夜霧の騎士と聖なる銀月

羽鳥くらら

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第2章

【2-124】近くて遠い

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 ◆◆◆


 ──翌日、ウィスタリア王城、大広間前にて。
 複雑な面持ちのリアムを見上げ、キリエは苦笑していた。

「リアム、大丈夫ですよ。ここはお城の中ですし、大広間は広いので集会の席から扉までの距離はありますけど、控室は一応隣にありますし、離れてるというほどではないのですから」

 宰相と名誉称号騎士たちの緊急集会は大広間で開催されるとのことで、その傍にある控室でキリエは待機することになっている。名誉称号持ちではないものの優秀な王国騎士たちが護衛としてついてくれるらしく、リアムが渋い顔をしなければならないほど問題のある状況では無いはずだ。

「しかし、キリエ様。王城は人の行き来が多いため、隣とはいえ少々離れている控室の気配はほぼ探れません」
「いえ、普通はどんな環境であっても隣室の気配を探るのは難しいんじゃないかと……。複数の騎士が付いてくださるとのことですし、そんなに心配しないでください」
「そう仰られましても……」

 どうしても引っ掛かりをおぼえてしまうらしいリアムと、彼の心配が理解できないわけではないが安心して会議に臨んでほしいキリエ。平行線状態の二人の元へ、ふたつの足音が近づいてきた。

「やぁ、こんにちは」
「ごきげんよう、キリエ様」
「ジェイデン! マックスも! こんにちは。昨日はお疲れ様でした」

 にこやかに登場したジェイデンとマクシミリアンに対し、キリエも明るい声音で挨拶を返す。リアムは「ごきげんよう」とジェイデンへ頭を下げた。

「キリエもお疲れ様だったのだよ。──今日、君がリアムに連れられて登城すると耳にしたから、僕も付き添おうと思って来たんだ。いつもなら、マックスだけを送り出して僕は屋敷でのんびりと静かに過ごすんだが」
「嗚呼、ジェイデン様! 貴方はどうしていつも私につれなくされるのですか! それに対し、キリエ様はいつでも私を深く深く受け止めてくださる銀の天使でございますね。嗚呼、疲労が拭いきれないお顔がおいたわしくも魅力的で、」
「あ、あの……」
「キリエ。マックスは無視して構わない。──とにかく、僕もキリエと一緒に集会が終わるのを待とう。それならリアムも少しは安心してくれるんじゃないか? ちなみに、今のところ本日はライアンが城に来る予定は無いそうだ。もしも現れた場合には、すぐに伝令兵を寄越してほしいと入口警備の者に話してある」

 ごく当然のことのようにサラリと言ってのけるジェイデンを見つめ、リアムは感嘆の吐息を零す。そして、小声で伺いを立てた。

「そこまで先手を打たれたのですか? ──しかし、不審がられたのでは?」
「いいや? 昨日の討論会で派手にやりあったから彼の顔は見たくない、と言ったら納得されたのだよ。生真面目で優しいキリエが言えば不自然だろうが、昔からやりたい放題だった僕が言えば普通のことになる」
「嗚呼……、それが普通というのもいかがなものかと」

 嘆きの声を上げるマクシミリアンを無視して、ジェイデンはキリエの肩を抱いた。任せておけと言わんばかりのジェイデンへ、リアムは深々と頭を下げるのだった。


 ◇


 内外どちらにも王国騎士が五人ずつ配置されている控室で、キリエとジェイデンは誰に聞かれても差し支えないような他愛ない会話を交わしつつ、茶菓子を楽しんでいた。

「キリエはショコラが好きなのか? 君は少食だし、茶話のときにもあまり菓子へ手を伸ばさないが、ショコラ系統のものには遠慮がちとはいえ口をつけているような気がする」

 興味深そうに言うジェイデンへ、はにかんだ微笑を向けながら、キリエは照れくさそうに答える。

「僕は甘いお菓子に縁が無い人生を送ってきたので、豪華なおやつを前にすると委縮してしまいがちなのですが、ショコラの誘惑には勝てないときが結構ありまして……、お恥ずかしいです」
「恥ずかしくなんかない。今まで口にできなかった分も合わせて、たくさん楽しむといいのだよ。君がささやかな幸せを噛みしめることを咎めるだなんて無粋なこと、神だってしないだろうさ」
「はい。……ありがとうございます、ジェイデン」

 リアムが過保護なのは前々から分かっていたが、実はジェイデンも負けないくらいキリエに甘いのではないかと最近になってよく思うようになった。
 同じ年であるし、キリエのほうが先に生まれているはずなのだが、ジェイデンを兄のように感じてしまうときもある。以前、ジャスミンがライアンを兄のようだと言っていた感覚が、分かるような気がした。

 そんなことを考えながら、キリエがティーカップを手にしたとき、控室のドアがノックされ、「お茶のお代わりをお持ちしました」という女の声が聞こえてくる。入口の側に立っていた騎士がすぐに扉を開けようとした瞬間、ハッと何かに気づいたらしいジェイデンが鋭い声を上げた。

「駄目だ、開けるな!」
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