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リューイの待つ日々

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 ゲームの記憶を思い出してからも、リューイのやる事は変わらない。

 朝起きて着替えてから本を読んだり、庭を散歩したり、食事をして、一日を終える。

 ……内容薄いねぇ。

 

 ここは辺境伯領の中でも、最南端で”漆黒の森”に面したど田舎だ。

 因みに、勇者召喚を行う隣国”ローワン王国”が勇者を召喚するきっかけの辺境伯領のスタンピードはこの地である。

 ゲームの時はフォンデルク辺境伯領全体かと思っていたが、今思えばきっかけである”始まりのスタンピード”はこの最南端の地だけである為、今から1年ちょっと後迄にこのルミナス村含む近隣の村の住民を避難させれば被害は免れるだろう。

 何故なら、この”始まりのスタンピード”の魔物数は5,000体だと言われていた。

 辺境伯領の首都には常時3万の兵がいる。

 曲がりなりにも隣国に接している辺境伯領の兵数はいざという時の為に人数は揃えているのだ。

 遅れを取ったとして、5,000体ならすぐに片付くだろう。

 それに、ゲームでもスタンピードの発生でゲームの舞台である隣国のローワン王国は危機感を募らせていたが、辺境伯領が壊滅したなどの具体的な話は出ていなかった。

 そして、この国フォゼッタ王国に生きているからこそ分かる国の事情。

 ゲームの舞台であったローワン王国はこのフォンデルク辺境伯領の1.2倍ほどしかない。

 ……フォンデルク辺境伯領はあくまでフォゼッタ王国の一地方である。

 フォゼッタ王国の全領地はローワン王国の約3倍。

 ……そもそも国の規模や国力が違うのだ。

 そんな訳で、スタンピードについてはあまり心配していない。

 それに、リューイがスタンピードの時までここにいるとは思えない……。

 

 兄二人は、現在王都の学校に通っていたはず(卒業したか?)で、父は辺境伯領の首都の屋敷と王都を行き来している為、この田舎には僅かな使用人とリューイしかいない。

 そんな少人数の屋敷に一人で学校も行かずに何でここにいるかというと、病気療養の為だ。

 リューイの病気は“魔力枯渇症”の中でも九割は治ると言われている”魔力穴型”で、その九割に入れば完治が可能ですぐに治療をすれば日常生活を支障なく過ごせるが、一割に入ってしまうと大体発症から一年で死ぬと言われている。

 そして、リューイはその一割に入ってしまったタイプだ。

 魔力は食事をとったり、寝たりする事で回復するが、魔力枯渇症の魔力穴型は体の魔力を維持する箇所に不具合が起き、穴が出来、その穴から体内に溜まった魔力が抜けてしまうというものだ。

 この世界の住人は多かれ少なかれ必ず魔力を持っている。誰でも持っているのが無属性魔法と言われる魔力で、体を綺麗にする浄化魔法等の生活に必要な魔法の属性である。

 そして、国民の三分の一が持っているのが”四大元素属性”である「風」「土」「水」「火」の何かだ。

 複数持つ者もいるが大抵一つか二つである。

 そして、一際レアなのが今まで出てきていないような「光」「闇」「雷」「氷」等の特殊属性だ。

 何故突然属性の話をしたかというと、魔力を抜け出さないようにするには魔力穴を一気に塞がなければいけないが、その対象者と同じ属性の魔力でないと魔力穴は塞げないのだ。

 それに、空いた穴は持っている同じ属性の魔力且つ誰か1人で塞がないといけない為、穴より大きな魔力を持っていなければいけない。

 大抵は、塞ぐことが出来るのだが、リューイの属性は「光」と「氷」、どちらもレア属性な上に、魔力総量が多く魔力穴も人より大きい為、「光」か「氷」属性でリューイより大きい魔力を持つ者を探したものの見つからず、一割に入ってしまったのだ。

 12歳で発症してから、今まで生きていられるのは、実家が辺境伯爵家という身分でふんだんにお金をかけ世話をして貰っているのと、スチュアートが「光」属性を持っているからだ。

