残念受付嬢、異世界にて最強の弓遣い(アーチャー)になってみた。

黒珈|くろこ

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第一章

残念受付嬢、レベル1なのに満面の勇者顔を披露してみた。

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…………………………………………………………

「『伝説の弓遣い(アーチャー)』エリー・ミヤシタ。私たちは、このセカイの真の護り手である貴女を、心より歓迎いたします!」

…………………………………………………………


「私が……伝説のアーチャー?」
 ぱちぱちと大きくまばたきをした瑛里は、自分を指差して言った。
「いやいや、ごく普通の会社員なんですけど」
「自覚はなし、か。なるほどなるほど」
 エリカルは納得したような顔で頷いた。

「……まずは、色々確認したいことがあるわ」
 瑛里は分からないことだらけで内心パニック状態だったが、気を引き締めるとエリカルに向き直った。
「ここは、異世界という認識で良いのかな?」
「キミたちの常識を基準にすると、そうなるね」
 想定内の質問だったのか、エリカルは澱みなく答えていた。

「なるほど、参考までに聞くけれど、現在私たちは何処にいるの?」
「マテリアルワールド東部にあるリェアン王国のルン村。『はじまりの地』とも呼ばれているよ」
 こちらも、スラスラと答えるエリカル。
「生活環境やルールは後回しにするとして、次に大事な質問をするわ」
 瑛里は、親指でグッと自分を指差して尋ねた。
「私は、異世界に転生したの?それとも、元の身体のまま異世界に連れて来られたの?」
 昔からファンタジー小説を読み漁っていた彼女は、お約束として異世界に至った設定条件を確認しておきたかったのだ。

「ふむ、いい質問だね」
 ここで初めて、エリカルの即時回答が止まった。
「うーん、どう言えば分かるかなぁ」
 首を傾げて、最適な答え方を探している。
「簡単に言えば、あちらの肉体をこちらに合うよう、作り変えているのが近いかな」
「うええ」
 一度ドロドロに溶けた身体が、ヒトの形に再生成されるシーンを想像した瑛里は、思わず口元を押さえた。
「そこまでグロくないから大丈夫。物質転換をイメージしてみて」
 苦笑したエリカルは、他にこの場で聞いておきたいことはないか、瑛里に尋ねる。

「この世界は、科学と魔法、どちらが主体なの?」
 瑛里は、質問リストの上位にあった疑問を挙げていった。
「君たちの居るところが『科学の世界』だとしたら、こちらは『剣と魔法のセカイ』になるだろうね」
「わっ、魔法!?」
 特に魔法系のファンタジー小説をこよなく愛している瑛里の表情が、パァッと明るくなる。
「ねえねえ、私も攻撃魔法とか使えるのかな?」
「基本的な適性があれば使えるけれど、魔法を習得するには、たゆまぬ努力が必要だよ」
「なるほど、転生者にあるあるの、初期チート設定は無い、ということね」
 それでも、魔法を習得する機会があることを知った瑛里は、すこぶる機嫌が良い。

 一方のエリカルは、彼女の態度があまり理解出来ていない様子だ。
「よく分からないなぁ、エリーは既に最大級のチート能力を持っているのだから、わざわざ魔法を習得しなくても充分なのに」

「それって、特殊能力である『伝説の弓遣い』を保有しているから、という意味かしら?」
「うん、そうだよ」
 説明が省けて助かる、と言いながら、エリカルは瑛里を指差して言った。
「エリーは弓遣いスキル保有者の中でも、伝説の弓遣いにしか与えられない『心矢』を操る能力があるんだよ」

「シンヤって、あの白銀色の矢のこと?」
「そうそう。心矢は大地のマナと遣い手の身体の中で練り込まれたエネルギーが、一定の条件下で融合することで生成されるものだよ」
「そんな大変な矢を、一般人の私が何故生み出せたのかしら?」
 瑛里の素直な疑問に、エリカルは大きく被りを振って答えた。
「そこは、正直言ってまだ分からない。心矢の保持者であるエリーをようやく発見したところで、詳細はこれから調査することになるよ」
 そう言うと、エリカルはくるりと向きを変えた。
「まだまだ聞きたいことがあると思うけれど、まずは村に入ろう。色々準備しなくてはならないからね」
「そうね……あ、もう1つだけ良い?」
「なに?」
 瑛里はエリカルを指差した。
「こっちのセカイに来て、エリカルの口調が変わった。もう『なんとかカル』は止めたの?」

