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【第4話】応援フロランタンと祝福ケーキ
【4-12】
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「そ、そんなこと、出来るはずないじゃありませんの……!」
「どうして? 魔王と戦って勝つよりは簡単だと思うんだけどなぁ」
「かっ、簡単とか難しいとか、そういう問題ではなくってよ! そんなことを言ったら、お父様とお母様から『ワガママを言ってはいけません』って叱られてしまいますわ!」
「そうかなぁ……、でも、そもそも先にワガママを言ったのはお父さんとお母さんなんじゃない? だって、アリスちゃんは毎年、誕生日当日は一日中お祝いをしてもらうのが当たり前だったんでしょ? それをいきなり『我慢しなさい!』ってめちゃくちゃなことを言ってきたのは向こうじゃないか」
「めちゃくちゃなことを言っているのは、あなたですわ!」
すっかり泣き止んだ少女は、混乱と興奮をごちゃ混ぜにした表情と口調で歯向かってくる。うんうん、元気が出てきたようで何よりだ。煽ってみた甲斐がある。
鼻息荒く睨み上げてくるお嬢様の頭を撫でながら、僕はひとつの提案をした。
「じゃあ、交渉してみよう」
「……交渉?」
「うん。さっき、アリスちゃんはこう言ってたね。せめて、昼間はアリスちゃんとお友達が誕生日のお祝いをして、夜は家族みんなでアデルちゃんのお見送りをするならいいのに、って。それはご両親に言ってみたのかな?」
「……言ってないですわ」
「そっか。ちなみに、アデルちゃんは、自分のために一日中お見送りの宴を開いてもらわないと満足できない子かな?」
「アデルは、そんな子ではありませんわ!」
さっきまで大泣きしていたのが嘘のように、アリスちゃんの表情が一気に引き締まり、一瞬にして姉の顔になる。
「とても賢くて、上級魔法もたくさん使えて、でもそれで偉そうにしたりもしませんし、わたくしのことも気遣ってくれますし、お顔も物凄く可愛いのです! アデルは、とっても優しい良い子ですわ!」
いくら姉だからといっても可愛がれない妹のためにアリスちゃんが我慢し続けるはずないんじゃないかな……と、うっすら予想した通り、アデルちゃんは優しい子みたいだ。おそらく温かい家庭なのだろうし、家族みんなでアリスちゃんだけを除け者にしようとしているわけでもないだろう。ただ、たぶん、お互いに言葉が足りていないんだ。
「じゃあ、きっと、アデルちゃんも夜にお別れ会をしてもらえたら、それで喜んでくれるはずだよね。アデルちゃんもアリスちゃんも納得するのなら、ご両親だって、一日を半分ずつ使ってお祝いとお別れ会をしてくれるんじゃないかな」
「……それは、どうかしら。だって、お父様とお母様は、アデルを一日中お祝いしてあげたいみたいですもの」
「うーん……、その気持ちもあるだろうけど、たぶんね、ご両親は、アリスちゃんのことも一日かけてお祝いしてあげたいと思っているんじゃないかな。だから、日にちをずらして、たくさんお祝いしようって言いたかったんだと思うよ」
「……えっ?」
僕の言葉が予想外だったのか、お嬢様は大きな瞳をパチパチと何度も瞬きさせて、あどけない表情を向けてきた。子どもらしい無垢な顔が微笑ましい。
「誕生日には、朝から晩までお祝いするのが普通なんでしょ? だから、どっちか半分だけじゃなくて、一日まるごとお祝いしてあげたい気持ちがあるんじゃないかな。でも、アデルちゃんが参加する大会の日はずらせないし、応援してあげるなら前日にするのが一番盛り上がるから。だから、申し訳ないけど今年はアデルちゃんのために第五星図期の二十日目を使って、その代わり別の日にちゃんとお祝いをしようって、ご両親はそう言いたかった気がするよ。お姉ちゃんなんだから我慢できるでしょ、は余計な言葉だと思うし、そもそもアリスちゃんの誕生日をうっかり忘れているのもどうかなーって思うけどね。でも、お父さんとお母さんも人間だから。大人でも、色々と間違えちゃうことはあるからね」
「……そう、なのかしら」
「あくまでも、僕の個人的な考えだけど。僕も勿論、色々と間違えちゃうから」
そう言い添えたけれど、アリスちゃんから反論は飛び出してこなかった。冷静に考えてみると、両親から大事にしてもらえている部分も思い当たるのかもしれない。
「ご両親に言葉が足りなかったり、余計な一言が付け足されたりしているように、アリスちゃんも伝えなきゃいけないことをきちんと伝えられてないんじゃないかな」
「伝えなきゃいけないこと?」
「そう。妹のために半日使ってもいいけど、もう半日でちゃんと誕生日をお祝いしてほしいっていう素直な気持ち。あと、誕生日当日にお友達を招待しないと意地悪されるかもしれないってことも。それを、きちんと伝えてごらん? 魔王と戦ってケガをしなくたって、それで十分、アリスちゃんは大事にしてもらえるはずだよ」
こくり、とアリスちゃんは頷く。ほんのり赤く染まっている頬が、彼女の気持ちが上向きになってきている証のようだ。
それでも、澄んだ紫の瞳はまだ不安げに揺れている。お嬢様を励ますために、僕はもう一押ししてみることにした。