 この屋敷には現在原始的と言って良いほど、最低限の魔道具しか置いておらず、魔道具の代わりになるいわば魔力を使わない骨董品などを使って過ごす屋敷になっている。

 何故かというと、最近の魔道具は必要分だけ魔力を自動で抜き取ってしまうものが大半だからだ。

 また、魔力が発するものが近くにあると、自然と遠ざけようとして体内の微量の魔力を放ったりと無意識レベルで体内の魔力を動かしてしまうらしい。

 それが魔力枯渇症の人にとっては命取りになる為、この屋敷では徹底的に排除されているし、それは魔力を持った人間も含む話である。

 そして、スチュアートの「光」属性はリューイの穴を塞ぐほどの量は使えないが、延命にはなっているのである。

 一般的に、魔力の総量は成人の16歳までは増え続けるという。

 リューイも未だに魔力総量が増え続けているが、その分穴も大きくなって来ており、だんだんとベッドから起きられない日が増えている。

 そんな状態だから、生についてはとっくに諦めている。

 発症から大体1年が平均余命な中、今迄まだ生きている方が奇跡なのだ。

 

 そんな中で思い出した前世のゲーム記憶。

 だからこそ、これは最後に“シルバリウスを助けよ”という天命だと思った。

 そんな未来がない生活悲壮感に暮れているかと思えば……。



 目をつぶればハッキリと思い出せる二次元のシルバリウス。

 ――やべー。早く会いたい。

 やっぱり髪の毛って腰まであるのかな?

 平面だったキャラが立体になったらどうなるんだろ?

 崩れちゃうかな? それとも美形のままかな?



「ぼっちゃま、何か楽しい事がありましたか?」

 ベッドの中上半身だけを起こした状態で妄想しながら紅茶を飲んでいると、スチュアートに声をかけられた。

「ふふふ、シルバリウスの実物を見たこと無いからさ、どんなんだろ? って想像してた。生きているうちに会えるかなぁ。会いたいなぁ。あ、連れて来れそう?」

「はい。場所も大分絞り込めて来ましたし、終身奴隷のようですのでお金を積めば何とかなりそうです」

「良かったぁ~。やっぱり持つべき物はお金とコネとスチュアートだね」

「嬉しいお言葉です。さぁ、あまり興奮しすぎないように暫く体を休めましょう」

「そうだね。あぁ楽しみだなぁ」

 紅茶のカップをスチュアートに渡すと、ゆっくりベッドに横になる。

 スチュアートは枕を整えてくれたり、掛け布団を整えた後、部屋を出て行った。



 と、いう感じで全く悲壮感に暮れてはいないリューイだった。

 

 死ぬのは嫌だし怖いけど、もうどうしようもないのだからと開き直って、一日一日を大切に過ごしている。

 前世の俺? の趣味嗜好か分からないが、いつの間にかリューイ自身もシルバリウスに夢中で、シルバリウスの事を考えるのがここ最近代わり映えのしなかった日常での一番の楽しみになっている。



 そして、シルバリウスを助ける方法だが、わざわざ相手の土俵に上がる必要はない。(土俵が何か分からないけど、前世の諺で、土俵は土で出来た”スモウ”という競技場らしい)

  相手の土俵に乗らないイコール、”ゲーム開始前に先に手を打つ”である。

 ゲームであれだけやって死ぬ運命が変わらず、どうせ死んでからしか冤罪がはらせないのであれば、まずは”命大事に”を目標で、連れてきてもらう事にした。

 そして、リューイの手で奴隷から解放し、解放後は、自分で冤罪を晴らしに戻っても良いし、こちらの国に移住しても良いようにシルバリウスに選んでもらう事にしたのだ。



 リューイの手で奴隷解放したいのは、生のシルバリウスと少しでも接してみたいからだ。

 勿論、見つかる前にリューイが動けなくなっていれば、スチュアートの方でやってもらうが。

 それに、もしかして“強制力”? という呪いが発動するかもしれないが、発動したらそれまでだと割り切っている。

 リューイの残り時間は少ないのだ。出来る事をやって変わらなければ、それはそれでしょうがない。

 

 リューイはまた、シルバリウスを思い浮かべながら意識を闇に落としていった。
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