45 / 102
第45話 結婚ラッシュ
しおりを挟む
「何で君までこの部署なの?
コネって凄いね。
君、花のはの字も知らないでしょ?」
水切りをしながら、
隣で切り落とした茎と遊ぶ佐々木君を横目に僕は尋ねた。
「花ぐらい知ってるよ!」
とムキになって答える彼に、
「じゃあ、この花、何て名前か知ってる?」
と尋ねると、途端に彼は尻込みし始めた。
「それぐらい知ってるよ。
ほら、アレだろ? あれ!」
「あれって何?
アレだと分かんないんだけど?」
「ほら、此処まで出かかって……
何だっけ?
あ~っと、あれだ!
向こうにあるのは向日葵だ!」
そう言って壁の所にある
バケツに入った向日葵を指差してそう言った。
「チョット~ 僕の持ってる花の事を聞いているんですけど?」
そう言って佐々木君とやりとりしていると、
「佐々木さん、それは百合ですよ」
そう言って本田さんが、
カラーの花を沢山抱えてやって来た。
佐々木君はあの出会いから、
嵯峨野さんに頼み込んでインフィニティに潜り込んだ。
僕はてっきり佐々木君も
スプリングヒルのホテルのランドリー室で
バイトをしていると思ったのに、
あの日は偶然に矢野君に会いに来ていただけだった。
それを考えると、
僕達の出会いは奇跡だったかのかも知れない。
佐々木君曰く、
“一花大叔母さんが巡り合わせてくれた”
と思っているみたいだけど、
僕には分からない。
僕は佐々木君に本田さんが持って来たカラーの花を渡すと、
「さて、この花は何の為の花でしょう?」
とまた意地悪にも問題を出した。
花の事なんてちっとも知らないくせに、
一体何故此処にやって来たのか分からない。
本当にコネとは怖いもんだ。
でも彼はコネで入って来た事を隠していない。
普通そう言う人は、
大抵爪弾きにされそうなものなのに、
彼はこの部署の人達から可愛がられていた。
佐々木君は僕にカラーの花を1本渡すと、
「ほら、花嫁のブーケだろ?」
と全くのズブの素人ではなさそうだ。
「分かってるんだったらブーケの制作に入って下さい。
明日は結婚ラッシュですよ」
6月の吉日と週末が重なると、
秒単位の如くというのは大げさだけど、
それくらい式が入っている。
僕たちも今月に入ってから
殆ど家に帰っていない。
そんな時に佐々木君が入って来たのは
天の助けだった。
佐々木君は花の名前は壊滅的に分からないけど、
センスは抜群に良かった。
彼の作る花嫁のブーケはたちまち人気の商品になった。
それが彼が皆に可愛がられる理由だ。
やはり実力社会と言う事だ。
しつこいようだが、
花の名前の知識は壊滅的だ。
ポッと出の佐々木君に美味しいところを取られて、
少々妬む様な気持ちを持ってしまったけど、
やっぱり血なのかも知れない。
佐々木君こそフラワーコーディネーターの方へ進めば良いのに、
何故T大に行ってるのだろう?
彼の進路は分からないけど、
凄い才能を持ってるのに勿体ないと思った。
僕は隣で作業する矢野君の手捌きを見ながら、
再度感心した。
次々と出来ていくブーケは、
本田さんの手によって奥にある冷蔵庫まで運ばれた。
出来上がったブーケは花が傷まないように
明日のお式まで冷蔵庫で温度と湿度を厳重に管理して保管される。
グループ内にある挙式場だけでも、
明日だけで20組の式が予定されている。
花嫁の希望するブーケもそれぞれに個性がある。
殆どが写真を持って来て、
「この通りに作ってください」
なのだけど、中には
”お任せ“
もあり、そんなお任せのブーケを
佐々木君は見事に花嫁のイメージ通りに作り上げる。
そんな佐々木君は、
「小さい頃は良く一花大叔母さんと花冠を作った」
と言っていたので、
恐らくその中に
”訓練“
が仕込まれていたのだろう。
でもそれは佐々木君の才能でもあると思う。
本当に色彩感覚が抜群で男の僕でも惚れ惚れしてしまう様な出来だ。
佐々木君の作る花束がうちにあったら、
きっと部屋の雰囲気や空気も変わるだろう。
僕は出来上がったブーケを仕舞ってある冷蔵庫の前に立つと、
ウットリとしてその完成度に感動していた。
Ωのサガなのか、
時と場合によっては女性が好きそうなものを好む時がある。
僕に取ってはブーケもその一つかも知れない。
いや、花自体が僕に取ってはもう生活の一部だ。
僕の立つ横に佐々木君がやって来たのが視界に入ると、
彼の方を向いた。
「この後ワイルドフラワーが配達されるみたいだから、
今度はお前の出番だな」
佐々木君はそう言うと、
自分が作ったブーケに目をやった。
今回ガーデン式を行う2組のカップルから
ワイルドフラワーで作る花冠の注文があった。
ワイルドフラワーのリクエストがあると、
僕が手がける様になった。
今回は花嫁の分と、
リングガールとフラワーガールの子供用だ。
自分の作った作品を
一生に一度の大切な場で使って貰うのはすごく嬉しい。
頑張って最高のものを作ろうと思った。
佐々木君の方を見ると、僕はガッツポーズをした。
その時奥の方から挨拶をする様な声がしたので、
「花が届いたみたいだね。
確認に行こうか」
佐々木君にそう言って作業場の方まで戻ると、
そこに居たのはゼロからの配達では無く、
「仁! 夕食未だだろ?
