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【第8話】優しさが溶け込むフルーツフラッペ
【8-15】
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だいぶ安らかな呼吸を繰り返すようになったミカを見守りながら、カマルティユは傍の椅子に脚を組んで座り、書物に目を通していた。それは魔の者の掟について書かれているもので、普段は意識していないような細かい事項も書き連ねられている。
カマルティユは、ジルベールに対しても、そしてミカ自身に対しても、「ミカの命を守る」と約束しているのだ。魔の者は、決して約束を違えない。カマルティユ自身、ミカを守りたい。可能であればジルベールも守りたいが、魔の者の掟に従っている限り、それが赦される道は無い。ジルベールの望みに従って彼が暴走化した際に殺したとしても、魔王の「器」に手を掛けた罪を問われてしまうだろう。
カマルティユは、「父」からどんな罰を下されようと甘んじて受け入れる覚悟が出来ている。ただ、それによって、現在に至るまでディデーレに影響を与え続けている大魔王のように、人間を苦しめる存在になることは、出来れば避けたい。
人間を想ってのものではない。ミカやジルベールが大切に思っているものを、彼らが生きていた世界を、傷つけたくないだけだ。大事な人たちが大切にしているものは、自分も大切にしたい。それがカマルティユの素直な気持ちだった。
自分が他者を傷つける存在にならずミカの命を救う手段は無いだろうかと、掟の抜け道を探して考え込んでいるカマルティユの耳が、病人が身じろぎする音を拾う。寝苦しいのかと心配になった悪魔は本を閉じて近くの台に置き、ミカの顔を覗き込んだ。
ミカはうっすらと瞳を開き、ぼんやりとした視線を彷徨わせている。どこか不安気で、虚ろで、淋しそうな、孤独な瞳。この世界へ召喚したばかりの頃のミカと、全く同じ眼差しだ。
「ミカさん? 大丈夫ですか……?」
カマルティユがそっと声を掛けると、薄茶色の瞳が悪魔のほうを向き、安堵の色を浮かべる。
「カミュ……」
「ミカさん、具合はどうですか? まだお辛いでしょう。ゆっくり休んでくださいね」
「ありがとう……、ずっと、傍にいてくれたの……?」
「はい。私とジル様が交互にお傍におりました。クックとポッポも、ずっと一緒です。今は、キカさんもいらしているのですよ。ジル様とキカさんは今、調理場に行っておられますが、そのうち戻ってこられるでしょう」
「カミュも、ジルも、……クックとポッポも、キカさんまで……、みんな、いてくれたんだね」
ほっとしたように言ったミカは、何度か連続して咳き込んだ。カマルティユは膝をつき、慌ててミカの顔を覗き込み、細い背をさする。
「大丈夫ですか、ミカさん。無理に話されなくて大丈夫ですから。水を飲みますか?」
「う、うん……」
小さく頷くミカが上半身を起こすのを手助けしたカマルティユは、枕を集めて作った背もたれへ病人を寄り掛からせた。そして、手近な水差しの水をコップに注ぎ、ミカへと飲ませる。数口飲み下したミカは、ほぅと息をついた。
「ありがとう、カミュ」
「いいえ、とんでもない。……うーん、私の感覚ではよく分からないのですが、熱は少しか下がったのでしょうか」
「うん、たぶん。……寒気もだいぶ収まったし、少し楽になった気がする。……あ、氷枕だ」
頭の下に置かれていた氷水入りの袋を撫で、ミカは懐かしそうに目を細める。どうやらチキュウにも似たような物があったのだろうなと察したカマルティユは、微笑ましく思うと同時に、普通に会話を成立させられているミカを見て安堵した。
意識が混濁して言葉も出てこないような状態のときには危機感ばかりが湧き上がっていたが、ミカはおそらく一番危険な場面を切り抜け、ここからは順調に回復していくだろうと感じられる。クックとポッポも安心したのか、甘えた声を出しながらミカに擦り寄り、撫でてもらっていた。
「僕ね、風邪をひいて酷い熱を出して寝ているとき、いつも寂しい夢を見るんだ。そして、目が覚めたときも、やっぱりひとりぼっちで」
静かに、ミカは語り始める。話して大丈夫なのかとハラハラしつつも、カマルティユは優しく耳を傾けた。自分のことを積極的に話そうとはしないミカが、こうして自ら語ろうとする時間は貴重だ。一言一句聞き洩らさず、大切にしたかった。
「でも、今日……、悲しい夢から目が覚めて、カミュがすぐに名前を呼んでくれたでしょ? クックとポッポの羽の感触もあって……、すごく安心したし、嬉しかったんだ。ひとりぼっちじゃないんだ、って」
「ミカさん……。ええ、そうですよ。貴方は独りじゃありません。私も含めて、皆、貴方のことが大好きです。傍におります」
「うん、……ありがとう」
ミカは嬉しそうに、そして、幸せそうに、はにかんだ。以前のミカならば、謙遜したり、どこか寂しそうな微笑で黙り込んだりしただろう。共に暮らす者たちの好意を素直に受け止められるようになったのは、ミカが成長した部分のひとつだ。
胸が温かくなるのを感じたカマルティユは、ふと、この部屋を目指して来ている二つの足音に気付く。そして、柔らかく微笑んだ。
「ミカさん。ジル様とキカさんが、そろそろ戻って来られるようですよ」
「ほんと? ……あっ、でも、キカさんに風邪をうつしちゃうんじゃ……」