「アリスちゃん。元気になるように、特別なお菓子をあげる」
フロランタンがいくつか入っている紙の包みを小さな手のひらに乗せると、アリスちゃんは可愛らしい仕草で小首を傾げた。
「どうして? 魔王と戦って勝つよりは簡単だと思うんだけどなぁ」
「かっ、簡単とか難しいとか、そういう問題ではなくってよ! そんなことを言ったら、お父様とお母様から『ワガママを言ってはいけません』って叱られてしまいますわ!」
「そうかなぁ……、でも、そもそも先にワガママを言ったのはお父さんとお母さんなんじゃない? だって、アリスちゃんは毎年、誕生日当日は一日中お祝いをしてもらうのが当たり前だったんでしょ? それをいきなり『我慢しなさい!』ってめちゃくちゃなことを言ってきたのは向こうじゃないか」
「めちゃくちゃなことを言っているのは、あなたですわ!」
すっかり泣き止んだ少女は、混乱と興奮をごちゃ混ぜにした表情と口調で歯向かってくる。うんうん、元気が出てきたようで何よりだ。煽ってみた甲斐がある。
鼻息荒く睨み上げてくるお嬢様の頭を撫でながら、僕はひとつの提案をした。
「じゃあ、交渉してみよう」
「……交渉?」
「うん。さっき、アリスちゃんはこう言ってたね。せめて、昼間はアリスちゃんとお友達が誕生日のお祝いをして、夜は家族みんなでアデルちゃんのお見送りをするならいいのに、って。それはご両親に言ってみたのかな?」
「……言ってないですわ」
「そっか。ちなみに、アデルちゃんは、自分のために一日中お見送りの宴を開いてもらわないと満足できない子かな?」
「アデルは、そんな子ではありませんわ!」
さっきまで大泣きしていたのが嘘のように、アリスちゃんの表情が一気に引き締まり、一瞬にして姉の顔になる。
「とても賢くて、上級魔法もたくさん使えて、でもそれで偉そうにしたりもしませんし、わたくしのことも気遣ってくれますし、お顔も物凄く可愛いのです! アデルは、とっても優しい良い子ですわ!」
いくら姉だからといっても可愛がれない妹のためにアリスちゃんが我慢し続けるはずないんじゃないかな……と、うっすら予想した通り、アデルちゃんは優しい子みたいだ。おそらく温かい家庭なのだろうし、家族みんなでアリスちゃんだけを除け者にしようとしているわけでもないだろう。ただ、たぶん、お互いに言葉が足りていないんだ。
「じゃあ、きっと、アデルちゃんも夜にお別れ会をしてもらえたら、それで喜んでくれるはずだよね。アデルちゃんもアリスちゃんも納得するのなら、ご両親だって、一日を半分ずつ使ってお祝いとお別れ会をしてくれるんじゃないかな」
「……それは、どうかしら。だって、お父様とお母様は、アデルを一日中お祝いしてあげたいみたいですもの」
「うーん……、その気持ちもあるだろうけど、たぶんね、ご両親は、アリスちゃんのことも一日かけてお祝いしてあげたいと思っているんじゃないかな。だから、日にちをずらして、たくさんお祝いしようって言いたかったんだと思うよ」
「……えっ?」
僕の言葉が予想外だったのか、お嬢様は大きな瞳をパチパチと何度も瞬きさせて、あどけない表情を向けてきた。子どもらしい無垢な顔が微笑ましい。
「誕生日には、朝から晩までお祝いするのが普通なんでしょ? だから、どっちか半分だけじゃなくて、一日まるごとお祝いしてあげたい気持ちがあるんじゃないかな。でも、アデルちゃんが参加する大会の日はずらせないし、応援してあげるなら前日にするのが一番盛り上がるから。だから、申し訳ないけど今年はアデルちゃんのために第五星図期の二十日目を使って、その代わり別の日にちゃんとお祝いをしようって、ご両親はそう言いたかった気がするよ。お姉ちゃんなんだから我慢できるでしょ、は余計な言葉だと思うし、そもそもアリスちゃんの誕生日をうっかり忘れているのもどうかなーって思うけどね。でも、お父さんとお母さんも人間だから。大人でも、色々と間違えちゃうことはあるからね」
「……そう、なのかしら」
「あくまでも、僕の個人的な考えだけど。僕も勿論、色々と間違えちゃうから」
そう言い添えたけれど、アリスちゃんから反論は飛び出してこなかった。冷静に考えてみると、両親から大事にしてもらえている部分も思い当たるのかもしれない。
「ご両親に言葉が足りなかったり、余計な一言が付け足されたりしているように、アリスちゃんも伝えなきゃいけないことをきちんと伝えられてないんじゃないかな」
「伝えなきゃいけないこと?」
「そう。妹のために半日使ってもいいけど、もう半日でちゃんと誕生日をお祝いしてほしいっていう素直な気持ち。あと、誕生日当日にお友達を招待しないと意地悪されるかもしれないってことも。それを、きちんと伝えてごらん? 魔王と戦ってケガをしなくたって、それで十分、アリスちゃんは大事にしてもらえるはずだよ」
こくり、とアリスちゃんは頷く。ほんのり赤く染まっている頬が、彼女の気持ちが上向きになってきている証のようだ。
それでも、澄んだ紫の瞳はまだ不安げに揺れている。お嬢様を励ますために、僕はもう一押ししてみることにした。
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