龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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夢と現実

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「マグノリア、マグノリア!」

マグノリアはアーウィンに起こされて目を覚ました。

心臓がドキドキとしてそしてギュッとなった。

胸を鷲掴みにし、嗚咽したようにベッドにもたげかかると、
うわーんと大声でマグノリアは泣き出した。

「マグノリア……」

アーウィンは隣でマグノリアの肩を抱き、彼女が落ち着くのを待った。

ヒック、ヒックとしゃくり上げるマグノリアの肩にギュッと力を入れると、
彼女は少し落ち着いた。

「どう? 少しは落ち着いた?

一体どうしたの? ずっと泣いてたんだけど、悪い夢でも見た?」

そう言ってアーウィンがマグノリアの顔を覗き込んだ。

マグノリアはアーウィンの目を見ると、

「ダリルが……」

とボソッと言った。

「え? ダリル?

ダリルの夢を見てたの?

それで泣いてたの?」

マグノリアは首を振ると、

「分からない、凄く、凄く切なかったの……」

と言って目を伏せた。

「え? 切ないって……

ダリルに何か言われたの?」

マグノリアはアーウィンを見上げると、

「違うの。

ダリルは何も言わなかった。

私にニコニコとして近寄ってくると、
愛おしそうに私のお腹に手を置いたの……

本当に愛おしそうに…… まるで……」

そう言って下を向いた。

アーウィンが又マグノリアの顔を覗き込むと、
マグノリアはスーッと息を深く吸って吐き出した。

「ダリル……私が妊娠したことを知っていたのかしら……

でも私ね、ダリルに教えてあげたの。

『赤ちゃんが出来たんだよ。

ダリルとジェイドの分まで愛情込めてしっかりと育てるから』

ってそう言ったら……

ダリル……私に跪いてお腹に頬を当てて、
まるで赤ちゃんの心臓の音でも聞いてるみたいにして……

でも……ダリル、ジェイドと一緒に居なかったの……

だから……

『ジェイドは?』

って尋ねたら、私に微笑むの……

だからもう一度、

『ジェイドは何処? 一緒に居ないの?』

って尋ねたの。

彼は何も言わずにもう一度お腹を愛おしそうに優しく撫でてしっかりと抱きしめると、
何かを言いたそうにして私をジッと見つめたの。

その時の目がすごく切なくて……

でもハッとしたようにして上を向いて……

私もつられて上を向いてまたダリルを見たらもういなくなってたの……


ダリル……一体どうしたんだろう?  一体何が言いたかったんだろう?

私、ダリルが死んだ後、ジェイドと会えてないのかな?ってすごく気になって……」

そう言ってマグノリはまた泣き出した。

「時戻し……

一体あの時何が起きたんだろう?

何故時戻しが起きなかったんだろう……?

あの時僕たちが残っていれば、何かが変わったんだろうか?」

そう言ってアーウィンは拳を握りしめた。

二人の会話を聞いていたデューデューは、

「お前達がそんな弱気でどうする?

ジェイドが命をかけてお前達を逃したんだ。

お前達は助かった命を大切にするんだな。

お前達が生きてさえいれば、ジェイドとダリルの意思は受け継がれていく」

そう言ってス~っと姿を現した。

「そうだよね、もし私達が又弱気になったら、
デューデューがそう言って叱ってね」

そう言ってマグノリは涙を拭った。

その時に、ドアをノックする音がした。

「スーだよ! 朝食ができてるから、下の食堂までお願いしまーす」

そう言って昨日市場へ行く途中で会ったスーが、一つ一つの部屋に声を掛けていた。




昨日マグノリア達は医者に掛かった後、
ようやくマグノリアの体調の変化の理由が分かり、
調合してもらった薬で大分落ち着きを取り戻し、
その日はスーと母親が切り盛りする宿屋へ泊まる事に決めた。



「この先って言ってたからこっちの方向で間違いないわよね?」

少しウロウロした後、宿と言う看板が出ている建物を見つけた。

マグノリアとアーウィンは

”宿”

とだけ書いてある看板を見上げると、

「ここだよね?」

そう言って顔を見合わせた。

その宿は立派と言うには程遠い見た目だったが清潔感は保たれているようだった。

ドアを開けると、カーンと言う鐘を叩いたような音が、
人の訪れを知らせた。

ドアの左側に受付らしき小さなデスクが置いてあったが誰もいなかった。

「ごめんくださーい!」

マグノリアが声をかけると、奥からピンク色の髪をした若い女性が出てきた。

「あら、すみませ~ん、夕食の準備に追われていましたもので……

お泊りですか? お食事のみもございますよ?」

そう言うと、マグノリアがすかさず、

「泊りでお願いします!