「ご本人曰く、そんなの全然平気! だそうですよ」
カマルティユがおどけた調子で片目を瞑ったところで、扉がノックされる音が響いた。
だいぶ安らかな呼吸を繰り返すようになったミカを見守りながら、カマルティユは傍の椅子に脚を組んで座り、書物に目を通していた。それは魔の者の掟について書かれているもので、普段は意識していないような細かい事項も書き連ねられている。
カマルティユは、ジルベールに対しても、そしてミカ自身に対しても、「ミカの命を守る」と約束しているのだ。魔の者は、決して約束を違えない。カマルティユ自身、ミカを守りたい。可能であればジルベールも守りたいが、魔の者の掟に従っている限り、それが赦される道は無い。ジルベールの望みに従って彼が暴走化した際に殺したとしても、魔王の「器」に手を掛けた罪を問われてしまうだろう。
カマルティユは、「父」からどんな罰を下されようと甘んじて受け入れる覚悟が出来ている。ただ、それによって、現在に至るまでディデーレに影響を与え続けている大魔王のように、人間を苦しめる存在になることは、出来れば避けたい。
人間を想ってのものではない。ミカやジルベールが大切に思っているものを、彼らが生きていた世界を、傷つけたくないだけだ。大事な人たちが大切にしているものは、自分も大切にしたい。それがカマルティユの素直な気持ちだった。
自分が他者を傷つける存在にならずミカの命を救う手段は無いだろうかと、掟の抜け道を探して考え込んでいるカマルティユの耳が、病人が身じろぎする音を拾う。寝苦しいのかと心配になった悪魔は本を閉じて近くの台に置き、ミカの顔を覗き込んだ。
ミカはうっすらと瞳を開き、ぼんやりとした視線を彷徨わせている。どこか不安気で、虚ろで、淋しそうな、孤独な瞳。この世界へ召喚したばかりの頃のミカと、全く同じ眼差しだ。
「ミカさん? 大丈夫ですか……?」
カマルティユがそっと声を掛けると、薄茶色の瞳が悪魔のほうを向き、安堵の色を浮かべる。
「カミュ……」
「ミカさん、具合はどうですか? まだお辛いでしょう。ゆっくり休んでくださいね」
「ありがとう……、ずっと、傍にいてくれたの……?」
「はい。私とジル様が交互にお傍におりました。クックとポッポも、ずっと一緒です。今は、キカさんもいらしているのですよ。ジル様とキカさんは今、調理場に行っておられますが、そのうち戻ってこられるでしょう」
「カミュも、ジルも、……クックとポッポも、キカさんまで……、みんな、いてくれたんだね」
ほっとしたように言ったミカは、何度か連続して咳き込んだ。カマルティユは膝をつき、慌ててミカの顔を覗き込み、細い背をさする。
「大丈夫ですか、ミカさん。無理に話されなくて大丈夫ですから。水を飲みますか?」
「う、うん……」
小さく頷くミカが上半身を起こすのを手助けしたカマルティユは、枕を集めて作った背もたれへ病人を寄り掛からせた。そして、手近な水差しの水をコップに注ぎ、ミカへと飲ませる。数口飲み下したミカは、ほぅと息をついた。
「ありがとう、カミュ」
「いいえ、とんでもない。……うーん、私の感覚ではよく分からないのですが、熱は少しか下がったのでしょうか」
「うん、たぶん。……寒気もだいぶ収まったし、少し楽になった気がする。……あ、氷枕だ」
頭の下に置かれていた氷水入りの袋を撫で、ミカは懐かしそうに目を細める。どうやらチキュウにも似たような物があったのだろうなと察したカマルティユは、微笑ましく思うと同時に、普通に会話を成立させられているミカを見て安堵した。
意識が混濁して言葉も出てこないような状態のときには危機感ばかりが湧き上がっていたが、ミカはおそらく一番危険な場面を切り抜け、ここからは順調に回復していくだろうと感じられる。クックとポッポも安心したのか、甘えた声を出しながらミカに擦り寄り、撫でてもらっていた。
「僕ね、風邪をひいて酷い熱を出して寝ているとき、いつも寂しい夢を見るんだ。そして、目が覚めたときも、やっぱりひとりぼっちで」
静かに、ミカは語り始める。話して大丈夫なのかとハラハラしつつも、カマルティユは優しく耳を傾けた。自分のことを積極的に話そうとはしないミカが、こうして自ら語ろうとする時間は貴重だ。一言一句聞き洩らさず、大切にしたかった。
「でも、今日……、悲しい夢から目が覚めて、カミュがすぐに名前を呼んでくれたでしょ? クックとポッポの羽の感触もあって……、すごく安心したし、嬉しかったんだ。ひとりぼっちじゃないんだ、って」
「ミカさん……。ええ、そうですよ。貴方は独りじゃありません。私も含めて、皆、貴方のことが大好きです。傍におります」
「うん、……ありがとう」
ミカは嬉しそうに、そして、幸せそうに、はにかんだ。以前のミカならば、謙遜したり、どこか寂しそうな微笑で黙り込んだりしただろう。共に暮らす者たちの好意を素直に受け止められるようになったのは、ミカが成長した部分のひとつだ。
胸が温かくなるのを感じたカマルティユは、ふと、この部屋を目指して来ている二つの足音に気付く。そして、柔らかく微笑んだ。
「ミカさん。ジル様とキカさんが、そろそろ戻って来られるようですよ」
「ほんと? ……あっ、でも、キカさんに風邪をうつしちゃうんじゃ……」
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