛され未だ人気が衰えない作品、大人気の中で惜しくも完結してしまった作品、知る人ぞ知る陰に隠れ完結していった作品……人が十人十色存在するように物語も多く存在する。
 
 しかし中には完結できなかったまま惜しくも居なくなった作品……作者が書いてる途中で没にしたり亡くなった作品……一人だけの世界のまま閉じこもった作品……人気とはまた別に時代が悪かった世界も世の中には存在する。
 
 そしてその作品の中でそれが異変や霊として存在するようになったのが『各末』というわけである。

 そんな各末を退治する彼らの存在を人は各末狩りと言っている。


「芥木賞の受賞おめでとうございます!粼くん!」
 
「ありがとうございます……」
 
 少し苦虫を噛み潰したような顔をしている少年がいた。高校生活をしながら作家として賞を受け取る少年に周りの視線は集まっていく。

 彼の名は粼 一せせらぎ はじめという。世間一般的な黒髪に少しマスコット気味な可愛さをしているがなんともパッとしない俗に言うモブ顔である。

(あまり目立ちたくないんだがな……)

 性格は人見知りである。しかしその性格には理由があり彼は作家でありながら高校生……そしてもうひとつの顔は先程の各末狩りだからである。

「先生、そういえば聞きたかったんだけどタイトルなんだったっけ?」

「校長と痔です。」

「それって……我が校の校長先生と何か関係が……?」

「校長先生が痔だと愚痴をこぼしていたからです!」

「なんてもん書いて受賞してくれたんだクソガキぃぃぃぃ」

 神聖な学校の体育館の空気は一瞬にしてお笑い会場のように変わった。


 粼の教室は一つの話題で大笑いだった。

「粼さん、よく執筆しようと思ったね。」

「いやいやこれでも考えた方だよ。でも校長先生ムカついたから醜態晒してやろうって思っちゃって。」

「悪魔かよ!」

 粼は取り巻きの女子との会話に盛り上がっていた。

「粼さん面白すぎ!」

 アイドル級のルックスの彼女はHと額に表示されている。

「次は誰をいじるの?教頭?学年主任?……それとも私?……あっ!べ、別にいじって欲しい訳じゃないからね!」

 小悪魔のような顔をしつつも素直じゃない彼女は額にTと描かれている。

「粼さんだってそんなに作品パパパッと浮かんでも疲れるだけだよ。あ、ノートいる?」

 他の二人に比べて大人しめだが少しばかり他の彼女たちに比べて大きい彼女の額にはMと描かれている。

「粼さん、お菓子いる?糖分取らなきゃね。」

 突然現れたギャルっぽい彼女は額にRと描かれており、彼女らに比べて活発的な性格である。

「ありがとうみんな……でもそろそろ……」

「あ、粼ぃ……またお前は女子と遊んで……」

 ゆっくりと現れたのは先輩のような立ち位置の女性で、額にYと描かれている。

「一応私もいるんですけど。」

 隣にはAと額に描かれているスタイルの良い同じく先輩らしい女性。

「また生徒会サボって後輩の粼くんのところに!あ、粼くん!一つ仕事が!」

「あ、すみません!今向かいます!」

 そして彼女の額にはKと描かれており、彼女の腕章には生徒会長とついてあった。


 そして放課後。意気消沈しながら疲れでふらつく彼をYが送り、彼は家で倒れていた。

 そんな一を一人の年老いた女性が見つめる。彼女の名札には
 
「おかえり……全くあの子たちったら丁寧に送迎までしてくれるのね。」

「良い人たちに僕は恵まれてるなぁ。」

 一はそんなことを言ってまたパタリと倒れる。

「そうねぇ……けど。周りを褒めたって貴方が家の生活費軽くなるなんて思ったら大間違いだからね!」

「今月の印税まで待ってよぉ……あっ」

 と言い刀で見つけた各末を切り刻んだ。

「おばちゃん……これでいい?」

「全く退治代で払うんじゃないよ……あ、あと私おばちゃんじゃなくて姐さんって呼びな!」

「やーだー」

 一はハッキリと言えばクソガキである。しかしそのクソガキな性格によって周りは少しばかり優しくなる。

「あっ、そうそう……あんたの部屋に依頼人の子が来てるよ。」

「……へぇ、どんな子?」

「ババアの話聞くより自分の目でみなよ。」

「へいへい……」

「へいは一回!」

「へいは一回ってなんだよ!」

 なんてツッコミを入れながら一は自分の家に向かう。


「あっ、どーも。」

 そこにいたのは少し大人しめの少年だった。大人しいというよりもなんというか少々……人の気を感じない。

「……」

 そう感じた一は少年を切り刻んだ。

「ぐはっ……な、何を……するんです!僕は依頼者で貴方に頼みたくてここに来たと言うのに!……なんで……なんで!」

「お前……死体くせぇんだよ。」

「そんな……どこが……」

「各末ってのはさ、死体みたいな腐った臭いがするんだよ。なんでか分かるか?作品として死んでるからだよ。」

 一の理論としてはこうである。作品が死んだ……だからこそ死んでいる人間であるこの少年は作品のキャラとして一般社会に溶け込んでいてもその腐乱臭から隠し切れない各末であるという証拠の臭いでお見通しなのだとか。

「バカな……」

 少年は消滅した。

 一はそんな少年が消えていく姿を悲しそうに見た。

「無知な少年ってのも案外……可哀想なもんだな。」

 一はそんな事を言いながら料理をする。

「来世でも作品のキャラになったら長続きしろよ……」

 長生きしろよのオマージュであるかのように長続きしろよと彼はよく言う。

 完成したチキンカツを定食として食べながら少年のとこに落ちてた書類を拾う。

「スパイボーイか……着眼点は良いけど一瞬の影響で産んじゃうベタなやつか……くっ。」

 そして書かれたペンネームを確認し、舌打ちをする。

(『狭間 忠義はざま ただよし』……またあいつか。)

 作品を炎で燃やし、物理的に終わった話にすることで各末は本当に退治されたことになる。

 しかし、彼は違った。ペンを持つや否や、物語を淡々と描き続ける。

(これをこうしてこうすることで……アイツへの手向けにもなる!)


 こうして数日後。

「おめでとうございます!いやぁ実に2回連続賞を受賞!?凄いよ!よっ!芥木賞作家!」

 先生の声と共に当たり前のように鳴り続ける歓声と拍手。

「あはははは……拍手をどうも。」

「でもそれにしてもよくこんなに賞を取れるねぇ。なんか作品生み出す才能とかあるの?」

「ないです。」

「てかどうやって思いつくの?」

「なんていうか……その……すみません、黙秘します。」

 一はそう言って人の手から離れる猫のようにゆっくりと逃げ出した。

「おいおい秘密ってことはないでしょ~!」

 先生は少し苦笑いだが、内心少し気になるようだった。この日も彼の話題で持ち切りだった。

 to be continued
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