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召喚されたのは運命〈勇者:リョウコ視点〉

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 私、如月良子きさらぎりょうこはある日突然、私の大好きな人がいる”紅空の憂鬱”というゲーム世界の主人公として召喚された。
 ”紅空の憂鬱”は私が、高校受験に失敗してランクを落とした学校へ入学したものの、合わなくて家にいた時にたまたまテレビCMでみた綺麗な絵がとても印象に残って、速攻で親に買ってもらった。
 私の家は裕福らしい。幼稚園から大学まで通える私立校に入学して、高校もそのまま行くつもりだったのに、何故だか進級試験の結果が良くなかったみたいで、進級はさせられないから留年か他の学校への進学を進められた。
 まさかお兄ちゃんに言われていた”うちの学校は進学校でもあるんだから、そんなゲームばかりしていて勉強していないと進級出来ないぞ”と言うのは冗談じゃなかったという事をここにきて初めて知った。
 だって小学校入学時も中学校入学時も勉強なんてせずに上がれたのだから、高校もそうだと思うじゃない?
 それに中学生になってハマった乙女ゲームが楽しすぎて、授業中もやっていたけど、ちゃんと授業には出席していたんだから問題ないと思っていたのに。
 留年なんて恥ずかしいから、他の学校への進学一択だった。
 でも、会話が低レベルって感じで入学式以来行ってなかった時に、あのゲームに出会ったのだ。
 RPGゲームは初めてで中々苦戦したけど、攻略書を片手に何とかクリアした。
 その頃にはあの奴隷のシルバリウスにハマっていて、シルバリウスが亡くなったシーンは私も泣いた。
 運営元に苦情を入れようとネット検索していた時に、私は同人誌と呼ばれる存在に出会ったのだ。
 それはもう色々なシルバリウスとのストーリーがあった。その同人誌の殆どはBLという他の男性キャラクターとの恋愛になっていたけど、女主人公との創作ストーリーもあり、中でも好きなシチュエーションが冤罪が晴れて奴隷解放される時、シルバリウスは敢えて奴隷解放を選ばず、主人公の為だけの奴隷でいる事を選び一生を主人公に捧げるというものだった。
 何度も読み返したし、このストーリーの後日談等も自分で作る位、それはもうハマっていた。
 そんなシルバリウスに捧げていた高校3年のとき、結局入学式以来一度も学校へ行っていないけど(寄付金次第で進級出来る学校だったので進級していた)この世界に召喚されたと知った時は”私のシルバリウスへの愛が認められたと”狂喜乱舞した。
 ゲームは昔に1回やっただけで、細かい所は覚えていなかったけど、まずはチュートリアルを優秀な成績で修める方が、国への発言権も強くなる事をゲームか攻略本か同人誌で書いてあったのを覚えていたので、ガムシャラにレベル上げをした。
 そして、チュートリアルを優秀な成績で修めた後、シルバリウスを心待ちにしていたのに、いつまで経っても出てこない。
 何かおかしいと思いつつ、シルバリウスの情報を集めながら旅へ出発。
 その道中にシルバリウスは既に死んでいる事を知った。
 知った時は絶望して、一気にやる気がなくなった。幸い、チュートリアルを頑張ったおかげで、旅の途中で帰ってきた王城内でも待遇は良かったので、このままのんびり過ごしても良いかなと思っていた所に、国王から隣国の式典は出席するように言われた。
 最初は渋っていたが、隣国には未婚のイケメン王族等もいると聞いて行く事にした。
 シルバリウスが居ない今、中学生の時憧れていたように、心の潤いに王子様とかイケメンに傅かれたいと思ったのだ。
 そして、この世界は私に味方した。
 その式典でゲーム時よりキラキラ度が増したシルバリウスが居たのだ。これは結ばれる運命だったとしか思えなかった。
 隷属の首輪がない事は残念だったが、こちらで用意すれば良いだけのこと。最後に自分で隷属の首輪を嵌めて”生涯リョウコの側に”なんて言われたら、最高以外の何物でもないだろう。
 懸念点は私も知らない展開で、シルバリウスには何故か婚約者がいたこと。
 でも、それは多少の誤差で、私と話していけば私に傾くだろうと、思ったのになんだか素っ気ないし、生まれた国に戻る気はないようだった。
 だから、パーティでの去り際に”第三王女はあなたが亡くなった事は知らずに、まだ御所望のようですよ? 婚約者の方は知っているのですか? あなたを守れるのは勇者である私だけですわ”とシルバリウスの耳元で囁いたのだ。
 シルバリウスの冤罪の原因が第三王女の執着のせいである事はゲームストーリーにも出ていたから知っていた。だから、召喚された時に真っ先に第三王女の様子を探っていたのだ。
 結果はシルバリウスの事は覚えていて、話すとまだ未練はあったようだが、国に勇者と認められたら譲って欲しいという交渉を重ね、見事シルバリウスを手に入れる許可が出たのだ。
 だから、今更第三王女が出てくる事はないだろうけど、それを知らないシルバリウスはその懸念点もある為自分の国に戻って来ないのだろう。
 実際他国の貴族の嫡男でもない子供が婚約者であれば、あのローワン王国の親バカ国王が第三王女の要望を叶えてしまう可能性もなくはないと思っている。
 その憂いを晴らせるのは私だけだという事をシルバリウスに伝えれば、興味を持ってくれるだろう。
 まずは興味を持ってもらうことが大切で、一緒に苦難を乗り越えていけばゲームと同様、自ずと心を開いていってくれるだろうと思っている。

 隣国へは式典参加目的だった為、残念ながらすぐに帰らなければならなかった。離れ離れになってしまうのは寂しいもののシルバリウスも見つかった事だし、隷属の首輪も用意しなくてはならない為、素直に帰国した。
 そこから、国王へシルバリウスを貰う話をしていく中、シルバリウスの婚約者がフォンデルク辺境伯の三男だと知ると、”相手が平民でも貴族と婚約している者はダメだ”と言われた。
 ……意味が分からない。しつこく国王に迫り、観念した国王が国王の私信という形でフォンデルク辺境伯へシルバリウスを迎え入れたい旨を連絡しても、言葉はやんわりとだが内容はきっぱりと断られたらしい。
 そこで私は気が付いたのだ。
 恐らく乙女ゲームパートに入ったのかもしれないと。
 同人誌ではキャラクターはそのまま乙女ゲームだったらというifストーリーの同人誌が流行っていたのだ。
 そう考えれば、シルバリウスが素敵すぎてあまり視界に入らなかった婚約者か、妙に存在感があった転生者っぽい婚約者の兄が悪役の可能性が高い。
 隣国との合同調査の約束を取り付けて貰い、私は先に仲間探しと隷属の首輪取得をする旅に出た。ゲームのイベントと同じイベントは発生したものの、勇者パーティを結成した当初から国に居た最初のパーティメンバーの2人以外、メンバーは誰一人として居なかった。
 そんな事に首を傾げつつ、シルバリウスの誕生日前日にシルバリウスがいる屋敷入りをしたら何故か旅の間に出会って仲間になる人達が屋敷で働いている。
 最初は目を疑ったが、転生者が居れば別だ。やはりエドガーが転生者かと思って問い詰めるもどうやら違うらしい。
 そして、屋敷を注意深く見ること2週間。
 どうやら、婚約者が転生者っぽいのだ。ただ私からすればあまり視界に入らずモブ感が強いし、婚約者なら転生者でも一般人でも特に関係ない。何故なら断罪されて退場するから。
 ここへ召喚されて半年、やっと調査という名目でシルバリウスと心の距離を埋めるパートに入るのに、モブに気を取られたくないから、直接先に退場勧告をしたのだ。
 それに、いくらゲーム世界のモブや悪役だとしても、私も人の子だし可哀想だと思う心くらい持っている。
 私が自ら手を汚して退場させる事はしたくないし、人を使ってちまちまいじめて退場する様に仕向ける事も面倒くさい。増してやゲームの強制力なんてもので乙女ゲームで良くある、処刑エンドや凌辱エンドで退場させられるのは流石に可哀想だから。さっさと、自分から退場するように仕向けたのだ。
 私の忠告を素直に聞いてくれれば良いけれど……。まぁ忠告を無視してどうにかなっても、彼自身の選択よね? 1回は忠告したのだから聞かなかった彼が悪いという事で私は関係ないわ。
 それよりシルバリウスに隷属の首輪を付けて貰うタイミングを考えなきゃ、やっぱり同人誌で見たように奴隷ポジションは捨てがたいのよね……。
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