出来れば数日程泊まりたいのですが」

そう言うと、

「はい、大丈夫ですよ。

お食事はつけられますか?」

の問いに、

「はい! 三食きっちりお願いします!」

と、薬の影響か、マグノリアがだんだん何時もの自分を取り戻し始めた。

女性は元気なマグノリアを見て微笑むと、

「はい、三食きっちり承りました」

そう言ってお辞儀をした。

「スー! スー!」

彼女はスーを呼ぶと、スーはどこからともなくやって来た。

「あっ! 市場のお兄さんとお姉さん!

本当に来てくれたんだ!」

そう言って喜びながらマグノリアとアーウィンに纏わりついて来た。

「あ、こら、スー! お客様にダメよ!」

女性がそう言ってスーを止めようとすると、

「大丈夫ですよ。 実は今朝、道に迷っている所をスーに助けてもらったんです」

そうアーウィンが言うと、

「そうよ、お母さん、ちゃんとうちの宿に来てくれたから大サービスしてあげてね!」

そう言ってスーは下をペロッと出した。

「本当に、この子は!

すみません、迷惑を掛けませんでしたか?

小さい町なので、見かけない人が来ると、はしゃいでしまって……」

女性が申し訳なさそうにそう言うと、

「いえ、いえ、スーには本当に助けてもらったので……

僕はアーウィンと言います。

彼女は僕の妻でマグノリア」

と、形ばかりではあるが、もうすかっりマグノリアはアーウィンの

”妻”

となっていた。

「ようこそノストロ島へ。

私は女将のルビーです。

そしてこれが娘のスーです。

ノストロ島は初めてですか?」

そう聞かれ、余りどこから来たのかなど詮索されるのは嫌だったので、

「ええ、まあ」

と簡易に答えた後で、

「それじゃ、スーがお部屋へ案内してくれるのかしら?」

話題を変えるようにそう尋ねると、

「あら、そうでしたわね。

立ち話に付き合わせてしまってすみません~

もうすぐお夕食の準備が出来ますので、
6時になりましたらこの奥にある食堂にいらしてください。

今夜のメインはお魚ですが、何か他にリクエストなどありますか?」

ルビーがそう尋ねると、マグノリアは首を振って、

「いえ、お魚大好きです。 夕食が楽しみです」

そう言うと、スーの方を見下ろし、

「スー、それではお部屋へ案内してくれるかしら?」

そう言うと、スーの手を取って二階にある部屋へと案内してもらった。

「ここがお姉さんたちのお部屋よ!

家で一番いい部屋なの!」

そう言って中へ入ると、中は割と広く、
掃除も隅々までいきわたっているようだった。

「お風呂は此処で、おトイレはこっち!

タオルはこの戸棚の中よ!

何か質問は?」

スーがそう尋ねると、

「ありがとう、大丈夫よ。

もし何かあったら、その都度尋ねるわ」

マグノリアが微笑んでそう言うと、

「じゃあ私はお母さんのお手伝いに行くから
6時になったら降りてきてね!

あ、それと、テーブルの上にあるバスケットは私
とお母さんが焼いたウェルカムクッキーが入ってるの!

後で食べてね!」

そう言うと、スーは戸を開けてクルッと振り返ると、
お辞儀をして戸を閉めた。

マグノリアはアーウィンを見ると、

「中々礼儀正しい子ね。

私がお城に居たら、是非私の侍女に欲しいくらいだわ」

そう言いかけて、

「そうね、もうあの生活には戻れないのよね」

そう言ってしみじみとした。

「マグノリア、後悔してる?」

アーウィンが心配そうに尋ねると、

「全然!っていえば嘘になるけど、
でも私はアーウィンと一緒に居れて、
この子も私達の元にやってきてくれて、
そこは全然後悔してないわ。

ただ、ジェイドとダリルは本当にあれで良かったのかな?

