夜霧の騎士と聖なる銀月

羽鳥くらら

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第2章

【2-126】裏で手を引く人物

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 ◇


 名誉称号持ちの騎士たちがそれぞれ速やかに小隊を組み、まずは王都内の各方向へ散ってキリエとジェイデンの捜索を行うことになった。
 しかし、リアムとマクシミリアンは、王城でコンラッドと共に待機していることを命じられている。王子たちの情報を得た際すぐ動けるように王都の中心にある王城に留まってもらう、というコンラッドの意向に異を唱えるつもりはないが、動かずにジッとしていられるような気分ではない。

 とはいえ、少し時間を置いたことで、リアムはだいぶ落ち着きを取り戻してきている。御者として共に登城していたエドワードを一度馬車で帰し、愛馬のアーサーを連れてきてもらった。いざというとき、馬車ではなく単身騎馬のほうが迅速に動けるからだ。マクシミリアンも、同じように愛馬を連れてきてもらったらしい。

 キリエたちがいたはずの控室で待機しながら、リアムは可能な範囲で準備を進め、様々な考えを巡らせる。
 そんな親友の様子を見守りつつ、マクシミリアンは静かに声をかけた。

「落ち着いたかい?」
「ああ。……取り乱してすまなかった。お前だって、ジェイデン様のことが心配で堪らないだろうに」
「まぁね。……でも、きっと大丈夫だ。ジェイデン様は、そう易々と命を落とすような御方ではないからね。キリエ様が御一緒なら尚更、気を張ってどうにかなさろうとするはずだ」
「そうであることを祈ろう。──ただ、気がかりなのは、おそらく裏で手を引いているのはライアン様だということだ」

 今、閉ざされた控室の中にはリアムとマクシミリアンしかいない。誰かの耳に入る恐れもないので、リアムは率直な考えをそのまま口にした。マクシミリアンも真顔で頷く。

「ジェイデン様とキリエ様を連れ去った何者かは、王子たちを傷つけるつもりはなさそうだ。護衛についていた騎士たちも、気を失っているだけで無傷だしね。──ただ、誘拐犯に指示を出していた黒幕がライアン様だった場合、御二人の命は危ないかもしれない」
「そう、それが引っ掛かる。ここの護衛役だった騎士たちは皆それなりに優秀だし、宰相閣下から直々にくれぐれも警戒を怠らないようにしてくれと言われていたはずだ。そんな彼らが警戒心を緩め、尚且つ此処へ来るのが不自然ではない者となると、茶菓子を運ぶメイドしかいない。──月夜の人形会の頭領の女。あいつなら、適任だろうな」
「相変わらず、君はすごいね。そこまで考えているだなんて。……やはり、ライアン様と月夜の人形会は繋がっていたんだろうか」

 マクシミリアンが小さく呟いた疑問へ、リアムは重々しく頷いて答えた。

「おそらくはそうだろう。ジェイデン様も、同じように御推察されていたはずだ。だから、今日もキリエ様の傍に付いていてくださった。裏事情を察している人間が誰か一人でも同席したほうが警戒を高められるとお考えになられたのだろう。──その結果、巻き込まれる形になってしまって、心苦しいばかりだが……」
「それはジェイデン様も御覚悟の上だよ。一応、護身用にナイフをお持ちいただいてはいるんだが、あまり効力は無かっただろうね」
「ジェイデン様は頭脳派だからな。致し方ないだろう」
「運動神経は良いと思うんだけど、武術向きではないというか。──とにかく、御無事であることを祈るばかりだ。どこにいらっしゃるのかが分かれば、すぐにでも駆けつけたい」

 静かに闘志を漲らせながら、マクシミリアンは両腰に下げている剣の鞘を撫でる。彼は任務によっては長剣を使用することもあるが、本来は双剣使いだ。双剣を使っているときのマクシミリアンの動きは、リアムでも次の一手が予想できないほど独特である。剣の振り方自体は型通りなのだが、一手一手が的確で威力が高く、それを繋ぐ動作の緩急に独自の癖があるのだ。その癖には規則性が少なく、非常に読みづらい。

 リアムとマクシミリアンが組んで乗り込めば、敵が大集団であろうとも大体の相手には余裕で勝てるだろう。問題は、王子たちが捕らわれている場所が全くの不明であることと、救出に向かうまで生きていてくれるかどうかだ。

 もう何度目になるか分からない溜息を吐き出し、窓辺へ歩み寄ったリアムは夕闇が迫る空を見つめた。夜になるまでに何らかの情報を掴みたかったが、どうやら難しそうだ。
 リアムは、いつも懐に忍ばせて密かに持ち歩いている、キリエから贈られた誕生日祝いのカードを取り出した。キリエらしい素朴な真心を込められた優しいメッセージを眺め、ひたすらに彼の無事を祈る。

 再び沈黙した騎士たちによって室内に満ちた静寂を打ち破ったのは、控えめなノックの音だった。

「はい、どうぞ」
「失礼いたします」

 暁の騎士の応答を受けて入室してきたのは、ライアンの側近騎士であるブルーノと、一人のメイドである。
 マクシミリアンはブルーノへ警戒の眼差しを向けていたが、リアムはメイドを凝視した。そして、勢いよく駆け寄り、閉じたばかりのドアへ叩きつけるようにして、女の身体を強く押さえつけた。

「なぜ、貴様がここにいる!?」
「ちょ、ちょっと、リアム、急に何を、」
「王子たちを何処へ連れ出した!? 答えろ、月夜の人形会!」

 あまりにも唐突かつ乱暴なリアムの動きを制止しようと近づいたマクシミリアンは、親友が口にした予想外の名を聞いて表情を凍り付かせた。
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