龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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セシルの

“デューデュー!”

と呼ぶ声に上を見上げると、
木々の枝がバサバサと音を立て、
左右や上下に激しく揺れている光景が目に入った。

胸がドキドキとし始め、

“父さん……

本当に父さんなの?”

そう呟きながら、
眉を顰めパラパラと落ちて来る木の枝や葉が目に入ら無いよう
腕を額に当て空を眺めた。

一月ほど前に別れたばかりなのに、
こんなに早く再開するとは思っても居なかった。

それでも突然訪れた幸運に僕は目を凝らして
父さんの姿を探した。

でも何かがそこで引き起こす空気の揺れを感じるだけで
父さんの姿は見えなかった。

“姿を消してるんだな。

やっぱりセシルの言うデューデューは父さんなんだ……

でも一体何故……

二人は何処で知り合ったんだ?!“

そう思いながら空を眺めているとセシルは又、

「デューデュー!」

と父さんの名を呼んだ。

すると、

「うるさい! 聞こえておるわ!

今世でもお前は少しも変わらんな!」

そう懐かしい声がどこからともなく聞こえて来た。

そしてバサっと翼を一振りしたかと思うと、
ス~っと僕達の前に緩やかな風が流れ、
父さんが僕達の前に姿を現した。

「父さん!

やっぱり父さんだったんだ!」

別れて未だ一月ほどしか経っていなかったけど、
もう何年もあっていなような気がして父さんに飛びかかった。

「父さん! 父さん!

会いたかった!」

そうやって父さんに抱きつく僕を父さんはぎゅっと抱きしめると、

「未だ別れて一月も経ってないだろ?

お前はいつまで経っても子供だな」

そう言ってクスッと小さく笑うと、
セシルの方を見た。

父さんの目線に僕もセシルの方を向くと、
セシルはアングリとしたように口をぽかんと開けて父さんを見ていた。

「セシル? 

これが僕の父さんだよ。

これがセシルの言っていたデューデュー?」

そう尋ねると、セシルは

「え? え? デューデュー?って……

え~!!! 貴方、いつ人の姿になれるようになったの?!」

そう言って目をパチクリとさせた。

僕は訳が分からなく、
父さんとセシルの顔を交互に見た。

父さんはフッと微笑むと、

「思い出したのか?」

そうセシルに尋ねた。

セシルは首をブンブンと振ると、

「全然! でも、私は、セシルとして生を受ける前に、
別の人物として存在していたことを思い出したわ……

未だそれが誰だったのかは思い出してないけど、
でも、そこにはいつも貴方がいたわ……

それははっきりと思い出した!」

そう言って父さんに抱きつくと、

「デューデュー、貴方でしょ?

いつも私の側に居て私を助けてくれたのは貴方でしょ?!」

そう言ってワーワー泣き出した。

僕は訳が分からなく、
オロオロとしように父さんに抱きついて泣きじゃくるセシルを見つめた。

父さんは今まで見た事も無い様な優しい顔をセシルに向けると、

「確かに生前のお前達と共にいたのは私だ。

良くここまで思い出したな」

そう言ってセシルの頭を撫でた。

セシルはヒック、ヒックとしゃくりあげると、

「だって、世界一強い灰色の龍のデューデュー様だもん!」

そう言うと、父さんは少し照れた様な顔をして、

「あ、あれは、お前達が合言葉を決め兼ねていたからだろ!」

そう言って少し慌てた様にして返した。

するとセシルも、

「そうだったわね、あの時合言葉で……」

そう言った後、

「ねえ、その合言葉を決めた時にあそこに居た人達は誰?

デューデューは知ってるんでしょ?」

そうセシルが真面目な顔をして尋ねた。

セシルと父さんの会話に僕は益々頭がこんがらがって来た。

”合言葉? そこに居た人物?!“

セシルの口から次々に出て来る言葉に、
僕は少し変な緊張を覚えた。

手に滲み始めた緊張汗の様な物を感じると、
僕はズボンを握りしめて父さんの顔を見た。

父さんは少し目を細めてセシルを見つめると、

「私からそれを言うことは出来ない。

それはお前自身が思い出さなければいけない事だ」

そう言って彼女の頬を撫でた。

セシルは父さんに迫る様に、

「どうして?! どうしてデューデューから聞いたらいけないの?!

