レディ・クローンズ

蟹虎 夜光

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Say goodbye to the past

第15話 開会 地獄が始まった

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「これより本校体育祭を始めたいと思います。」
 今この俺、福瀬一之輔はこの世界の仕組みに絶望している。世界はなんて理不尽なのだろうか。運動出来る人たちだけが英雄になる大会の何が楽しいのか。出来る人と出来ない人で優劣でもつけたいのだろうか。あぁついに始まってしまった。地獄が。

「ねぇ、カヌーレさん!」
 ファスタが元気よく声をかける。
「なんだい?ファスタちゃん。」
「今日のいっちゃん元気無かったくない?」
「まぁ、アレだからね。運動神経が悪い悪くないで彼らは優劣がついちゃう生き物なんだよ。」
 カヌーレはまぁ自分はそんな事なかったけどねと少し誇らしそうな顔でニヤニヤとしているが、言葉にはしない。
「なんか格差社会を感じるね。」
「確かに感じるけど……なんというかそれとは違う感じ?」
「と言うと?」
「……いや、なんでもない。考えるだけ時間の無駄だよ。」
 ニッコリと笑った後、カヌーレさんは皿洗いを続ける。
「あ、でもこれ楽しそう!」
「何がだい?」
「男女混合のダンス!」
「ファスタちゃん、これまた優劣が生まれそうな所を……」
 ファスタは無知だった。それどころか彼女はクローンであるが故に人間の考えに少し首を傾げていた。カヌーレは男女混合ダンスという内容を見て少しダメージを受けた。

「さぁ始まりました!第一競技は徒競走です!」
 小学校の運動会かよってツッコミは置いといて各クラス運動部男子、運動部女子、陸上部男子、陸上部女子、文化部もしくは無部の男子、女子となっている。俺はジャン負けで無部男子の枠で走ることになった。ここまで連勝を続けているうちのクラスは本当に化け物である。 そして最後を飾るのはうちのクラスで最も体力面で化け物な存在の帰宅部の女、吉岡紗帆に任せているので心配と言われているのは本当にここのみ。周りの自信の無い顔が俺にやる気を持たせるが、その反面もしこれでできなかったらなんてプライドがある。
「位置についてよーい……」
「起動……」
 俺はこの掛け声とともにセンキシへと姿を変える。その鎧はロボも同然。
 周りがザワついている。それもそうだ誰も期待していない文化部や無部の男子の中で一人だけロボットがいるからである。だが、むしろその珍しいという反応が俺にワクワクを与えてくれる。
「ドン!」
 その掛け声とともに俺の背中のジェットエンジンがものすごい勢いで飛ぶ。周りは唖然、この勝負俺の勝ちだ。
「なんだアイツ!チートだろ!」
「おいおいあのクラスはこんな化け物まで用意してんのかよ!」
 周りの声を聞いた俺は喜びを感じた。
「私が鍛えたおかげね……」
 いえ、千田さん違いますよ。これが俺の秘策。
「計測結果、100メートル0.01秒。最高記録です。」
 あ、やべやっちまった。やっぱジェットエンジンはさすがにまずかったな。でも、ここで皆は何故センキシのシステムをここまで公表しているのか疑問が浮かぶはずだ。

「え?どういうことですか。」
「そのまんまの意味です。」
 鏡リマに呼び出された俺はとある話を持ちかけられる。
「センキシのシステムを自由に利用して貰っていいですか。」
「魔法少女関係のってそこまで出していいんですか?隠す人達だっていませんでしたか?」
 俺は思わずタメである彼女に敬語で疑問を問いかける。
「……あれのどこが魔法少女なんですか。」
 た、確かに……。
「それにセンキシの本来使用される人達は魔力を一切持たない人間なのです。対象がいる前だからこそアピールするチャンスなのです。」
「納得……」
「アラタカさんから許可も出たので尚更計画を実行しようと思います。」
 許可出たんだ……。
「センキシのシステムは本来は一分ですが、貴方は適合率が完全であるため無限に使うことが出来ます。強化人間との戦闘結果でわかった結果です。」
「……そこまで調べたんですね。」
「それにあんな作戦の出し方……予想外でした。」
 リマさんは持っていた扇子で顔を隠しそう言った。少し照れている彼女を見て不覚にも可愛いと思った。
「とにかく使えるなら使ってくださいね!」
 俺は絶対使おうと思った。

