死にたがりの”ドール”が幸せを掴むまで

あやまみりぃ

文字の大きさ
23 / 41
本編

紫音

しおりを挟む
「シオンごめんね。俺が悪かったから戻っておいで……シオン愛してるよ。また後でね」

 ライオネルはいつものように1人紫音に語りかけると執務室へ戻って行った。


 紫音の熱が下がってから2週間経っていた。

 紫音はというと、

「(今日もよくやるなぁー。とっとと諦めれば良いのに。早く打ち捨ててくれないかなぁ)」

 実は体は全く動かないが、宮廷医師の見解に反して起きている時に話しかけられた事は全部聞こえていた。

 
 自分から娼館へ行って“シロ”になり、確かにだんだん壊れていくのを感じていた。
 壊れていくのは救いでそのまま壊れていたかったのに、気が付いたら引き戻されていたのだ。
 紫音の自己治癒能力の高さ故か、国1番の魔道士の回復魔法の影響か。
 紫音はまさか心まで回復させられるとは思わなかったのでどちらの影響も相互に働いてしまったような気がするが。

 意識が戻った今、体が頑丈な”ドール”は動かそうと思えばすぐに動き出す事は可能だろう。

 だが、目覚めてからライオネルに反応を返すことはしない。

 何故ライオネルの言葉が聞こえているのに反応を返さないのか。

 それは、反応する気にならないからだ。
 
 幸せを味わってからの失うという”喪失感”はとても辛い事だと分かった。

 ライオネルも今は罪悪感と責任感から面倒を見ているのだろうが、目覚めたらまたポイッと捨てられるのだろう。

 それならば最初からいらない。

 それに、娼館での働きは無駄にならず、何となく寿命はあと半年位だと感じる。以前同僚が1年を切ると寿命を感じるようになると言っていたが、本当にその通りだ。
 あと半年動かなければ人生が終わる。
 ライオネルが途中で世話に飽きて、このまま何処かにうち捨ててくれれば、もっと早く逝ける。

 今度こそお母さんの元に逝けるのだ。



 と、思っていたのに。

♢♢♢


 早いもので紫音が動かなくなって2ヶ月経った。
 その間ライオネルは諦めなかった。
 そんなライオネルの事を紫音は馬鹿だなぁと思う。
 紫音のことなど構わずに早く次へ行けば良いのに。
 ライオネルは初めて見たとき天使と見間違える程
キラキラしていて格好良いんだから、こんなただ生きているというだけの“人形”さっさと捨てれば良いのにと。

 ここ1ヶ月で新しい試みも増えた。
 何も怪我していないのに毎日回復魔法をかけられることに加えて、今日も真昼間に庭園に連れていかれて強制日向ぼっこだ。

「流石に秋も終わりだから冷えはじめてきたなー。でもやっぱり日向はあったかいな。そうそう、冬になると外での日向ぼっこはキツくなるから、シオンと過ごせる温室作ろうと思ってるんだよー。植物のなー。」

 ライオネルの語りかける言葉は最初は懺悔が多かったが、次第に愛の言葉や日常の他愛もない話が増えた。

 そして、紫音は
「(もったいないなぁ。俺はそんなに居られないのに。まぁ、植物植えるのなら誰かが遊びには行くか)」
 声に出すことは無いが、ライオネルの言葉に心中で返答をするようになっていた。


 そんなまったりした時間が進む中、誰かが近付いてくる。

「お忙しい中すみません。少し確認したいことがありまして執務室までよろしいでしょうか」
「(この声はルイスだな)」

「……シオンちょっと行ってくるよ。もうちょっとここで日向ぼっこしてて」

「(はいはい。いってらっしゃい)」

  ライオネルはルイスに連れられて離れて行った。
 “時は悲しみを薄れさせる”“前へ進む為に人は忘れる生き物だ”と何かの本で読んだことがあったけど、確かにそうなのかもしれないと紫音は思った。
 記憶力が良いから忘れる事は出来ないけど、いつの間にか“感情”を理解して、流暢に思考する事が出来ている。人間とは不思議なものだな。

 ……この2ヶ月ちょっと思考する事しかやる事がなかった影響かもしれないが。


「……だ。……でも、……だから……」
「……とはいえ、……だから」

 何かを話しながら近付いてくる集団がいる。二手に分かれたようで片方の集団が隣の生垣まできていた。
「やはり、“紫瞳の君”に去って貰うのが1番だよな」
「そうだ。数少なくなった龍人の血を引くあの方には子孫を残していただかないと」
「この間、心の広い西の侯爵令嬢様が“紫瞳の君がいても良い“と言ったにも関わらず、婚約を断ったらしいぞ。そんなに”紫瞳の君”が良いのかね。何も喋らず反応もせず、そんな相手に毎日喋りかけてるとか。殿下は人形遊びにでもハマってしまったのかね」
「お前、声が大きいぞ。もうちょっと声を抑えろ」

「(ん? これは俺達の話で、”紫瞳の君“とは俺の事か。確かに毎日人形遊びしてるな。本当さっさと辞めれば良いのに)」

「ここだけの話、あの方は王を味方につけているからな。婚約の話を一切合切断っていてこのままでは拉致があかないと、”紫瞳の君“の暗殺計画が上がっているらしい」

「(おー。俺の暗殺計画。それはぜひとも頑張って欲しいな)」

「ただ、”紫瞳の君“の守りは最強って聞いたぞ」
「それなんだよな。この国1番の魔道士のあの方が率先して守られているし、あの方が”紫瞳の君”から離れる時は、国2番目の魔道士と、最優秀騎士が常に守ってるという」

「(今ならガラ空きだよー)」

「この間あった誘拐未遂事件も、犯人のアジトはなんか溶岩化してて、資金提供してたって噂の貴族は局所的竜巻が発生して屋敷は崩壊したらしいぞ。ここだけの話、あの方の報復じゃないかと言われてる」

「(誘拐未遂なんてあったのか、全く知らなかったし、報復が苛烈だな)」

「だから、“紫瞳の君”の暗殺計画も上がってるが、あの方自身の暗殺計画も上がってるらしい。最近はやり過ぎで恨みを買いすぎだと」
「噂じゃあの方も少しずつ壊れてきてるんじゃないかと言われているらしい」
「あの方の刃がこちらに向いたら、国は滅亡するだろうからな。周りも大変だな」

 集団は再び歩いて去って行った。

 足音と共に、ライオネルの気配が近付いてくる。
「全く、シオンに何てこと聞かせてくれるんだ。シオンは気にしないで寝ておいで」
 そう言うと、ライオネルは紫音の頭を撫で、眠りの魔法をかけたのか紫音の意識が遠のいてった。


「俺の最愛を害するものは許さない」

 意識が完全に落ちる前にそんな言葉を聞いた気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

処理中です...