聞いても、思い出しても結局は同じ事でしょ?!」

そう尋ねたけど、父さんは首を振ると、

「それはお前達に与えられた試練だ」

そう言ってセシルを見た後、僕の方も見た。

”え?! 僕も?!“

そう思って眉間に皺を寄せ父さんを見返した。

セシルも、

「試練……?」

そう言って眉間に皺を寄せた。

父さんはこくりと頷くと、

「これからお前達を待ち受けるのは荊棘道だ。

無くした記憶を取り戻すと言うことは、
お前達が初めに通らねばならない試練だ。

私がそれをお前達に与えてやるわけにはいかない。

易しい道を通ろうと思うな。

それを越えられないと、
これから待ち受けるさらに大きな試練に
勝ち打つことは出来ないだろう。

私が一つ言えることは、
あの場に居た者は皆、
同じ様にその試練を乗り越えねばならない。

そのためにお前達はここに戻って来たのだ」

父さんがそう言い終えると、
僕は即座に、

「ねえ、それって僕もそこに居たって事なの?!

だから父さんは僕を育ててくれたの?!」

そう尋ねると、

「翠、私はお前を育てて来た中で、
多くのヒントを与えているはずだ」

そう言って僕の手を取った。

「お前が私から学んで来た事をもう一度思い返すんだ。

それだけが私がお前に言える事だ」

そう言うと、又セシルを見て、

「私はもう行かねばならない。

私もお前達同様、やらねばならぬ事がある」

そう言うと、セシルは泣きそうな声で、

「もう会えないの?!」

そう父さんに尋ねた。

父さんは首を横に振ると、

「いや、又直ぐに会えるさ。

私の用が済み次第、直ぐにお前達と合流しよう。

それにお前達が呼べば直ぐに私は駆けつける。

私はしばらく離れるが、お前達は決して離れるな。

そして共にあの場に居た者を探し出すんだ。

信頼できる仲間を増やして鍛錬に励め」

そう言うと、僕達二人に抱きついた。

「デューデュー……」

「父さん……」

僕達は強く父さんを抱きしめ返すと、
父さんはスーッと姿を隠し飛び去って行った。

僕が顔を顰めて泣くのを我慢していると、
セシルが僕の肩にしがみ付いてきた。

「デューデュー、戻ってきて~

一緒にいて……

ずっと会いたかったのに!」

そう繰り返すセシルに、

「ねえ、セシル、父さんが言った事を僕達でおさらいしよう。

君の記憶と、僕が父さんに教わった事でもっと先に進めるかもしれない」

そう言うと、セシルは顔を上げて僕を見た。

「ほら、涙を拭いて!

父さんは用が済んだら戻って来るって言っただろ。

それまでには少しは進展してないと、
父さんにがっかりされるよ」

そう言うと、僕の袖でセシルの涙を拭いた。

「そうね、翠のいう通りね!」

セシルは自分の頬をパンパンと気合を入れた様に叩くと、
タイミングよく

「お前ら此処に居たのか!

話し声が聞こえた様な気がしたが誰か居たのか?!

まさか山賊の残党じゃ?!」

そう言ってローティが僕達を探しに来た。

そしてセシルの少し腫れぼったい目を見て、

「セシル、お前、泣いてたのか?!」

そう言って近寄ってきた。

セシルはハッとした様にローティに向かって腕を伸ばすと、

「違うの! 気合を入れるために今頬を叩いたばかりなの!

