Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑

文字の大きさ
31 / 102

第31話 新しい生活

しおりを挟む
沖縄から帰って数ヶ月が経ち、
世間は新しい年を迎えていた。

矢野君の事は未だどうなっているのか
分からない。

あれからどんなに探しても、
矢野君の事は結局は分からず終いだった。

そしていつかは消えてしまうと思っていた僕の頸の噛み跡も、
結局消える事はなかった。

きっと矢野君との番としての契約がなされてしまったのだろう。

僕はヒートにより他のαを引き寄せる事は無くなったけど、
僕のこの疼きを埋める人はもう誰も居なくなってしまった。

矢野君は自分の事を

“ポンコツのα”

と呼んでいたけど、
いつの間にかそれは入れ替わり、
僕が

“ポンコツのΩ”

になってしまっていた。

矢野君に番われた僕は、もう誰とも番う事は叶わない。

でも僕は後悔していない。

矢野君との愛し合ったあの夏の日々は永遠に僕の宝物だから。

でも僕はあの夏の日を来る日も、来る日も繰り返している。

今でも矢野君がどんなに僕を愛してくれたのか鮮明に覚えている。

彼との一瞬、一瞬のシーンを鮮明に覚えている。

まるで終わりの無い真夏の夜の様に……

あれから時は更にたち、
僕には既に番が居ると言うこともあり、
ずっと目標にしていた城之内大学に行く事をやめ、
東京にあるフラワーアレンジメントの専門学校に行く事を決めた。

何か矢野君と繋がっている物に携わっておきたかったから。

だから彼の特別だった一花大叔母さんの
大好きだった花に携わる仕事がしたかった。

だからフラワーアレンジメントという道を選んだ。

幸い返済しなくても良い奨学金を見つけ、
僕は夏の間に貯めた貯金を元に東京に小さな安いアパートを見つけた。

東京での生活は楽ではなかった。

高校生の時の貯金と奨学金で何とか東京での生活をスタートさせたけど、
アルバイトを探す必要があった。

僕は出来れば花屋さんか園芸店で仕事を見つけたかったけど、
そう事がうまく運ぶはずか無い。

最初の数ヶ月は貯金を切り崩して生活していた。

「長谷川君! バイト探してたよね?」

丁度学校の生協の前を通った時に声を掛けられた。

「ハイ! 新しい情報が入りましたか?!」

「今丁度ね、生花店のバイトの情報が入って来たの。

確か生花店のバイトを希望していたよね?」

「そうです! そうです!」

「じゃあ、これ、生花店の情報です。
この紹介状を添えて履歴書を送ってみてね。

生花店はうちの学校の生徒には人気あるから難しいかもしれないけど、
もしダメだった時はまた新しい情報が来る時に教えるから頑張って!」

そう言われお礼を述べると、
僕は早速履歴書の制作を始めた。

「長谷川君、バイト見つかった?」

そう言いながら僕のところにやって来たのは
この学校に来てから仲良くなったまる子。

おかっぱ頭が○ビまる子ちゃんに似てるので、
そう呼ばれる様になったけど、
とても気さくな女の子だ。

「そうなんだよ~
やっとお花屋さんのバイトが来たんだよ~
受かればイイんだけど……」

「何て言う花屋さん?」

「えーっとねえ~

フラワーショップ “ゼロ” だって」

「え? 本当?」

「何? そんな有名なショップなの?」

「有名も何も、全国に展開しているショップで店員は皆Ωなんだよ。

偶然なのか必然なのかは分からないけどね」

「そうなの?!」

「うん、有名だよ。

ショップのゼロって言うのも、
Ωの同意義である終から取ってゼロにしたみたいよ?

まあ噂だけどね~」

「へ~ そうなんだ」

僕はまる子のセリフに、益々このショップに興味を持った。

「それで募集は何名なの?」

「えーっとねえ、1名……
1名だけみたい……
は~ 僕には狭き門かもしれない……」

「どうして?」

「だって、そんな有名どころに僕が受かるなんて想像できないよ~

生協でも人気のある職種って言ってたから……」

「でも、長谷川君はΩでしょう?」

「どうしてそれを……」

「長谷川君の首!

それ頸守るためのチョーカーでしょう?」

そう言われ、

「あっ……」

と僕は首のチョーカーに触れた。

「それ、綺麗な宝石よね。
ブルーって事はサファイア?

本物なの?」

「多分……」

「多分って買った時何って言われたの?」

「あっ…… ただ、サファイアだって……」

「え~それって怪しくない?

幾らだったの?」

「あれ~? 幾らだったっけ?
忘れちゃった」

そう言って舌を出したけど、
内心は穏やかではなかった。

この頃になると、
矢野君との事は家族に反対されたのではなく、
ただ僕は捨てられただけじゃないのか?
とさえも思う様になって来た。

考えたくはないけど、
もしそうなのだったら何時迄も
こもチョーカーをはめているのは滑稽だ。

深く追及されたくもないし、
そろそろこのチョーカーをはめているのは潮時かもしれない。

でも頸の噛み跡を見られたくないので、
今週末に新しいチョーカーを買いに行くことに決めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】この契約に愛なんてないはずだった

なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。 そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。 数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。 身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。 生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。 これはただの契約のはずだった。 愛なんて、最初からあるわけがなかった。 けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。 ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。 これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

処理中です...