忙しいと思ったから差し入れだ!」
そう言って微笑む矢野君の姿だった。
コネって凄いね。
君、花のはの字も知らないでしょ?」
水切りをしながら、
隣で切り落とした茎と遊ぶ佐々木君を横目に僕は尋ねた。
「花ぐらい知ってるよ!」
とムキになって答える彼に、
「じゃあ、この花、何て名前か知ってる?」
と尋ねると、途端に彼は尻込みし始めた。
「それぐらい知ってるよ。
ほら、アレだろ? あれ!」
「あれって何?
アレだと分かんないんだけど?」
「ほら、此処まで出かかって……
何だっけ?
あ~っと、あれだ!
向こうにあるのは向日葵だ!」
そう言って壁の所にある
バケツに入った向日葵を指差してそう言った。
「チョット~ 僕の持ってる花の事を聞いているんですけど?」
そう言って佐々木君とやりとりしていると、
「佐々木さん、それは百合ですよ」
そう言って本田さんが、
カラーの花を沢山抱えてやって来た。
佐々木君はあの出会いから、
嵯峨野さんに頼み込んでインフィニティに潜り込んだ。
僕はてっきり佐々木君も
スプリングヒルのホテルのランドリー室で
バイトをしていると思ったのに、
あの日は偶然に矢野君に会いに来ていただけだった。
それを考えると、
僕達の出会いは奇跡だったかのかも知れない。
佐々木君曰く、
“一花大叔母さんが巡り合わせてくれた”
と思っているみたいだけど、
僕には分からない。
僕は佐々木君に本田さんが持って来たカラーの花を渡すと、
「さて、この花は何の為の花でしょう?」
とまた意地悪にも問題を出した。
花の事なんてちっとも知らないくせに、
一体何故此処にやって来たのか分からない。
本当にコネとは怖いもんだ。
でも彼はコネで入って来た事を隠していない。
普通そう言う人は、
大抵爪弾きにされそうなものなのに、
彼はこの部署の人達から可愛がられていた。
佐々木君は僕にカラーの花を1本渡すと、
「ほら、花嫁のブーケだろ?」
と全くのズブの素人ではなさそうだ。
「分かってるんだったらブーケの制作に入って下さい。
明日は結婚ラッシュですよ」
6月の吉日と週末が重なると、
秒単位の如くというのは大げさだけど、
それくらい式が入っている。
僕たちも今月に入ってから
殆ど家に帰っていない。
そんな時に佐々木君が入って来たのは
天の助けだった。
佐々木君は花の名前は壊滅的に分からないけど、
センスは抜群に良かった。
彼の作る花嫁のブーケはたちまち人気の商品になった。
それが彼が皆に可愛がられる理由だ。
やはり実力社会と言う事だ。
しつこいようだが、
花の名前の知識は壊滅的だ。
ポッと出の佐々木君に美味しいところを取られて、
少々妬む様な気持ちを持ってしまったけど、
やっぱり血なのかも知れない。
佐々木君こそフラワーコーディネーターの方へ進めば良いのに、
何故T大に行ってるのだろう?
彼の進路は分からないけど、
凄い才能を持ってるのに勿体ないと思った。
僕は隣で作業する矢野君の手捌きを見ながら、
再度感心した。
次々と出来ていくブーケは、
本田さんの手によって奥にある冷蔵庫まで運ばれた。
出来上がったブーケは花が傷まないように
明日のお式まで冷蔵庫で温度と湿度を厳重に管理して保管される。
グループ内にある挙式場だけでも、
明日だけで20組の式が予定されている。
花嫁の希望するブーケもそれぞれに個性がある。
殆どが写真を持って来て、
「この通りに作ってください」
なのだけど、中には
”お任せ“
もあり、そんなお任せのブーケを
佐々木君は見事に花嫁のイメージ通りに作り上げる。
そんな佐々木君は、
「小さい頃は良く一花大叔母さんと花冠を作った」
と言っていたので、
恐らくその中に
”訓練“
が仕込まれていたのだろう。
でもそれは佐々木君の才能でもあると思う。
本当に色彩感覚が抜群で男の僕でも惚れ惚れしてしまう様な出来だ。
佐々木君の作る花束がうちにあったら、
きっと部屋の雰囲気や空気も変わるだろう。
僕は出来上がったブーケを仕舞ってある冷蔵庫の前に立つと、
ウットリとしてその完成度に感動していた。
Ωのサガなのか、
時と場合によっては女性が好きそうなものを好む時がある。
僕に取ってはブーケもその一つかも知れない。
いや、花自体が僕に取ってはもう生活の一部だ。
僕の立つ横に佐々木君がやって来たのが視界に入ると、
彼の方を向いた。
「この後ワイルドフラワーが配達されるみたいだから、
今度はお前の出番だな」
佐々木君はそう言うと、
自分が作ったブーケに目をやった。
今回ガーデン式を行う2組のカップルから
ワイルドフラワーで作る花冠の注文があった。
ワイルドフラワーのリクエストがあると、
僕が手がける様になった。
今回は花嫁の分と、
リングガールとフラワーガールの子供用だ。
自分の作った作品を
一生に一度の大切な場で使って貰うのはすごく嬉しい。
頑張って最高のものを作ろうと思った。
佐々木君の方を見ると、僕はガッツポーズをした。
その時奥の方から挨拶をする様な声がしたので、
「花が届いたみたいだね。
確認に行こうか」
佐々木君にそう言って作業場の方まで戻ると、
そこに居たのはゼロからの配達では無く、
「仁! 夕食未だだろ?
忙しいと思ったから差し入れだ!」
そう言って微笑む矢野君の姿だった。
1
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!
めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。
目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。
二度と同じ運命はたどりたくない。
家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。
だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる