龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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またいつか会おう

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「来るぞ!」

デューデューが叫んだ途端ゴーっという地鳴がして地がカタカタと揺れ始めた。

「危ない!!みんな何かに捕まって!」

そうは言っても、捕まれる物が何もない。

僕達は咄嗟に地に身をかがめた。

その内カタカタと揺れていた地は段々とガタガタと揺れ、
小刻みに揺れていた地がドンドン大揺れになった。

ベッドが振動で動き、その上に載っていたデューデューが投げ出され、

「なんだこれは! 私は外に居る!」

そう言って一足早く外に飛び出していった。

何処かでドーンと言う爆発したような音がして、
天井にヒビが入り、パラパラとその欠片が落ちて来た。

「このままでは天井が崩れる!

デューデューのように一旦外へ出よう。

僕がロープを持ってるから、
アーウィンとマグノリアは先に降りて!」

そう言うと、窓からロープを垂らした。

アーウィンとマグノリアが急いで降りると、
僕は身体強化をかけ、そのまま窓から飛び降りた。

それと同時に僕の寝室の天井がドスンと落ちて来た。

「ヒイッ! 何何何?!」

マグノリアがビックリして飛び退くと、
今度は壁が崩れてガラガラと落ちて来た。

城の奥では悲鳴が響き渡っている。

静かだったけど、中に人は居たようだ。

“僕は父上から城を任されている!

みんなを助けに行かなくては!”

僕はマグノリアとアーウィンを見ると、

「取り敢えずアーウィンとマグノリアは建物から離れて影に隠れてて。

デューデューは姿を消して彼らと一緒いて!

僕は何が起きてるのか正面に回って確認して来る」

そう言うと、

「私たちも一緒に行く!」

マグノリアがそう言ったけど、
僕はその行方を止めた。

「ううん、混乱に巻き込まれてバラバラにならないように
取り敢えずは此処にいて。

確認したら直ぐに戻って来るから!

助けが必要だったら呼ぶから!」

そう言うと、僕はマグノリアとアーウィンをデューデューと残して正面に回った。

地の揺れは止まったけど、あちこちでドーンと言う音が鳴り響いて、
お城の崩れるような音があちこちから聞こえて来た。

”もしかしてメルデーナが現れたの?!”

僕は正面へ続く角を回った時、見た光景に言葉を失った。

”叔父上の攻撃が始まったんだ!

どうして急に?! 何の前触れもなかったのに!

それもダリルも、父上も留守の時に!“

僕は握り拳を両手で握り、上空を見つめた。

城の頭上には龍の群れが舞い、
その上には人が乗り、龍の上から攻撃していた。

”こんなことがあるなんて……龍の上に居るのは魔法使い達?“

彼らは掌に火球を生み出すと、次々と炎の球を城へ向けて投げつけた。

“あの龍達は何故人間に従っているんだ?! 彼らは誇り高き生き物では無いのか?!”

僕は目に魔力を集中して龍達に視点を合わせた。

すると、龍達の首に何か嵌めてある事に気付いた。

“あの首輪は何だ?! 光ってるのは魔石?”

龍達の首には魔法がかけられたような首輪が嵌められていた。

“アレで言う事を聞かせている?!”

明らかに龍達は操られていた。

”もしかして、叔父上はこの為に龍を集めていた?!

デューデューもその為に捕まった?!“

彼らは容赦なく頭上から炎を城へ向けて投げつけている。

城のとっぺんは完全に崩れ去り、段々と城の壁が崩れ始めた。

あちこちからは火が出て煙も立ち始めている。

城の中に居た人々はパニックになって、
城の中から我先にと逃げ出してきた。

僕はその流れに逆らうように城の中へと突き進んでいったけど、
僕を過ぎゆく人達の方に押されてなかなか先に進めない。

叔父の奇襲は何の準備もなされていなかった城を次々と攻撃していった。

導く者のいない騎士達は統率も取れず、
中には我先にと逃げ出すも者も居た。

「皆さん! 落ち着いてください!

私は王の子であるジェイドです!

皆さん、落ち着いてください!」

そう叫んでも、誰一人の耳に届かない。

僕は城の中から逃げ出して来た大男に肩を押され、
反対方向へと押し出され地面に倒れ込んだ。

「痛っ……」

流れ出て来る者達に踏みつけられ、
僕は腕を地につけて人々が逃げていく方を這いつくばりながら見た。

そして僕は自分の視線の先に、
地に手をつき呪文を唱えている大賢者を発見した。

“彼は何をしているんだ……“

そう思った瞬間、彼の唇が

『に・げ・ろ』

と動くのを確認した。

僕は身体強化をかけ立ち上がると、大声で

「皆んな城から離れろ!」

そう言って叫んだ瞬間、

『ドンっ!』

と地が沈んだような揺れが一瞬起こり、
ゴーっという音と共に、
大賢者のいる場所から城にかけて大きな亀裂が入り
亀裂が城に当たったかと思うと、城がいきなり崩れ始めた。

僕は更に城に中に走ってゆき、
崩れいく城のコンクリートの塊を手で払い除けながら
まだ中に残っていた人々を外へと誘導した。

“ダメだ、これじゃ誰も助けられない!”

その時、

「殿下!」

そう叫んで宰相のランカスが奥から埃まみれになりマギーを肩に担いでやって来た。

「ランカス! 無事だったんだ!

マギーは?!」

マギーの顔を覗き込むと、頭から血を流しぐったりとしていた。

「マギー! マギー!

しっかりして!」

僕が呼びかけると、マギーはわずかに反応した。

「殿下も早くお逃げください!」

ランカスの呼びかけに僕は城の中を見た。

城のあちこちでは倒れている人たちが散乱していた。

その光景を見てお腹の底から怒りが湧いて来た。

“叔父上の好きにはさせない!

此処は父上の城だ!

これは僕が守る民達だ!”

そう思うと、無意識のうちに両手に魔力を集中させそれを天に向けて掲げた。

「広域完全回復!」

そう叫んで腕を振ると、回復魔法が城全体を包んだ。

地に倒れていた人々は起き上がり、

「何が起こったんだ?!

私は此処で何をしていたんだ?!」

とまたパニックに陥り始めた。

「皆さん、城が攻撃されています!

早く城の外に出て安全を確保してください!」

おそらく叔父の狙いはこの人達ではない。

その証拠に城の外は攻撃されていない。

僕は早く人々を城から出してしまわなければと思った。

「ランカス、皆さんをお願いします。

私は取り残された人がいないか中を見て来ます」

そう言うと、

「殿下、いけません!

私が行って参ります!」

そう言ってランカスが止めた。

「ランカスは逃げていく人たちをまとめて城の壁の外に出して!

逃げ道はわかるでしょ?

叔父上の軍団から外れるようにみんなを誘導して!

皆はあなたを信頼している。

僕よりも、あなたの言葉に聞き従うはずだ!

僕は大丈夫だから!」

そう言うと、

「殿下!」

ランカスの肩に担がれていたマギーが目を覚ました。

「殿下も一緒にお逃げください!

城に残ったものは……捨て置いて!」

そう言うマギーの手を取ると、

「無事だったんだ! 良かった。

マギー、僕は未来のこの国の王として誰一人として助けるべき者がいれば、
捨て置く事はできません。

マギーもランカスと一緒に人々を誘導して下さい。

その先で皆がマギーの助けが必要になります。

逃げた人々の中には女の人や子供もいます。

さあ、行ってください!」

僕は二人を推しやると、天井がまた崩れ僕達の間を隔てた。

「早く行って!」

怒鳴るように叫ぶと、ランカスが一間おいて、

「殿下、どうかご無事で!」

そう言う声と共に、パタパタと言う足音が
どんどん遠ざかって行くのが聞こえた。

”良かった、行ってくれた”

僕は城の奥を見つめると、

「誰か残ってる人は居ませんか?!

怪我をした人は居ませんか?!」

塞いだ行き筋を払い除けながら進んで行った。

「誰か残っている人は居ませんか?!

怪我をした人は居ませんか?!」

そう言って目の前にあった瓦礫の山を払い除けた向こうに
叔父を先頭とした十数人の人が僕に攻撃をする姿勢を向けていた。

”叔父上……”

そう呟いてジリっと一歩下がった。

叔父は、一歩前へ出ると、

「動くな! 動くとお前に向けた矢が一斉に放たれるぞ」

そう言いながら、ジリジリと僕に近づいて来た。

その時、倒れた壁の陰から

「ジェイド?」

そう言ってヒョイとアーウィンとマグノリアが顔を出した。

二人は僕に向けられた弓矢を見ると、
その場で固まった。

「何故来たんだ!

隠れてろってあれほど言ったのに!」

叔父は目ざとく彼らを見つけると、

「おやおや、これは大神官のアーウィン殿ではありませんか?

神殿に居るはずなのに、このようなところで何を?」

そう言ってアーウィンに近づいて行った。

アーウィンは真っ青になってその場に凍りついていた。

「叔父上、彼らには手出ししないで頂きたい」

そう言うと、叔父はチラッと僕を見てマグノリアの方を見ると、

「それに……此方に在わすお方はマグノリア殿下ではございませんか?」

そう言って叔父がマグノリアの顎をクイっと持ち上げた。

マグノリアは叔父をキッと睨むと、

「そう言うアーレンハイム公は甥であるジェイド殿下に矢を向けて
何をしていらっしゃるのでしょうか?」

と反論した。

叔父はフイっとマグノリアから手を離すと、

「殿下こそ此処で何をしていらっしゃるのですか?

貴方は確か婚約破棄となって国に帰られたはずでは?」

そう言うとマグノリアも負けずに、

「白々しいわね。

貴方が裏で手を回して婚約破棄へと追い込んだんでしょう?」

そう攻めよった。

「ん? まるで私が婚約破棄へと導いたような言い方をなさいますね?

そもそも殿下はジェイド殿下に嫁ぐ気はサラサラありませんでしたよね?」

「な、何を根拠にそのような事を!」

マグノリアがつかみ掛かるように言い放つと、
叔父はアーウィンにツカツカと近づいていき、

「殿下、貴方は我が国の大神官に懸想していますよね?」

そう言ってアーウィンの顔を覗き込むと、

「違う! それは単なる僕の片思いだ!

マグノリア殿下は潔白だ!」

と、アーウィンも負けずにマグノリアを庇おうとした。

叔父はフッと鼻で笑うと、

「綺麗な友情ですね。

庇い合いですか?! 愛ですねぇ~

でもですね、私は知ってるんですよ?」

そう言って僕の所へ近付くと、
僕を睨んで、

「お前は汚らわしくも男に懸想しているだろう?!」

そう言ってグイッと僕に顔を近付けた。

「なっ!」

僕はドキッとして目を逸らした。

「アイツが此処にいなくて残念ですね。

これでも彼の腕前は買っているのですよ。

行く行くは私の仲間に入れて、
その腕前を存分に払っていただこうと思っているんですよ。

それには殿下が邪魔でしてね」

そう言うと、僕に微笑みかけて僕から離れた。

「ダリルは叔父上の言い成りにはならない!」

そう言うと、

「おや、おや、私は誰とは言ってませんが、
自分からダリルと言ってしまいましたね」

そう言ってクルッと僕に背を向けた。

「本当に今日は付いていますね。

まさか此処に狙っていたもの達が勢揃いしているとは」

叔父のセリフに、叔父はマグノリアとアーウィンが
此処にいる事を知らなかった事に気づいた。

“僕は又間違ったのか?!

彼らを呼び寄せた僕の判断が彼らを危険に晒している”

僕はワザとらしくマグノリアとアーウィンに近づき抱きしめると、
二人の手を握りしめて、

「叔父上、どうか彼等は助けてください!

僕はどうなっても構いません!」

そう捲し立てるのに紛れて、

“今、デューデューを呼ぶ。

彼が来たら何も言わず、振り返らず逃げて!

叔父上が知らない、追って来られないところまで逃げて!

僕は多分殺される。

時戻しの術をかけるから、今度出会ったら絶対お互いを思い出そう!

そしてその時は絶対に叔父上に打ち勝つんだ!”

そう囁くと、アーウィンとマグノリアは僕の手をギュッと握りしめた。

僕はゴクリと唾を飲み込み息をス~っと吸い込むと、
力の限り叫んだ。

『デューデュー!

助けに来て!   

アーウィンとマグノリアを掴んで逃げて!』

僕の突然の叫びに叔父上のパーティーが一瞬怯んだ。

その隙にデューデューが風の如くかけて来て、
アーウィンとマグノリアを鷲掴みにしたかと思うと、
あっという間に飛び去って見えなくなってしまった。

余りにも一瞬の出来事で叔父上は成す術もなかった。

彼は僕に近づくと、

「よくもやってくれたな。

それに、あれは私の龍だ!

私が先に見つけたのだ! お前が横取りしていたのだな!」

そう言って頬を殴った。

僕はキッと叔父を睨むと、

「何故こんな事をされるのですか?!

叔父上は父上を尊敬し、ずっと支えると誓ったのではありませんか?!」

そう言うと、みるみる叔父の顔色が変わった。

「アイツは……王の器もないくせに、
髪が銀色だと言うだけでこの国の王になったのだ。

それを決めた聖龍も、聖龍が守っている
魔神の扉も私がコントロールすれば面白いだろうな」

そう言って僕の首を掴んだ。

「それにお前の父親はお前を置いて逃げた腰抜けだ。

どうだ? 父親に捨てられた感想は?!」

どうやら叔父は父が行方不明な事は知っているようだ。

「違う! 父上はそんな人ではない!

叔父上はご自分が仰っていることがどう言うことか分かっているのですか?!

自分が起こしていることが、どういう事だか分かっているのですか?!」

そう言うと彼はフンと鼻で笑い、

「私はこの世がどうなっても構わない。

私を認めなかったこの世なんて要らない。

魔神が壊してくれれば私の手間暇も省けると言うものだ」

そう言って立ち直しビシッと格好を整えると、
弓を構えた者達に腕を振って

「ヤレ」

そう合図した。

ヒュンっと唸って弓矢が放たれた瞬間、僕は目を閉じて、
ダリルの笑顔を思い浮かべた。

“ダリル、時を戻す前にもう一度会いたかった……

君の笑顔をもう一度見たかった…

責めて最後に一目でも会いたかった“

そう呟いた。

そして矢が突き刺さるドスドスという鈍い音が僕の目の前で響いた。

「えっ?」

異様な感覚に僕が目を開けると、
僕の前に立ち憚るダリルがいた。

彼は

「ゴフッ」

と咳をして血を吐くと、

「殿下、遅くなり申し訳ありません」

そう言って僕を包むように叔父から隠した。

「ダリル……どうして……

違う! これは違う!

僕は最後にダリルに会いと思ったけど、
こういうんじゃない!

僕は生きてダリルに会いたかったんだ!」

僕がダリルの頬を掴むと、彼は微笑んだ。

後ろでは叔父上がワナワナとしたようにして、

「何故お前が此処にいる!

折角巻き込まれないように他へやったのに!

何故お前が此処にいる!」

と、ダリルが此処にいる事にそうとうお冠なようだ。

「残念でしたね、アーレンハイム公。

貴方の計画は分かっていました。

だから、誰にも気づかれないように抜けだして来たんです……

間に合って良かった……」

そう言うと、叔父上が、

「そうか……間に合って残念だったな。

お前が手に入らないのなら、
お前は誰にもくれてはやらない」

そう言ったかと思うと、僕に負い被さるダリルの背中から
剣でダリルをついた。

ダリルは目を見開いて僕を見ると、
血をドバッと吐き出した。

僕はそんなダリルを見ると、
涙が流れて止まらなかった。

僕は彼の血を拭いて頬に手を置くと、

「ダリル、回復はしないから。

どうせ僕達はもう助からない……

どの時間帯に戻るのか分からないけど、
これから術を発動させるからまだ死なないで!もう少しもってね。

もし、出会う前に戻ってしまったら、
又君と巡り合うから!

だから又会おう!

僕の事を忘れないで…」

そう言ってダリルにキスをすると、僕はダリルにピッタリと抱きつき、
ダリルを突き抜けて出て来ている剣を自分の心臓目掛けて刺し貫いた。

ヒューヒューとする呼吸の中僕は大賢者に貰った術を発動させた。

僕達の周りを金色の光が包むのを確認すると、
術が発動されたことを悟った。

そして僕とダリルはピッタリとくっついて抱き合ったまま息絶えた。
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