 彼女の指摘に、エリカルは「あ」という顔をした。
「な、何のことかわからないカルね」
「ふーん、あなたの正体も早めに聞かせて貰いたいわね」
 とぼけるエリカルをジト目で睨みながら、瑛里はルン村の門を潜った。

…………………………………………………………

「まずは、衣服と装備から整えるカル」
 そう言われて、瑛里は改めて自分の格好を確認した。
 週末コーデのオフィスカジュアルにヘビロテ気味のハンドバッグ、ハイブランドのローヒールという、完全にこのセカイから浮いたスタイルであった。
 事実、道を通っていくヒト族や亜人種達が、ジロジロとこちらを見ている。

 エリカルが、進行方向右手を指差して言った。
「あそこに衣装屋と防具屋があるから、店主にこの国らしい装いを見繕ってもらうカル」
 石組みの平屋が2棟続いている建物に向かって、トコトコと歩いていく。
 その時、何かを考えていた瑛里が呼び止めた。
「あ、待って。ここの通貨って日本円じゃないよね?だったら私は一文無しかと」
「エリー、異世界にメチャクチャ慣れてるカルね……」
 ファンタジー小説沼にハマっていた過去の自分に感謝しながら、瑛里はエリカルに手を差し出した。

「とりあえず、まとまったお金を稼げるまで、お金を貸して貰えないかな?」
「んにゃ、その必要はないカル」
 エリカルはニヤリと笑って、瑛里が肩から下げているハンドバッグを指差した。

「え、何?」
「エリーの財布を開けてみるカル」
「財布って、この中には日本のお金しか……」
 訝しみながら長財布を取り出した瑛里は、中身を見て暫く固まった。
 そこには、これまで見たことのない紙札と硬貨が詰まっていたのだ。

「マテリアルワールドに召喚された際に、お金も物質転換されたみたいカルね。レートはお互いの生活環境レベルから試算されているカル」
「うーん、とんでもない展開ね……」
 げんなりした瑛里は、長財布をパチンと閉じて店舗を見た。
「まあいいわ。では改めて、コスチュームチェンジをして参りますか」

…………………………………………………………

「うんうん、似合ってるカルよ」
「そうかなぁ、極力動きやすい服装にしたけれど」
 瑛里が選んだのは、太極拳や功夫の演武者が着ている唐装に近い、シャツとパンツの組み合わせだった。
 落ち着いた濃紺の生地を選んだので、周囲にも違和感無く溶け込んでいる。



「これに、なめし革のプロテクターを付けてと……よし」
 全てのベルトを装着した瑛里は、パンパンと手を叩いた。
「お待たせ、次はどうしたら良いかな?」
 椅子に座って、大福のような甘物をもぎゅもぎゅ食べていたエリカルは、ナプキンで口を拭くと立ち上がった。
「次はギルドに立ち寄って、エリーの身分証を作るカル。その後マジックショップに行くカル」
「おーっ、魔法!楽しみぃ」
 軽くスキップをした瑛里は、店主に手を振りながら衣装屋を後にした。

…………………………………………………………

 そして、数十分後。

「……くっ……」
 つい先ほどまでのハイテンションはどこへやら、ギルドを出て来た瑛里は、ガックリと肩を落とした。
「な、なんで私が『レベル1』なのぉ?!」

 彼女が手にしているギルドカードには『弓遣い(アーチャー)Lv.001』と記されている。
「マテリアルワールドにおける実践経験に基づいたレベル設定だから、仕方ないカル」
 黒いプチプチした寒天状のゼリーが入ったドリンクを、ストローでズズズっと飲んでいたエリカルは、何を当然のこと聴いてるんだ、と言った口調で返事をした。

「だって私、心矢であのデカい男を倒したんだよ。加点されていてもおかしくないよね?」
「あっちのセカイで起こったことは、全てノーカウントカルよ」
「うう、理不尽だ……」
「さ、気持ちを切り替えて『マジックショップ』に行くカル」
 ダストボックスにカップを投入したエリカルは、瑛里の背中を押した。
「そ、そうね。これから魔法を学べるのだから、落ち込んでばかりいられないわ」
「そうそう、レベル1なのに『勇者顔』をして歩いていたエリーのことは、スッパリと忘れるカル」
「くっ……(恥)」
 顔を真っ赤にした瑛里は、エリカルの身体をポカポカ叩いた。

…………………………………………………………

 マジックショップは、ルン村の中心部から少し離れた、小高い丘の上にあった。
 広大な薬草畑を横切って、薔薇をモチーフにした青銅の門扉を開ける。

「いらっしゃい……ん?」
 瑛里達が店内に入ると、カウンターの奥で手の平サイズの白板に、指で何かを書き付けていた男がこちらを見た。
 30代後半くらいだろうか、口髭と顎髭がバランスよく似合っている、色黒の優男だ。



「やあ、バードさん、お邪魔するカル」
 エリカルは、軽く手を上げながらバードと呼んだ男に近付いていく。
 男はエリカルを見て、少し驚いたように言葉を発した。
「あれ、スイモンさまじゃないか。確か遠征に出るって言ってなかったっけ?」
「思ったより早く目的を果たしたので、さっきこちらに戻ってきたカル」
「そっか。ではその妙な口調も異国かぶれなのかい?」
「そうカル、暫くこの話し方で行くカルね」

(んん?『スイモンさま』って何?)
 瑛里は、自分を異世界に引き込んだこの元ぬいぐるみが、どのような立場にいるのか、ちゃんとした正体を見極めていなかったことに気が付いた。

 と、ここでバードが、エリカルの後ろに立っていた彼女に気が付いた。
「で、スイモンさまの後ろにいる人族(ヒューマン)の女性は誰なんだい?」
「あ、彼女はエリー。ボクが探していた『弓遣い(アーチャー)』カルよ」
「は、初めまして、都下瑛里と申します」
 いつものクセでバッグから名刺入れを取り出そうとしている瑛里を見て、バードは眉をひそめる。
「ほう、なかなかの美人さんじゃないか。もっとも、ウチのワイフには敵わないけれどね」
「相変わらず、ラブラブカルね」
「あの、バードさん」
 和やかな雰囲気の中、瑛里が本題に入った。

「私に、魔法を教えてください!」
 顔の前に、先ほど交付されたばかりのギルドカードを翳しながら、話を続ける。
「ご覧の通り、まだ駆け出しの身ですが、少しでも多くの技を身に付けたいのです」
 壁に貼り付けられた、マジック教室のメニュー表を指差す。
「まずは、初心者コースからでしょうか?空きがあれば、すぐにでもお願いしたいです」

「うーん、なかなかの爆速お嬢さんだねぇ」
 呆気に取られていたバードは、やや苦笑気味に言葉を返した。
「残念ながら、返事はノーだ」
「えっ、どうして?」
 あっさり断られた瑛里は、驚いて理由を尋ねた。
「あいにく、弓遣いの魔術スキルアップは専門外でね。一般的な魔法使い(メイジ)と違って、弓遣い用のオウンスキルを習得するには、独自の手法が必要なんだよ」
「そうですか……」
 肩を落として、シュンとする瑛里。

「エリーさん、まだ話は終わっていないぞ」
 そんな彼女を見て、バードはニヤリと笑って言った。
「その独自の方法を知っているヤツに、心当たりがあるってことだ」
「……ホントですかっ!?」
 瑛里の顔に、希望の光が差し込んだ。
「さっき話したウチのワイフは、ハーフエルフでね。弓遣いのコーチングスキルも有しているんだよ」
「はい、ぜひお願いしたいです!」

 喜んでいる瑛里を横目に見ながら、エリカルはため息を吐いた。
「バードさんもヒトが悪いカル。最初からサッチーを紹介する気満々だったカルよね」
 エリカルに指摘されたバードは、ニヤリと笑った。
「魔導書カフェの収入だけでは、少々心許なくてね。副業として、私は魔導書の爆速出版、ワイフは魔道具(マジックアイテム)効果付きのアクセサリー販売と、この裏メニューってワケだ」
「さすが、『すごい魔導書作家』の名は伊達じゃなかったカルね」

 バードとエリカルが後ろで盛り上がっている中、瑛里はグッと拳を握り締めた。

「よぉし、頑張って異世界魔法を極めるぞォ!」



つづく
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