 その結果、今に至っている。
「おいおいおいおい……とんでもねぇ隠し玉持ってやがった!アイツら不正みたいなもんだろ!」
「そうよ!あんな機械隠すなんてダメよ!」
 俺、機械呼ばわりされてる。そんな事を思っている中でザワザワとした声が一生続く。
「静粛に!」
 権田の声により黙り出す周り。
「同じクラスの私が言うのもあれではございますが彼も彼で走った事は事実!不正も何もそれが何よりの証拠でごわす!」
「何が言いたいんだよ!」
 ヤジの声を跳ね返すように権田は手で黙れと言うような動作をする。
「選手を悪く言っていいのは己のみ!それ以外で言っていいやつは勝ってから言え!」
 良い事言ってるんだろうけど、申し訳ないが今のお前は立場的に悪役っぽいぞ権田。
 そしてこのあともうちのクラスは無双した。徒競走では男女一位である。無茶苦茶だ。
 第二競技の玉入れではセンキシが全ての玉を吸収してカゴに入れたためにうちのクラスのコールド勝ちのようなものになった。というより一応ここ、高校なんだからさもう少し大人になった競技やっても良くない?なんて思うのは俺だけだろうか。
 第三から第五競技では球技。各部活のエースがいるうちのクラスはもはやチートである。
「おいおいあの機械クラス退場者ゼロでドッジボールに勝ったらしいぞ!」
「そりゃあいつがいるからだろ。勝てっこねえ。」
 ドッジボールではそんな声が。
「おいおいあの機械クラススリーポイント何回も決めてるぜ!チートだろ!」
「あのロボ除けば八山だけでも厄介だからな!さすがテクニシャン。」
 バスケットボールではそんな声が。
「おいおいバレーボール見たか?あの機械クラスが正確なスパイクとかしてきたぞ。」
「不正じゃなきゃありゃまじのチートだよ。」
 バレーボールではこんな声が。
 俺達のクラスの噂で山積みである。俺が居なくてもチートなうちのクラスは優秀なメンツで固めたクラスではっきりと言えば研究のためのサンプルでしかないのかもしれない。
 ……でもなんで俺がこのクラスに。

「彼、どうなってますか?」
 校長室に聞き覚えのある声で校長に話をしている男が不気味な見た目でいる。
「凄いですよ、ありゃ化け物。」
「校長先生、自分の生徒に化け物なんて言っちゃいけませんよ。未確認生物だとかお化けとは違うんですから。」
 笑顔でそう語ると彼は校長の目を見て話す。
「やっぱり各アスリートや頭脳面にて最強なクラスを実験という名目で作る以前にそもそも企画自体がとてつもなく面白いですよね。」
「不服なところはありますが、あの貴方が!この組織が!声をかけてくるなんて思いもしませんでしたから。でもなんの才能もない彼をこのクラスに?……まさか今日のことを見通して予知して。」
「いえいえそんな能力…あるわけないじゃないですか。未来予知や預言者とかではないんですから。」
 そう言うと男は飲んでいるコーヒーを机に置く。
「彼があのクラスにいるのはハンデだと思っておいたつもりなんですよ。他二人も込で。」
「強いクラスで出来ない子を三人も?バレたらイジメや差別なんて言われてもおかしくないですよ。サド教授。」
 マスクをつけ、サドはニヤリと笑う。
「バレるって前提だからダメなんですよ、隠すつもりでやらなきゃ……」
 サドは外を見てニヤリと笑う。まるで何かを狙う鷹のように。

 つづく
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