もっと何かできたんじゃないかな?ってそれが凄く後悔される……」

そう言ってマグノリアが俯いた。

暫く沈黙が続いた後、

「ねえ……」

マグノリアがそう言ってベッドに腰掛けると、

「私、赤ちゃん産まれるまでこの島に居ようと思うの。

デューデューの所ではきっとお産は出来ないと思うし、
此処だとアーレンハイム公に見つかるまで時間が稼げると思うし、
多分デューデューのくれた鱗で20年くらいは働かなくてもいいと思うし!」

そう言ってクスッと笑った。

「僕もそれは思っていたんだ。

此処には少なくとも医者がいるし、お産する設備も整っている。

お金にも暫くは困らないと思うし、どう? デューデューはどうしたい?

自分の家へ帰る? 

勿論デューデューには一緒に居て欲しいけど、
此処には海しかないし、きっとデューデューの生態圏とはかけ離れてると思うんだ。

それにずっと姿を隠したまま幼体で居るわけにもいかないし、
デューデューが帰りたいっていうんだったら僕は!」

アーウィンがそう言ってベッドの上を見ると、
デューデューは既に姿を現し、マグノリアとテーブルの上に置かれていた
ウェルカムバスケットに入ったクッキーの取り合いをしていた。

「デューデュー! もう、人が折角センチメタルに浸っていれば早速クッキー?!

それにマグノリア!

幾ら薬が効いてるからって、君はこれまで殆ど食事と言う食事をしてきてないんだから、
夕食の前にクッキー食べるのは辞めて!

もう、お母さんになるのに、これじゃ先が思いやられるよ」

と、アーウィンはもう既に父性本能が芽生え始めた様だ。

デューデューはアーウィンをチラッと見ると、

「この島の更に北に無人の島がある。

私はそこを狩の拠点として羽を伸ばすことにして……」

と言ったところで、マグノリアの顔がパーッと明るくなって、

「じゃあ、私達と一緒に居てくれるの?!」

そう言って目の前でクッキーを頬張っているデューデューに抱き着いた。

「まあ、お前たちが食事に行っている間、
私もその島の様子を見てこよう。

食事の後は私の鱗を買った人物に会いに行くんだろう?

私も一緒に付いて行く。

では、窓を開けてくれないか?

私は早速その島へ行ってこよう」

デューデューがそう言うと、そばに立っていたアーウィンが窓を開けた。

デューデューがヒュンッと窓から出ていくと、
帰って来た時の為に少しだけ窓を開けて於いた。

「マグノリア……」

アーウィンはそう言って真剣な顔をしてマグノリアに近づくと、

「あの……いい訳では無いんだけど、本当はずっと無理だと思っていたから……

だからずっと言えなかったんだけど、でもやっぱり僕は君が凄く好きなんだ。

赤ちゃんが出来たからって訳では無いけど、ずっと言えなかった事を言わせてください!」

そう言うと、マグノリアはキョトンとしたような顔をした。

アーウィンはそこに跪くと、

「マグノリア、僕は平民だけど、君を愛しています!

どうか僕の奥さんになってください!」

そう言ってアーウィンはマグノリアに手を差し出した。

マグノリアはそんなアーウィンを見て笑い出すと、

「クッキー食べてるところでプロポーズ?

夢に見ていた光景とは全然違うけど、私もアーウィンが大好き!

これからもよろしく!」

そう言って彼の手を取った。

「マグノリア…… 本当に僕でいいの?

僕は平民だよ? それも神官と言う職についてる平民だよ?」

マグノリアはアーウィンの頬に両手を添えると、アーウィンはその手に頬ずりをした。

マグノリアはアーウィンの目をしっかりと見ると、

「アーウィン、私は家を出た時に平民に下ったの。

私達に身分の差はないわ。

明日婚姻届けをこの町の役所に出しに行きましょう。

私、マグノリア・シュレードになるわ」

そう言うと、優しくアーウィンにキスをした。



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