山賊退治では騒ぐばかりで何の役にも立たなかったからね!」

そう言ってローティを遮ると、

「さあ、もう行きましょう。

馬車の具合はどうだった?!」

そう尋ねながらスタスタと歩き始めた。

ローティもセシルの後を追いながら、

「幌はダメになったが、
馬車は辛うじて動けそうだ。

ジュジュとリアの話ではあと1時間も走れば最初の村に出るらしいから、
もし馬車に不具合が起きればそこで修理が出来るらしいぞ。

こういう時のために一番最初の村には腕利の馬車の修理屋がいるらしい。

それに帝都もそこから二日あれば着くらしいから、
大した問題にはならないだろう」

そう説明してくれたので、
少なくともこの山からは何の問題も無く出られそうだ。

僕達は馬車へ戻ると、
直ぐに後ろの席に乗り込んだ。

馬車が出ると護衛の筈だった冒険者達は
可笑しい位に隅に縮こまっていた。

”アレ! 一体どうしたの?“

セシルがボソッと尋ねると、

”あ~ まあ、先の戦いで醜態を晒したからさ、
契約金を解約されるのを恐れてるんじゃないか?

おそらくもう使い込んでるだろうからな“

ローティがそう言うと、
それが彼らにも聞こえたのか、
ガタガタと震えて更に縮こまった様にして俯いた。

その姿が罠に追い込まれた小動物の様で、
僕はクスクスと笑い始めると、

”払ったお金は良いよ。

僕が全額受け持つよ。

今日はすごく良い事があったから僕は今、凄く気分が良いんだ“

そう言うと、

”山賊に殺されそうになったのにか?!“

そう言ってローティは僕を訝しげに見た。

事情を知っていたセシルは、

”良いのよ、良いのよ、
翠はちょっとパパの夢を見てご機嫌なのよね“

そう言うと、護衛の方を向くと、

「ねえ、貴方達!

全っ然役に立たなかったけど、
前金はもらってても良いわよ!

怖い思いさせたお駄賃ね!」

そう言ってププっと笑った。

途端冒険者達は深いため息を吐いて、

”いや、アレは山賊の数が多すぎた“

などと言い訳を言い始めた。

僕達は

”ヤレヤレ“

と言うようなため息を吐くと、護衛達は無視して
ローティがジュジュ達とおしゃべりを始めたのを確認して
セシルと父さんが言ったことについて復習し始めた。

「セシル、さっき父さんと話してたことについてだけどさ……」

僕がそう始めると、

「そうそう、私もずっとさっきから、
その事について考えてたんだけど、
所でさ、デューデューって何時から人の姿になるようになったの?」

と、予期しなかった質問をしてきた。

「え? 人の姿って……

父さんは最初から人の姿をしてたけど……」

そう答えると、

「ううん、私の記憶では、
デューデューは人の姿には変えれなかったはずよ」

と、僕の知っている事とは違う事を言ってきた。

「え~ちょっと待ってよ……」

そう言って少し考えてみたけど、
やっぱり僕の知っている限りでは、
父さんは人の姿になれた筈だ。

「う~ん、どんなに考えても、
僕が物心ついた時にはもう人の姿をしてたよ?

それよりも、君の記憶だよ。

君、セシルとして生まれる前って言ってたけど、
やっぱりそれってセシルは誰かの生まれ変わりって事?」

そう尋ねると、セシルは頷いた。

”生まれ変わり……

本当にそんな事が……“

未だに信じられない様な素振りをしていると、

「翠、デューデューの言葉から察すると、
貴方も誰かの生まれ変わりだと思うわよ」

そうセシルが言い切った。

「え~ 僕、前の記憶なんてこれっぽっちも無いんだけど……

セシルは父さんといた事を思い出したんだよね?

それを考えるとやっぱり……」

そう言い淀むと、セシルは

「私もね、思い出したのは、
何時も私の側にデューデューが居たって事だけ。

でもね、それが何時からなのかは分からないのよね」

そう言って首を傾げた。

「じゃあさ、ほら、合言葉がどうのって言ってたじゃ無い?

それってどうなの?」

そう尋ねると、

「それなのよ。

何故、合言葉って事になったのか覚えてないんだけど、
私たちが生まれ変わったって言うのを見ると、
前世を思い出すためだったんじゃ無いかしら?

合言葉を決めておいて、
それがきっかけで思い出せないか? みたいな?

私だったらそうするんだけど……」

セシルのその返事には納得するものがあった。

「じゃあさ、とりあえずわかった事を書き留めておこう」

僕はそう言うと、ストレージの中からメモ帳と鉛筆を取り出した。








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